また会おう、その時は絶対ナツ! 五十二球目
五十二
「一六三キロ……」
非常事態だったのは言うまでもないが、スピードガンで計測だけはしてしまった。現場はそういう雰囲気でないから僕だけに留めておこうと思う。
先週ヒメが紹介したかぎりではマシンの最高速度は一五〇キロだと言っていたのに、設定ミスもいいところだ。メーカーに問い合わせしておかないと。
ボールが僕の足下に転がってくる。
それを拾いあげる瞬間、ベンチにかけていた皆が一斉に真卯の元に駆け寄る。
「だ、大丈夫!? 真卯!」雪華。
「真卯、けがしてない? 真卯になにかあったらわたし……」小想。
「……真卯ちゃん!」冬葉。
「莉乃ちゃんも~、真卯ちゃんも~、危ないことは~め~、ですよ~」
南雲ちゃんだけ方向性が違う。必要ではある。僕も言われたい!
「あたしは平気だ。けど真卯が」
零れたボールを見つめたまま、微動だにしない真卯。
「真卯……?」
小想が確認する。
捕球ミスで手を痛めたのかと心配になっているとおもむろに口が動きだし、ボソッと。
「……くやしい」
そう口にした真卯の頬から、明らかに汗とは違う水滴が落ちる。
とても純粋で、〝それ〟を知っていても体験した者にしか訪れない、彼女だけの感情の表れ。
「――なにがそんなに悔しいんですの?」
途端、ヒメが聞く。
真卯の前に立ち、膝を折り、見上げる。
「今まで試合でだってストレートは落としたことなかったのに、捕り損ねたのがすごく悔しい」
「自信がありましたのね。私が今までの分も全部褒めて差しあげますわ」
「真卯、打つほうはうまくないからせめて捕手は誰にも負けたくなくて、毎日近所のバッティングセンターでずっと練習してる。だって……」
「――ほかの誰かに自分の居場所を取られるのが怖いから、かしら?」
えっ、と真卯がヒメを見る。
なんでわかったの、って顔をしている。
「お嬢さまって言うのはね。アニメや漫画に出てくる世間知らずのことじゃありませんのよ。いろんなところに行って、いろんな人と、毎日様々なお話をしますの。ですから、真卯のお悩みを見抜くなど容易いことですわ」
「お嬢さまってすごいんだね……それにくらべて、真卯の悩みは、ちっぽけ?」
「それはそれですわ。私にとって些細な悩みでも、真卯にとってはお気に入りのおもちゃのようなものですもの。比べてはいけませんわ」
「……?」
真卯が小首を傾げる。
ピンと来ていないようだ。
ってよりも、ヒメの通じづらい例えに困惑したのは真卯だけでなく、僕を含め、冬葉や莉乃、南雲ちゃんもハテナを浮かべていた。
どういう意味だったのかは、のちのち聞くとしてヒメは続ける。
「ナンバーワンよりオンリーワンですわ。胸を張ってキャッチャーをやりなさい。きっと真卯の努力は、真卯が思っている以上の人が知っているはずですから」
書き溜めていたものを皆さまに忘れられない程度に放出。この一近に関しましては、人気取りなどは連載当初から微塵もなく、あくまでも自身の習慣づけといいますか、感覚を忘れてしまわぬようにと練習といいますか、怠惰にならないようにする「薬」のような作品です。
だからと手を抜くような構成は取っておりませんが、できるだけ笑えるようになんだこれと思われる作品にこれからもしていきたい所存です。
では、また来週。ストックありますので。




