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一番近くにある日常 入!  作者: 友城にい
暑かりし、草野球編
26/78

また会おう、その時は絶対ナツ! 十一球目

 はい。嬉しいハプニングもありつつ、準備体操を終えた僕と冬葉は暖の練習に遅かれ、合流する。


「予定どおりランニングをする。えっと、ベースを最初なので軽く10周にしようか。いいな」


 10周か……。しかも軽くって。


「遅くてもいいか?」


 莉乃の質問。


「かまわん。ただし歩きはなし。せめて早歩きだ。いいな」

「はーい」と返事。


 ホームから暖を先頭に僕が最後尾を走る。

 ぴっぴっ、暖が笛を加えたまま鳴らす。

 最初の一周、二周……。暖と距離ができて、三周……。四周目に入ったころには、暖とベース一個分の距離ができる。

 だが、暖は気づく様子もなく、淡々と「ほーら、ペースあげるぞー」などと少しは後ろを見てくれと言いたくなる。

 ヒメが、ぜぇぜぇ、息切れを起こす。そらまあ普段は一切の運動をしないからな。

 次に並んで走る莉乃がこんなことを言う。


「あいつ……速くないか」


 体力にそこそこ自信のある莉乃がこう言うのだ。おそらく素人ペースで暖はやっていない。いつもの癖だろう。


「呼ぶか?」

「いいよ。あいつの勝手にやらせろ。あたしらはあたしらのペースでやろうぜ」

「それもそうか。まあいつか気づくか」


 ほぼ早歩きになりつつあるが、僕の前の二人が気になる。


「冬葉と南雲ちゃんは平気か?」

「わ、わたし、そろそろ……限界かも」

「南雲も~ヤバいかもですぅ~」


 それもそうか。こんな炎天下。バテないほうが尊敬する。


「いいよ。二人は休んで。逆によく三周も走ったよ。暖には僕から言っておくから、ほら、抜けろ」


 二人は頷いてから、スッとレーンから外れる。


「ほんであたしらはどうする?」

「抜けても暖は、気づかないだろうな。無我夢中だし。でも体力はつけたい、僕は」

「わ、私……休憩してもいいかしら。も、もう……むり」


 きっと顔面を見たら犬みたいに舌を出して走っていることだろう。


「無理はよくないし、僕はべつに――」

「いいえ。よくないですわ、姫夏さん。だって、頂点を目指すんでしょ、こんなところでくたばっていちゃあ、あたしたちの夢はまたの夢。ここは根性の見せ所よ」


 ああ、まだ続いてたのか、仲良し。


「そ、そうですわね。莉乃さんが頑張っているというのは、私ったらダメですわね……。わかりましたわ。もう少しだけ頑張ってみますわ」


 莉乃に励まされ、元気が出たのか。フォームが元通りになった。


「計画どおり」

「? 莉乃なにか言った?」


 顔を窺えない以上、どんな意図があっての発言なのか。


「あん? あたし今なにか言った?」

「え、なにも言ってないならいいが」

「そ。じゃあ暖に追いつくぞ」

「う、うん……」


 たしか今「計画どおり」と聞こえたよな。いいか、べつに。


「姫夏さん、このままの勢いで暖を追い越してあげましょう」

「で、でも暖は体力バカですわよ。もやしのような私たちでは太刀打ちできるような相手では……」


 今のペースを維持したいのか、それとも暖の運動バカを称賛しての発言なのか、いつもより弱気な声音を吐く。


「なにを言ってますの。あんな野球バカを飛び超えないでなにが『オリンピックで金メダル』ですか」


 そんなことを約束してるのか。できるか、オリンピックを舐めんな。


「で、でも……もう二ベースの差が」

「関係ない。今は全然関係ないことよ。あたしと姫夏さんの結束は二ベースで離れるもの!」


 ヒメは莉乃のほうに振り返る。その顔は、諦めが半分で。


「…………」


 無言で返すヒメ。それに対し莉乃は、


「あたしなら二だろうと十ベースでもどんな距離かべが立ち塞がっても、全部凪倒して、壊してでも追いつき、追い越してみせる。そんな覚悟で野球の練習に励んでいるのよ。姫夏。あなたのどうなの!」


 莉乃の熱い言葉。


「私は……」


 決断を迫られるヒメ。その答えは……


「私……も、勝ちたいですわ、暖も」

「そうでなくっちゃ」


 拳を作り、喜びを表現する莉乃。


「よし、行くぞ、夜夏」

「え、ああ」


 僕に選択権はなしですか、そうですか。

 僕の意見も聞かず、ググッと前に出たヒメと莉乃。僕も不自然に離れて、あとで暖にバカにされるのも野暮だ。足を踏みだすタイミングを速める。


「よーし、二人とも。かけ声を出しますわよ!」


 ヒメの合図で、一、二、と声を出すが、


「なあ姫夏さん。本当にそのかけ声でいいのか? もっとほかに気合いの入るフレーズがあると思う」


 莉乃の疑問。たしかにそうだな。


「なにか案がありますの?」

「そうだな。たとえば『一に気合い。二に気合い。三四がなくて、五に気合い』とかどうだ?」

「言いづらくないか、それ」


 僕の安直な反論。


「もう少し短く、手軽で覚えやすいほうが、なじみ深く頭に入りますわ。少なくとも私は莉乃さんの意見を否定しませんが、ヨル〝が〟そう言っていますので」

「なんで僕に全押しつけ!?」


 最初のほうどうみてもヒメの不満だろ。


「なら、もう一つ案がある。『一、二、三振。二二、三振』。どうだ!」

「縁起悪いわ!」


 なんだよ、一、二、三振って。野球をやるってのに幸先願ってなさすぎだろ。


「ダメか。やっぱり」

「自覚ありか!」


 僕の連続ツッコミにヒメが加わる。


「やはり、普通にいきましょうか。新しいのはまた後日ということで、どうですか?」

「さすが姫夏さん、その冷静さに感激さえ覚える! そこに痺れる。憧れるぅぅぅ」


 きっと目に光輝かせていることだろうよ、今ごろ。

 さて、定番のかけ声を上げつつ、そろそろ半周の六周目に入る。現の暖は二塁ベースを踏み、変わらず二ベース差あるが。

 先頭のヒメがこちらに振り向き。


「今日もやって、くれるかな」

「イエス・ウィン……?」


 莉乃の威圧。仕方なく。


「キャン……」


 ざっざっざっざっざ、

 三人の砂を蹴る音。

 七周目……。

 距離に変化がない。


 ざざざざざざざ、

 靴の底がすり減りそうな削れる音。

 八周目……。

 一・五周分ぐらいにはなっただろうか。


「まだいきますわよ」

「もちろんだろ」「ああ」


 ずざざざざざざざざざざざざ、

 砂嵐が起きそうなほどの音。

 九周目……。

 ついに一ベース差にまで詰め寄る。


「一気にたたみかけるわよ」


 ずどどどどどどどどどどどどどどどど、

 必殺技が生み出せそうな音。

 十周目……。

 暖の背後につける。


「覚悟なさい、暖」

「いきぜ」「おう」


 左側に寄り、二塁ベースを踏む。

 コーナーを曲がり、抜き去ろう――とした瞬間。


「お。やるな三人。だが……まだあまーい。生クリームより甘いぞぉぉぉ!」


「「「な、なんだってー」」」


 インから抜きかけた僕たちのコーナースピードをいとも簡単に暖が被せてきたのだ。


「おれに敵うざなんざ、十年早い。一から出直してくるんだな。バイビー」


 この時、思った三人の心に浮かんだ言葉が偶然なのか必然なのか一致した。



 う、うぜぇぇぇぇぇー。



 三塁に僕たちが来た時には暖はホームベースという名のゴール線を切っていた。


「やはり私たちでは現役に歯が立ちませんでしたわね」

「でもワクワクしただろ?」

「……そうですわね」


 十周を無事走り終わった僕たち三人は、そのまま寝転んで、そんな会話をしたのだった。

暖はただの運動バカで野球バカではない! 本当は天然バカなのだ! つまりバカ!


友城にい


次回は5月26日に更新です。

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