また会おう、その時は絶対ナツ! 二十九球目
何度もやっている展開の始まり方だが、次はヒメの番。
「要はバットに当てればいい、ってことですわね。莉乃にすぐできて私にできないわけないですわ。さあ、お姉ちゃんの胸にドーンときなさい」
金髪を靡かせて、胸を張る。
「じゃあ、標準をヒメのところに合わせますねー。はーい、いきまーす(棒)」
「ちょちょちょ、イイ感じ! ジョーダンですわ。マイ○ル・ジョーダン! たとえです。遠慮せず、投げこんでくださいまし、って意味です!」
「ああ、そうゆうこと。ごめん」
まあ、わかってるけど。
莉乃と同じ作戦で一六〇キロに設定して、ヒメに投じる。案の定、手も足も出ないのは言うまでもない。
「――くう。速すぎて腰が引けてしまいます。莉乃これ打ったんですの……」
「あたしの凄さを痛感しているようだな。そうだ。あたしはこれを乗り越えた。はたして、あたしと同じ土俵に立てるのか、姫夏。打てるものなら打ってみやがれ!」
「ぐぬぬ、莉乃めー。わかってますわ、そんなこと。次で打って、莉乃より遠くに飛ばして見せますわ。きなさい、ヨル!」
僕は設定してボールをマシンにセッティングしてるだけなんだがな。誰でもできるし。無駄に燃えるヒメにお膳立てでもなんでもないが、一五〇キロの勝負規則に戻して、マシンからボールが発射される。
「一、二の、三っ! っとりゃ! ――」
謎のかけ声と共に肩に乗せたバットが振りこまれる。なんということだろう。タイミングを計っていたかのように、ボールがバットに乗せられ――
「――お、重い……けど、私は、大の、負けず嫌いですから、負けられませんのーー!」
――すかーーーん、
爽快な音が僕のいる場所に響いてきた。打球は莉乃と同じで右側のライト線まで飛んでいった。
非力でもバットの芯の部分に当たれば飛距離が伸びるのは知っているが、これほどまでとは。
しかし、
「ファールだな。ああ、これもしかして一六〇キロならタイミングドンピシャだったんじゃね? 悪いことしたな……」
マウンドからホームベースまでの到達時間を計っていたとは考えもしなかった。一〇キロの誤差でバットに当たるタイミングが早まった。余計な手を加えた僕が悪かったな。
二球でそこまで考えてやっていたとは、すげえな。執念ってやつか?
「距離は莉乃より出ましたが、ヒットゾーンではありませんわね。勝負どうしましょうか」
打席が終わったヒメがベンチにいる莉乃を見る。
「負けたよ。完敗だ」
試合後に燃えつきたジ○ーみたいになっている莉乃がいた。
「でも」
「言っただろ、〝外野〟まで飛ばしたやつが勝ちだって」
言いかけるヒメを止めて、俯いたまま叫ぶ。
「たしかにそうですが」
「いいんだ。あたしより姫夏のほうが女松井になれる才能があるよ」
「莉乃……」
女松井……?
あの勝負内容ころころ変えるのやめてもらえます?
「女松井ですか。悪くないですわね」
「じゃあ、なんだ。左バッターはヒメで決定でいいのか?」
才能テストが終わりそうな空気だったので確認を取る。
「いいんですの? 冬葉と南雲も」
「わ、わたしは右でも左でも送りバントばかりする予定だったから、いいよ、姫夏ちゃんで」
「南雲も~型にはならないので~いいですよ~」
冬葉、振っても当たらない前提で送りバント作戦するつもりだったのか。把握しておこう。
南雲ちゃんの言動は少し気がかりだが、試合でなにかやるのか? そこも頭に入れておくか。
「みんなが私を指名するのでしたら、左バッターもやぶさかでないですわね。わかりましたわ。私、中野姫夏。四番に座り、見事ホーラムンを量産して差し上げますわ」
ホームラン予告のポーズで堂々と宣言する。大丈夫なんかな……心配だ。
「おーっと、誰が姫夏が四番だと言ったんだよ。四番はこん中で一番運動神経がいいあたしが四番に決まってんだろうが!」
「なんですってー。さっき一塁ベースまで飛ばせなかった人がなにを言いだしますの」
「あれは左打ちだからだよ。いつもどおり右で打ったら修理中の屋敷も壊せるんだからなー」
「あらそー。やれるものやってみなさいよ。さーさーさーっ!」
お互い煽り合戦が始まったので、「打順は試合前までの伸びしろで僕が決める」と言ってなだめた。ヒメが決めては莉乃が怒りそうだったので僕、主観でそこらへんは取り決めることになったのだった。
昨日に引き続き更新しました。
もうじき試合に入りそうです。四年分の遅れは取り戻せませんが、一番の不幸は「完結させないこと」と思っていますので、こうして夜夏たちの日常を書けているのは幸せなことだと実感しております。
どこまで調子を伸ばせるか、気分屋でありますが、投げたりすることはおそらくないと思いますので、付き合っていただける読者さまがもしいらっしゃるのでしたら、どうかよろしくお願いします。
友城にい 2019年10月25日




