また会おう、その時は絶対ナツ! 十一球目
はい。嬉しいハプニングもありつつ、準備体操を終えた僕と冬葉は暖の練習に遅かれ、合流する。
「予定どおりランニングをする。えっと、ベースを最初なので軽く10周にしようか。いいな」
10周か……。しかも軽くって。
「遅くてもいいか?」
莉乃の質問。
「かまわん。ただし歩きはなし。せめて早歩きだ。いいな」
「はーい」と返事。
ホームから暖を先頭に僕が最後尾を走る。
ぴっぴっ、暖が笛を加えたまま鳴らす。
最初の一周、二周……。暖と距離ができて、三周……。四周目に入ったころには、暖とベース一個分の距離ができる。
だが、暖は気づく様子もなく、淡々と「ほーら、ペースあげるぞー」などと少しは後ろを見てくれと言いたくなる。
ヒメが、ぜぇぜぇ、息切れを起こす。そらまあ普段は一切の運動をしないからな。
次に並んで走る莉乃がこんなことを言う。
「あいつ……速くないか」
体力にそこそこ自信のある莉乃がこう言うのだ。おそらく素人ペースで暖はやっていない。いつもの癖だろう。
「呼ぶか?」
「いいよ。あいつの勝手にやらせろ。あたしらはあたしらのペースでやろうぜ」
「それもそうか。まあいつか気づくか」
ほぼ早歩きになりつつあるが、僕の前の二人が気になる。
「冬葉と南雲ちゃんは平気か?」
「わ、わたし、そろそろ……限界かも」
「南雲も~ヤバいかもですぅ~」
それもそうか。こんな炎天下。バテないほうが尊敬する。
「いいよ。二人は休んで。逆によく三周も走ったよ。暖には僕から言っておくから、ほら、抜けろ」
二人は頷いてから、スッとレーンから外れる。
「ほんであたしらはどうする?」
「抜けても暖は、気づかないだろうな。無我夢中だし。でも体力はつけたい、僕は」
「わ、私……休憩してもいいかしら。も、もう……むり」
きっと顔面を見たら犬みたいに舌を出して走っていることだろう。
「無理はよくないし、僕はべつに――」
「いいえ。よくないですわ、姫夏さん。だって、頂点を目指すんでしょ、こんなところでくたばっていちゃあ、あたしたちの夢はまたの夢。ここは根性の見せ所よ」
ああ、まだ続いてたのか、仲良し。
「そ、そうですわね。莉乃さんが頑張っているというのは、私ったらダメですわね……。わかりましたわ。もう少しだけ頑張ってみますわ」
莉乃に励まされ、元気が出たのか。フォームが元通りになった。
「計画どおり」
「? 莉乃なにか言った?」
顔を窺えない以上、どんな意図があっての発言なのか。
「あん? あたし今なにか言った?」
「え、なにも言ってないならいいが」
「そ。じゃあ暖に追いつくぞ」
「う、うん……」
たしか今「計画どおり」と聞こえたよな。いいか、べつに。
「姫夏さん、このままの勢いで暖を追い越してあげましょう」
「で、でも暖は体力バカですわよ。もやしのような私たちでは太刀打ちできるような相手では……」
今のペースを維持したいのか、それとも暖の運動バカを称賛しての発言なのか、いつもより弱気な声音を吐く。
「なにを言ってますの。あんな野球バカを飛び超えないでなにが『オリンピックで金メダル』ですか」
そんなことを約束してるのか。できるか、オリンピックを舐めんな。
「で、でも……もう二ベースの差が」
「関係ない。今は全然関係ないことよ。あたしと姫夏さんの結束は二ベースで離れるもの!」
ヒメは莉乃のほうに振り返る。その顔は、諦めが半分で。
「…………」
無言で返すヒメ。それに対し莉乃は、
「あたしなら二だろうと十ベースでもどんな距離が立ち塞がっても、全部凪倒して、壊してでも追いつき、追い越してみせる。そんな覚悟で野球の練習に励んでいるのよ。姫夏。あなたのどうなの!」
莉乃の熱い言葉。
「私は……」
決断を迫られるヒメ。その答えは……
「私……も、勝ちたいですわ、暖も」
「そうでなくっちゃ」
拳を作り、喜びを表現する莉乃。
「よし、行くぞ、夜夏」
「え、ああ」
僕に選択権はなしですか、そうですか。
僕の意見も聞かず、ググッと前に出たヒメと莉乃。僕も不自然に離れて、あとで暖にバカにされるのも野暮だ。足を踏みだすタイミングを速める。
「よーし、二人とも。かけ声を出しますわよ!」
ヒメの合図で、一、二、と声を出すが、
「なあ姫夏さん。本当にそのかけ声でいいのか? もっとほかに気合いの入るフレーズがあると思う」
莉乃の疑問。たしかにそうだな。
「なにか案がありますの?」
「そうだな。たとえば『一に気合い。二に気合い。三四がなくて、五に気合い』とかどうだ?」
「言いづらくないか、それ」
僕の安直な反論。
「もう少し短く、手軽で覚えやすいほうが、なじみ深く頭に入りますわ。少なくとも私は莉乃さんの意見を否定しませんが、ヨル〝が〟そう言っていますので」
「なんで僕に全押しつけ!?」
最初のほうどうみてもヒメの不満だろ。
「なら、もう一つ案がある。『一、二、三振。二二、三振』。どうだ!」
「縁起悪いわ!」
なんだよ、一、二、三振って。野球をやるってのに幸先願ってなさすぎだろ。
「ダメか。やっぱり」
「自覚ありか!」
僕の連続ツッコミにヒメが加わる。
「やはり、普通にいきましょうか。新しいのはまた後日ということで、どうですか?」
「さすが姫夏さん、その冷静さに感激さえ覚える! そこに痺れる。憧れるぅぅぅ」
きっと目に光輝かせていることだろうよ、今ごろ。
さて、定番のかけ声を上げつつ、そろそろ半周の六周目に入る。現の暖は二塁ベースを踏み、変わらず二ベース差あるが。
先頭のヒメがこちらに振り向き。
「今日もやって、くれるかな」
「イエス・ウィン……?」
莉乃の威圧。仕方なく。
「キャン……」
ざっざっざっざっざ、
三人の砂を蹴る音。
七周目……。
距離に変化がない。
ざざざざざざざ、
靴の底がすり減りそうな削れる音。
八周目……。
一・五周分ぐらいにはなっただろうか。
「まだいきますわよ」
「もちろんだろ」「ああ」
ずざざざざざざざざざざざざ、
砂嵐が起きそうなほどの音。
九周目……。
ついに一ベース差にまで詰め寄る。
「一気にたたみかけるわよ」
ずどどどどどどどどどどどどどどどど、
必殺技が生み出せそうな音。
十周目……。
暖の背後につける。
「覚悟なさい、暖」
「いきぜ」「おう」
左側に寄り、二塁ベースを踏む。
コーナーを曲がり、抜き去ろう――とした瞬間。
「お。やるな三人。だが……まだあまーい。生クリームより甘いぞぉぉぉ!」
「「「な、なんだってー」」」
インから抜きかけた僕たちのコーナースピードをいとも簡単に暖が被せてきたのだ。
「おれに敵うざなんざ、十年早い。一から出直してくるんだな。バイビー」
この時、思った三人の心に浮かんだ言葉が偶然なのか必然なのか一致した。
う、うぜぇぇぇぇぇー。
三塁に僕たちが来た時には暖はホームベースという名のゴール線を切っていた。
「やはり私たちでは現役に歯が立ちませんでしたわね」
「でもワクワクしただろ?」
「……そうですわね」
十周を無事走り終わった僕たち三人は、そのまま寝転んで、そんな会話をしたのだった。
暖はただの運動バカで野球バカではない! 本当は天然バカなのだ! つまりバカ!
友城にい
次回は5月26日に更新です。




