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一番近くにある日常 入!  作者: 友城にい
暑かりし、草野球編
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四十一・九 中野家の一族 後編~後継者・二代目奮闘編~

  四十一・九 中野家の一族 後編~後継者・二代目奮闘編~



 過去に恋人がいなかったわけではない。それなりの女性経験があって、いちいちドギマギするような甘酸っぱい感情も青春時代にたくさん経験していて、もう自分にはそういったウブっぽい心は忘れてしまったと思っていた。


 見合いは先方の要望で社長宅の敷地にある離れで行われた。

 ささくれひとつない畳に、4Sの行き届いた和室。躾も徹底しているのだろうか。見渡せる庭の冬景色も趣深い。


 なんとも格式の高さをまざまざと見せつけられている気分だ。

 ずっと考えていた。待つあいだもここまでの日々も、ずっと考えに考えていたが結局わからない。


 なぜ、自分なのか。


 なぜ、目下である父に頭まで下げたのか。


 なぜ、成人済みの長女~三女でなく末っ子の中学生の娘を差しだしたのか。


 なぜ、見合いを思春期真っ盛りの娘がなにも言わず、三十路前の自分と引き合わせることに文句を言っていないのか。


 Why、が浮かんでは溜まっていく。


 待つこと数十分、障子が開き、社長と歳の変わらなそうな母親らしき人物が先に入ってくる。会釈ひとつ取っても優美さに満ちた作法だ。


 続けて入ってくる使用人とそれに連れられた、鮮やかな赤を基調とした着物姿の女性。

 腰まで伸ばした清潔感のある髪。しっかり化粧の施された上からもわかる端整な顔つき。なによりも、どこかアンニュイな表情と雰囲気が目を惹く。

 途端、身体中が熱くなる。


 年増のいかない少女に一撃で恋に落ちてしまっていた。


 しかし、見合いの経緯けいいと条件を聞き、なぜの解消と共にとんでもない世界に足を踏みこもうとしていることを理解した。


 祖父からすれば逆玉だったのは間違いないが、地方の一営業マンに過ぎなかった自分が結婚ひとつで突然、最高責任者になるともなれば想像を絶する葛藤もあっただろう。

 が、やはり決め手は四子に対する恋心だったという。

 これにて初代社長の長い長い戦いが幕を下ろした。


 その後、会社経営を手探りでノウハウを学びながら四子とのゼロからの交際を楽しんだ。

 十六のタイミングで婚姻こそ届け出たものの、子は四子が十九になるまで待った。理由は至って簡単で、家庭に入れず高校まで行かせたからだ。

 当時は面倒がっていたらしいが、結果として行ってよかったと本人は語っている。


 経営状態については前述通り。


 二代目が初代からのアドバイスなしで意思決定した数少ない就任初期の実行は、組織内の意識改革だ。

 生産性の向上や企業価値、市場拡大などよりも、真っ先に社員の満足度の底上げをメインに取りかかった。

 元々、自身が勤めていたときから上層部への不信感や疑念は募るばかりだった。それもそうで、初代はここ二十年後継者のことで頭がいっぱいで、失念していた問題は山ほどあったわけで。

 業績も年々伸び悩んでいた。


 アパレルを兼ねた畜産農業の新事業の提案は、この頃に打ち出されたと言われている。初代としても猛省するところだったのだろう。

 社長を退いたことでリラックス効果もあったのかもしれないが。


 それはそれとし、就任から四子が高校を卒業するまでの三年間のプレセスは〝信頼〟に重きを置いた。

 雇用対策の充実、賃金の値上げ、有休取得率のアップ、休日出勤のNG化、なによりも社長である自身への親近感を持ってもらうため、積極的に従業員と交流を図った。


 二000年代初頭まで形としてあったが、社長室にこもることはしなかった。出張・視察などがなければ、一日の大半を部署内で行われる会議等に参加し、組織内部を知る努力を惜しまなかった。


 噂によると全社員の顔と名前を覚えていたらしい。産屋敷家の当主かな?

 この二代目の行動は、三代目の現社長も取り入れているぐらいだ。


 レクリエーション、社員旅行のような催しもたびたび行われるだけでなく、その社員たちの家族にも手厚い出産や結婚、入学などのお祝い金、遺族の逝去にも弔慰金ちょういきんを給付(一親等限定)している。


 当然といえば当然なのだが、役員らの不満文句が絶えることはなかった。それでも、浮いた利益で従業員の満足度を優先した。


 新しい技術も可能なかぎり検討に入れた。現場にいない上層だけで取り決めるのでなく、すべての実際に働く人たちに採用したいかの是非を委ねたのだ。


 二代目の経済理念が飾られるどころか、知る人さえ少ない。


『働くことは美学ではない。働く環境こそが労働者の原動力なのだ』


 まるで現代を見越したような理念。

 結果、従業員からの評判〝だけ〟が顕著に出た二代目。純利益のほとんどを還元広告費用にしていたため、この時点では国のベスト10にもランクインしていなかったという。


 今の労働力ブランド力の基本を作ったのは、間違いなく二代目だと断言するべきだろう。


 補足すると入社から二十五年間、厚生年金や雇用保険の全額負担などもしている。ここまで知っていると現社長の凄さがわかるものだ。


次回は22日。

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