お祝い企画 人気キャラランキング結果発表 六個目
大団円(?)で終わった僕と冬葉の物語。
それからもう三分の月日が流れようとしていた。
まぶたを閉じると見えるあの悠々とした日々のこと。
僕は再び、会場に意識を戻した。
明々と照らされたステージの上に三人は立っていた。
僕、ヒメ、莉乃の三人だ。
僕たちは今からゲームをする。
ルールは十分ぐらい前に説明した通りだ。
先攻は莉乃。莉乃は『六個の項目』から真剣にヒメに勝てる物を選ぶ。
「うーん。悩む……」
顎に手を当て、奥さんにプレゼントを買いにきた夫みたいに悩んでいた。
そんな莉乃を見て、ステージの前の席でお肉を食べ、拭いても拭いても汚してしまう幼子のような南雲ちゃんが声援を送る。
「莉乃ちゃ~ん、がんばれぇ~」
いつも通りのゆるーい声を精一杯に出して、応援する。
それに応えるように莉乃も「おう。勝ってサインもらうぜ!」と返す。
僕はあることに気づいた。
そう、一回戦は暇だった。
テストを解き終わり、残り時間を持て余す学生のように退屈しのぎを探す。僕は左右を見回し、ステージ前に座っている南雲ちゃんに目が止まった。
魅力がたくさん詰まった南雲ちゃんの容姿で、僕はまたある世界に飛ぶ――。
――ダイレ○トリンク。
~少年妄想モード~
彼女が僕の屋敷にやってきたのはちょうど一年前のことだ。
僕は次期大手コーポレーションの社長になる身として、毎日勉強と実技の日々を送っていた。
この日もいつもみたいに自室でパソコンを扱っていたと思う。
静粛な部屋が嫌いな僕は、音楽をかけて作業をしていると不意にドアをノックされた。
僕は「どうぞ」と短く合図を出すとドアが開き、回転式のイスを反回転させて入ってきた人物を確認する。
そこには美しい空色のメイド服を几帳面に整い纏った人――メイド長がいた。
お硬い方だけど、仕事や指導力を買い、三年前にメイド長に就任してもらったのだ。
働きだした当初はメガネをかけていたが、僕は不幸にもメガネ属性を持ちあわせていない。
僕のわがままにメイド長は、素直に応じ、真面目にコンタクトを使用している。
そんなメイド長が僕に一礼し、こう言った。
「お忙しいところなのは、充分承知しております。ですが、緊急事態が発生しました」
表情を見るかぎり、緊急には見えない。
だが、メイド長が直接僕のところに来るのはごく稀で、それこそ本当の緊急事態の時だけだった。大概はメイド長の独断で決めることが多い。
僕は何事だろうと「なに?」と尋ねた。
メイド長は、数秒の間を置いて、「それが……」と冒頭に添えて、
「先ほどお電話をいただき、本日メイドの一人が家庭の事情で辞めさせてほしい、と連絡をもらいました」
メイド長は簡潔にあったことを話す。
僕は顔色一つ変えず、彼女にこう言った。
「そっか。それは仕方ないね。じゃあ、一人メイドを募集しようか」
☆
数日後。
僕の屋敷で突如開いた屋敷のメイドを募集したことが、彼女との出会いだった。
メイド――それはすなわちご主人さまの身の回りのお世話をするフォーマルな主義者。
そう簡単に決定はできない。
なにせ家事炊事掃除洗濯をすべてまかせるのだから。
人はけっこう集まった。
「ベテランだ」て人もそれなりにいた。
けど、僕が今欲しい人材は、そういう人じゃない。
そう感じていた。
なんでもそつなくこなす人だけなら屋敷にいくらでもいる。
僕は自分でもどういう人が欲しいのか、わからなくなり虚空を見つめた。
絵に書いた餅。想像したものが現実に現れるはずもないことは、考えなくてもわかっているはずなのに、僕はまだなにかを期待せずにはいられなかった。
一人……また一人と面接室に入ってきては「――違う」と帰らせた。
今回は見送って、また次回に期待しよう。そう思い始めた。
「次が最後の方です」
メイド長の彼女がそう告げる。
僕は「そうか」と。ドアの向こうにいる方に「どうぞ」と投げかける。
すぐに「失礼しま~す」と間延びした声が返ってきた。
「なんだ……。バカにしてるのか」これが僕の彼女に対する第一印象だった。
けど、顔を上げ、彼女を視界に入れた途端、僕は激しくドクンと胸が高鳴ったのを今でも鮮明に憶えている。
ふわふわな髪質。たらんと垂れた大きな瞳。控えめの鼻。歳に似つかない目立つ豊満な胸。
それが彼女――吾妻南雲だった。
僕は一秒もせず、彼女を採用した。
そんな軽率な判断がのちに彼女を苦しめるとも知らずに――。
☆
彼女を採用して一ヶ月が経った。
――今僕の目の前にその人はいた。
白黒のゴシックな制服に身を包み、僕に微笑みかけてくれる。
首に勲章の形として、鈴の首輪をつけている。
僕は冗談半分のつもりだった。だけど、彼女は鈴の首輪を授けると僕にこう言ったんだ。
「ありがとぉございます。南雲。嬉しいです」
てね。
僕はおもわず見とれてしまったよ。
だって、彼女のことが――天使に見えてしまったからね。
仕事にもだいぶ慣れたころだろうと、僕は彼女を自室に誘ったんだ。もちろんそばで見ていたいからさ。
彼女は笑顔で「わかりましたぁ~」とOKをしてくれた。
一度部屋に呼ぶとつい癖になってしまう。
それから僕は彼女をしつこいぐらいに部屋に呼んだね。
そうしないと。自分を保つことができずに壊れてしまうんじゃないかって。そう思わずにはいられなかったからさ。
部屋に呼ぶといつも自分に自問自答を繰り返したよ。
「彼女に恋してる」のかって。
毎日。毎日。彼女がメイド服を着て、掃除用具を手に持っていると、手招きをしてしまっている自分がいた。
彼女は嫌な顔一つせず、僕のほうに駆け寄り、「なにかご要望がありますかぁ~?」これが彼女の開口一番だった。
部屋に彼女がいると自然と勉強が捗った。
なぜだろう、その時の僕には見当もつかないような感覚だった。
今にして思えば、ただの独占欲だったのかもしれない。
部屋での彼女は、いつも興味深そうに辺りをじーっと見て回っているか僕の貸した本を読んだりしていた。その時の彼女は草原に佇む妖精にも見えた。
そばに彼女がいる――それだけで僕は頭も指も嘘のように爽快な感覚でモチベーションを保てている。
あまりにも勉強に熱心になっているとあっという間に夕方の時間に指しかかっているってこともよくあった。
僕は踵を返すと、そこには猫がいた。
部屋に射す夕陽を浴び、僕のベッドの布団の上で気持ち良さそうに寝ている彼女が。
そんな彼女を見て、僕は「またやってしまった」と頭をぼりぼりとかいたものだ。
だってそうだろ?
部屋に呼んでおきながら話一つせずにパソコンに向かってカタカタと自分の作業をやっているだけ。
それならお出かけやら、同僚のメイドたちとおしゃべりでもしていたほうがまだ楽しいはずさ。
少なくとも特別な理由でもないかぎり、僕でもそうするかもしれない。
そのことを彼女に伝えた。
するとどうだろう。
彼女の顔が暗くなっていくではないか。
ここで僕はある気持ちに気づいた。
そうか。彼女も……。
一人でゆっくりと過ごしたいのではないか。
僕はすぐに彼女に「ごめん。キミのために言ったんだ。決して邪魔者扱いしているわけじゃないんだ」と伝えた。
彼女はすぐに顔を明るくさせた。一瞬だけ曇りがかかって、去っていった通り雨みたいに。
僕は続けるように「今日も、部屋に来ない?」と誘った。
彼女は迷いもしない笑顔で「はい」と返事をする。
幸せだった。ずっとこんな日々が続けばいい。そう思っていた。
しかし、彼女が来てもうすぐ半年が過ぎようとした時、悲劇が僕を襲った。
ノックもせず、どんな時も冷静なメイド長がドアを乱暴に開けて――
「ご主人さまっ! 南雲さんが……」
僕は気づいていたのかもしれない。ずっと前から。
その予兆はあった。
だが、僕は知らないふり、見てみぬふりをしていた。
その結果が――
つづく
まさかの妄想がつづく!
一応言っておきます。
『これは夜夏の妄想です』
はい。ではまた次回お会いしましょう。
友城にい