お祝い企画 人気キャラランキング結果発表 三個目
20○○年。9月21日から~9月20日までの一年間の投票結果。
ご投票してくださった方々、本当にありがとうございました。
おかげさまで合計十万九三七一票もの我々の予想を大幅に超えるものとなりました。
「「アクセス数より多っ!」」
そんな僕と莉乃のツッコミを盛大に無視しつつ、ステージ上に立つヒメは進行をようやく始めた。
「ごほん、気を取り直して。では、ランキングを発表します」
その一言に僕たち四人に緊張が走り、喉を鳴らす。
「「「「ごくり……」」」」
「第……百位」
「「ちょっとまてーい!」」
僕と莉乃のツッコミが二回連続ハモったことはともかく。
「なんでそんなにある!」
僕の追及にヒメは顔色一つ変えずに答える。
「なんで、と言われましても、だっているでしょ? 百人」
「いねぇよ! 誰だよ、百人!」
「たとえば暖とか」
「出てねぇよ! 悲しいけどまだ未登場だよ!」
「名前は出ましたでしょ?」
「出たよ! たしかに冬葉の兄ちゃんだ、とかで名前だけは出たよ! でもまだ出てないだろ!」
「でも、ランクインしてますし」
「なんで!?」
「順位と獲得有効票も言いましょうか?」
「いや、いい……」
それを聞いたら、なんか暖に悪い気がする。
僕はイスに座り直し、ジュースを口に含む。
「そう。では栄えある第百位に輝いたのは……」
ぐるぐる~♪ ぐるぐる~♪ の意味のない音楽に乗せて。
「獲得数十五票で『すみれちゃん』です」
「「?」」
僕と莉乃が「誰?」と頭を捻らせていると、横の冬葉が察したように説明してくれる。
「ほら! 無印四話の『ねる・ネル・寝る=3』に出てきた『ワルい娘スキャンダル』の『すみれちゃん』だよ。忘れた?」
「「わかるかっ!」」
莉乃も同じ顔でツッコム。
その横の南雲ちゃんは「南雲はわかりますよ~」とお気楽そうだった。
「おもな理由に『俺もおしおきされたい』などです」
どんな作品だよ……。
「さて、どんどんいこうと思います。第九十九位は……」
また音楽が流れて、
「高西莉乃です」
「なんでだよ!? おかしいだろ!?」
莉乃が高らかにツッコム。
「あ、莉乃さんがスタジオに来ていらっしゃるようです。ではステージに来ていただきましょう」
ヒメがマイク片手に空いた手で莉乃に手招きをする。
それに莉乃は不機嫌そうに席を立ち、ステージに上がった。
「ご感想は?」と莉乃にマイクを向ける。
「納得いかない」
言葉の通り、ヒメの横に立つ莉乃は不満たっぷりにしていた。
まあ、そりゃそうだよな。
「夏、得意かな。だそうです」
「いってねぇーよ!?」
熱中症になったりしてたのに、得意ではないだろうよ。
「莉乃さんを選んだ理由に『オ、オラも絡まれたいんだなぁー』『ハァハァ……りのたん、ハァハァ……』などが千五百件ほど寄せられています」
「キモっ!?」
莉乃の心からのツッコミだった。
たとえ千五百件も来なくてもそれは怖かったり、恐ろしかったり、気持ち悪かったりするものだ。
「さあ、どんどん発表していきましょう」
「あのさ、なんでさっきから無視なんだよ!」
ついに我慢できなくなった莉乃がヒメに問い詰める。
「レギュラーの莉乃さんを破り、第九十八位に輝いたのは――」
「話し聞けよ!」
徐々に険悪になりつつあるステージに仲裁に行こうと立ち上がる。けどヒメは横目で莉乃を一瞥し、鼻を一回「ふぅー」としょうがなさそうに吹かすと莉乃を引き寄せ、耳に手を当てて、ごにょごにょとなにかを言いだした。
なにを吹きこんでるんだ? と気になるがそのあいだに話は終わった。
「しょ、しょうがねえな……今回は大目に見てやる」
!?
あ、あの莉乃がヒメの挑発から身を引いた……だと……。
ありえない……。
そんなバカなことを考えていると莉乃がこっちに戻ってきた。
何食わぬ顔で腰を落とし、フォークを手に持つと「ふひっ」とさっき莉乃がツッコんだ「キモっ!?」と言いそうになるが、我慢する。
僕は一度、二度、莉乃の様子を窺う。
するとそうだろう、フォークが曲がっているではありませんか。
フランスの貴族の方にもらった(お婆さまが言っていた)のを特別に使っていたのが、物の見事に曲がっているではありませんか。どうしよう、怒られるのかな?
あれ、たしかフォーク一本で五万ぐらいだったと思う。
それを知らずに必死に笑いを堪えている莉乃さん、パネェです。
莉乃の横に佇む南雲ちゃんを見ると、これでもか! てスピードでお肉を食べていた。
まあいいや、と思いながら、そうだとヒメに視線を戻そうとすると左肩をとんとんと叩かれる。
誰かはわかってるけどね。
「なに? 冬葉」
「聞き忘れてたんだけど、結局このお肉はなんのお肉なの?」
「え? ああ、そういえば言う前に冬葉が笑いこけたんだっけ?」
「そ、その話はもう流していいから……」
冬葉の照れた顔。これはシャッターを切りたい!
「とりあえず今は流しておこう」
「夜夏くんのイジワル……これから夜ワルくんって呼ぼうかな」
冬葉はぷいっとそっぽを向く。
僕はあたふたして急いでフォローする。
「じょ、冗談だから。あ、えっと……冬葉があんなに大笑いすることってないからさ。えっと……ほ、ほら、珍しいなあって」
僕にとっては精一杯のつもりでいたのだが……。
「も、もういいから。なんのお肉か、教えて」
冬葉はそっぽを向いたまま、そう言う。
怒っているのかな? でも逆の立場なら忘れてほしいところなのは明らか。
そう思うと冬葉はまだ寛大で優しいものだ。
僕は「よーし」と意味のわからない意気込みをして、答える。
「あの肉は、中野家が趣味の範囲で育てている牛の肉らしい」
「しゅ、趣味?」
「そう。当主が最高級の天然牛の肉が食べたい、というのがそもそもの発端らしいけど、僕もそれ以上は知らない。いわば世界でここでしか食べることができない『中野牛』ということになる」
中野家の事情は次期当主になれる一人の僕でさえ、把握はし切れていない。
僕は「どう?」と聞こうとすると、先に冬葉が口を開く。
「当主って…………あ、ごめんね、なんでもないんだけどね。…………そ、そうなんだ」
冬葉の顔が少しずつ曇っていく。
僕の気を遣ってくれているのもわかっていた。
僕は今度こそ「どう?」と声をかける。
「ど、どうって?」
そんな真正面から「どうてい?」とか困るんだけど……。違うか。僕は正真正銘のどうていです。
そんなことはさておき、
「肉。まだ冷凍室に三十キロほどあるんだ。お土産にどうですか?」
ダメにするのもなんか気が引ける。こんなしょうもない理由で加工場から送ってもらったものだから、冷凍室の一部を支配されるんだよ。
冬葉も圧倒されて声が出ていない。
「一キロでもいいんだ。ほら、どうせ捨ててしまうかもしれないし。それなら誰かに食べてもらったほうが牛も喜ぶかなあ~って」
これが本心なのか、と言われれば、はっきりいってわからない。けど――
「うん。ありがとうね」
冬葉は微笑んだ。
でも……なぜだろう、どこかぎこちない気が……いや、深く考えない。
「ああ~、南雲にもお肉くださ~い」
僕が悩んでいると端から南雲ちゃんが口元にソースをつけた顔でぷんすか怒っていた。
「う、うん。いいけど、どれぐらいいるの?」
「十五キロくらいくださ~い」
「「多っ!」」
本日何度になるかわからない莉乃とツッコミがはもった。
「わ、わかった。後日宅急便で送るね」
それを言うと「わぁ~い」という声が聞こえた。
僕はすっかり忘れていたことをヒメに言う。
「今からゲームしない?」
続き思いつかない……詰んだ。が、がんばるけど。