また会おう、その時は絶対ナツ! 十六球目
ただ黙々とブラシで磨いては、水を撒いて洗剤をつけて磨き残しを布巾で拭き取るだけの作業が、淡々と過ぎる中。
浴槽掃除をやっていたヒメのほうから、ダルげな声が投げつけられてきた。
「はやくやらんかー」
「いいから早くやれ」
相手している暇はない。こんな体力を著しく消耗する作業に加えて、ツッコミなんかしていたら、いくら体力があっても持たないのだ。
「私はもうくたくたで、部屋で漫画読みたいですわぁー。誰ですの、こんな重労働などしようと言いだしたの」
言いだしっぺはあんただろ。なに責任転嫁しようとしてんだ。そう心の中で神経を使わない程度にツッコんで、掃除に戻ろうとする。
「そうですわ。遊びながら、掃除をしましょう。そうしましょう。そうとなれば、思い立ったが吉日。早くやりましょう」
パンと大きく手を叩く。浴槽から出てきて、ニコニコした顔でおいで~、と呼び集める。
ヒメと違って、真面目にやっていた冬葉は汗を拭う。暖も気づいて、「何事」だとヒメのところに来る。
一番近くにいながら、僕はぺたぺた水の音を立てて最後に並んだ。
「聞いて驚くなかれ。皆さまに、重大なお知らせが。これは利便性に長け、掃除も一緒にこなせるというじつに、一石二鳥でナイスなアイデアが、先ほど思い浮かびましたのですわ」
無理に難しい言葉を使いやがって。漫画知識か?
「それは真か。姫夏殿」
「作業が軽量化されるってことだよね」
嬉しそうにし、喜んでいる二人。ねぇねぇ、それってわざと合わせてるだけだよな?
あまり言いたくはないが、水を差すように注意を促した。
「あのさ、まさかとは思うが……『ホッケー』とか言うなよ」
「…………」
ヒメが僕から目線を逸らす。どうやら、図星に当たったようだ。
呆れるようにため息を吐く。僕も鬼じゃないし、意見が当たったからといって、やめさせるわけじゃない。
「で。ホッケーをするからって、チーム分けとか、ゴールとかはどうすんだ? 風呂場なんだし、そんなもの――」
そこまで言ったところでヒメから不気味な声が、漏れ始める。
「な、なんだよ……気持ち悪い声を出して」
肩を揺らしながら、僕をほう向き直って口を大きく開けて笑いだす。
「フハハハハハハハ、ヨルよ。私を誰だと思い?」
「バカ」
「そう、私こそが人類最強にして、人類を牛耳る支配者――『バカ殿』……って誰がバカですか!」
一人でノリツッコミをこなすヒメ。それになんだよ「バカ殿」って。
「私は、中野姫夏ことヒメですわよ。きちんと考えはありますわ」
こめかみを指でつついて、片方の手でパチンと鳴ら――なかったから、指真似だけやる。
「「「?」」」
三人に疑問符が浮かぶ。
ヒメが指パッチンをしたところで、なにも起こらない。どうしたんだ、と思いながらも見守っていると。
「少々おまちなってください。今、持ってきますから」
「「「ずさー」」」
セルフかよ!
そりゃそうか。この屋敷に使用人など一人もいないし。
ヒメが濡れたタイルを滑らないよう警戒しつつ、ドアから出ていく。一分ぐらいして、再び入ってくると手に、子供用のサッカーゴールを二個持って現れた。
それを自分の両サイドに置いて、僕たちに高らかに放つ。
「今からルール説明を行いますわ。まずはチームから。チームは私とヨル、暖と冬葉の『キョウダイ対決』にします。使用するスティック代わりは、お決まりのデッキブラシ。先に十五点先取で勝ち。身体のぶつけ合いは、基本的にOKにしますが、ブラシで叩いたり、殴打、噛む、髪を引っ張るなどの暴行は禁止。あ、ちなみに不可抗力は認めます。ですので、ヨルは思う存分、冬葉を押し倒したり、胸を触ったり、パンツに顔を突っ込んだりしてくださいな」
「やらねぇーよ! ……多分……」
パンツって、冬葉は体操服だし無理だろ。まあその状態になることは、不可能ではないが……ってなに考えてんだ、僕は。
「夜夏くん……優しくしてね?」
横の冬葉が上目遣いで僕を見つめる。時折、眼を動かして初々しさがあった。僕もなぜか、胸がドキドキしてくる。な、なんだ……これ。
「や、優しくってなにをだよ……」
一歩下がり、距離を取る。
「ヨル、ついに。私より先にだなんて……姉としては、複雑な心境ですわ。でも! 弟の祝福を喜ばなくて、なにが姉ですか!」
な、なんだ……。いったいなにを喜ぶんだ。
「兄として、妹の恋路の果てを見送ってやらなくて、なにが兄だ。少し寂しい気もするが、冬葉はあんなにも幸せそうな顔をしているじゃないか。いくらおれが冬葉を大事しているからって、相手もおれの大親友。目を瞑らず、まっすぐ祝福のコールを送ろう。笑って、笑って、応援してやるさ」
暖まで。冬葉の言った「優しくしてね」にいったいどんなメッセージが込められていたんだ……。
うーん、
わ、わからん……。
「夜夏くん……」
「な、なに?」
冬葉が頬を赤くして、僕の袖を握ってきた。
「そんなに悩まなくていいんだよ。いつもどおり接してくれたら、わたしは、うれしいから」
はにかむ冬葉。そこには、邪悪な思いなど微塵もない。
そうか。そうだよな。冬葉が意味の深い言葉を言うはずがない。なにを真剣に悩んでいたんだ。
いつもみたいに、「なにをだ!」とツッコンでいたら、よかったのかもしれない。
「夜、楽しみだね」
「ああ、僕もだ」
たしか冬葉の話を聞いてやる約束だ。
僕が、返事するとにやにやしていたはずのヒメと暖が、一気に顔色を変えて僕に迫ってきた。
「どういうことですの、今の言葉は!」「お、お前ってやつは、まだ高校生だぞ、おれたちは!」
同時に言い迫ってくる。生憎、僕は聖徳太子じゃない。
「さっきから、いったいなにを言ってんだ。僕は夜、冬葉と話をするって約束を……」
「「え?」」
僕の話を聞いて、ポカーン、と口を開ける二人。いったいどんな誤解してたんだ?
「なんですの」「なーんだ」
「「し○やじゃないのか(んですの)」」
「「ちょっとまてぇぇぇ(まってぇぇぇ)!!!」」
前よりも遅くなりましたが、続きです。どうですか。野球の話なのに、ホッケーを始めてしまうという展開。
そろそろ、試合(野球の)をしないと、何話になるかわかりませんね……。
とりあえず、次こそ早めに更新できるようがんばります!
友城にい




