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一番近くにある日常 入!  作者: 友城にい
暑かりし、草野球編
23/78

また会おう、その時は絶対ナツ! 八球目

 ※これは「一番近くにある日常 入!」です。


「莉乃。これはどうやって投げればいいんですの?」


 ヒメがグローブを慣れない手つきで左手につける。


「投げ方の前に握り方を教えてあげるよ。ほら、手を貸して」


 右手で大雑把に握り締められているボールを両手でレクチャー。


「もう莉乃ったら、大胆ですわね」

「言うなよ。恥ずいだろ。あたしだって、姫夏のすべすべの手を触ってドキドキしてん……だ、あ……」


 莉乃の頬がポッとりんご色に染まる。


「ふふ、莉乃はウブなのね。こんな小さな手なら、どんな殿方でも」

「今は野郎の話をするのはナシだ! あたしは姫夏だけを見てたい!」

「莉乃……ふふ、わかりましたわ」


 ヒメの顔が一瞬驚きになるが、莉乃の心を読み取って優しく包みこむような母親の包容力で莉乃の手に重ねる。


「よせよ……。なら教えるからな」

「頼みますわ、莉乃」

「手はチョキだ」

「こうですか?」

「そう。さすが姫夏。呑みこみが早いな」

「そうですか? 照れますわ」

「照れることないよ。あたしは本当のことを言ったんだ。あとはそのままボールを包むだけ」

「こう……ですか」

「そう……だ……!」


 ヒメが突然、莉乃の背中に回り莉乃の身体すべてを抱きつつんだ。これには莉乃も咄嗟に声が出る。


「お、おい……ほかの目があるんだぞ。こういうことは……」

「嫌なんですの?」

「嫌じゃないけど……」


 莉乃の頬がさっきよりも真っ赤に染めあがる。もうヤカンでも沸騰しそうだ。


「莉乃は、手も小さくて、身体も小さいんですのね。私、莉乃のこと、食べていいかしら?」

「わ、あ、ほ、いきなり、なにを……食べるって」

「慌てている莉乃も好きですわ。食べるって、そのままの意味ですわ。莉乃の赤い髪も幼さをひた隠すためのつり上がった目も。全部、愛してあげる。そんな意味ですわ」

「っ~~~~~~」


 ヒメの落とし文句に莉乃は、声になっていない声で反応するしか成す術がなかった。


「野球も大切ですわ。でも――」

「でも……」


 莉乃の小さな肩に顔を乗せて、耳元で囁くように、


「もっと大切なこと、しましょ」

「は、はい……」



     ☆



「フライキャッチは、大体できるようになったな、みんな」


 僕、冬葉、南雲ちゃんを並べて長官位置になっている暖が言う。

 たしかに僕も失敗は五回に一回ぐらいの割合にはなった。


「お兄ちゃん、わたしうまくなったかな?」

「冬葉か? そうだな、もう少し練習が必要かもしれない。そうしないと試合で足を引っ張ってしまう」

「そ、そっか。がんばるね」


 意外に厳しい暖の言葉。まあ野球に命のかけている男だからな、仕方ないか。


「暖く~ん、南雲はどうですかぁ~」

「南雲ちゃんはセカンドだからな。よければ、サードをやってほしいくらいだ」

「さーど~?」


 頭に疑問符を浮かべる南雲ちゃん。


「サードは、三塁のところだよ。サードは強烈な打球が飛んでくる割合が高い。だからうまい人がやったほうがいいんだ」


 それって遠まわしに冬葉は下手で南雲ちゃんはうまいって言いたいのか? この解釈は僕が腐ってるのか。


「う~ん。南雲、痛いのいやです」

「そうだよな。まあサードは姫夏殿の助っ人が来るらしいし、まかせるとしよう」


 続けて暖が、


「最後に基本のキャッチボールをやっておこうと思う」

「たしかに野球の基本だな」


 僕がそう言うと。


「コンビはどうしようか」


 じゃんけんで決めるか、と提案するがそこに冬葉が、


「わたし、夜夏くんと組んでいいかな?」

「まあいいが、夜夏もそれでいいか?」

「べつにいいけど。僕もそんなにうまくないぞ」


 呟くように南雲ちゃんが「冬葉ちゃ~ん、ダイタ~ン」とからかう声がする。それに反応するように。


「な、南雲ちゃん……!? べつにそんなんじゃ」

「どうした、冬葉?」

「な、なんでもないよ!? は、はやくしよ。時間もなくなるから」


 ロボットみたいな動きで、カチャンカチャンと僕と距離を取る。


「じゃあ、楽しんでこいよ、夜夏。おれは、のほほんと南雲ちゃんとキャッチなボールをやるからさ」

「なんだよ。キャッチなボールって」


 二組に分かれて、僕と冬葉は、奥に移動する。

 ボールは冬葉が持っていった。

 横の暖と南雲ちゃんは、すでにキャッチなボールを始めている。暖が言ったとおり南雲ちゃんはけっこううまく、投げられたボールをきちんとキャッチできていた。

 こっちもゆったりとしたペースでやろうと冬葉に合図を送る。


「いいぞー。投げても」

「う、うん。いくよー。それー」


 砲丸投げのようなポーズからボールは放られた。

 当然、僕のところまで届くはずもなく、手前で落ちる。


「ご、ごめん……つぎは届くようにするから」

「気にするな。暴投されるよりかはマシ」

「ぼうとう?」

「僕より向こうに飛ぶってことだよ。捕りに行くのいやだし」

「そ、そっか」


 僕は冬葉の野球スキルを考慮しての、ひょろひょろ球でパス。

 おっとっと、と某お菓子の名前を出しつつ、スポッとグローブにキャッチ。


「夜夏。できたよ」

「一球で喜ぶよな。でも一歩全身だな」

「ねえ、わたし野球うまくなってる?」


 冬葉からの返球。今度はちょうどよい位置に来たので捕球。


「さっき暖にも聞いてたな」

「うん」

「そんなにうまくなりたいか?」

「夜夏くんはうまくなりたくないの?」

「うーん、そりゃなれるものならうまくなったほうが野球はおもしろいだろうけど。しょせんは今日はじめたかじり者だしな」


 冬葉に言葉を交わしつつのボールを投球。


「夜夏くんらしい意見だね。でもわたしって、ほら、運動できないでしょ」

「まあ、否定はできない」

「昔から教室で本を読んでて、体育も大概、見学して、いわゆる文学少女だった。今も変わらないかもしれないけど」


 それは恋愛話を聞いたときに冬葉が話してくれたな、たしか。外に連れ出してくれたのが、兄である暖。そんな話だったと思う。


「わたしね、チャンスだと思ってる」


 投げ方は相変わらずだけど、きちんと僕のところまでボールが届いてきてる。


「チャンス?」

「うん。運動嫌いを克服できるかなって。そうしたら、もっとみんなとスポーツをして遊べるのかなって」


 だいぶ様になってきている冬葉に向かって、ボールを投げる。


「できるよ。冬葉なら」


 パシッとグローブに収まる音。


「本当? 嘘とか気休めはいらないよ」

「嘘じゃない。僕にそんなスキルはないし」

「そっか。わたし、もっとうまくなって夜夏くんよりもみんなよりもうまくなるからね」

「おう。僕も抜かれないようにそれなりにやる気を出さないとな」

「わたしに本気を知らないな」

「冬葉の本気? 僕が一生懸命に書いた小説を破る程度の?」

「そんな陰湿なことしないよ! もう~」


 僕が笑いながら、ごめんごめん、と謝るが、


「これでも捕りに行っちゃえ、夜夏くん!」


 砲丸投げからやり投げみたいなスタイルになって、僕の後方にボールが飛んでいった。


「あーっ!」

「むふー。参ったか!」

「本当にごめん」

「わたしを怒らせると怖いと有名なんだよ」


 そうみたいです。

 僕は、芝生のおかげで止まっているボールを捕ると、中央から。


「みなさーん、重題発表ですわ」


 百合茶番を繰り広げていたヒメが、大きな声で告げる。

 僕が、聞き返すように。


「なんのだー」

「聞いて驚くおくんなまし。なんと、〝試合相手が決まりました〟わ」


 昼に申請したのに、もう決まった対戦相手。


 しかし、その相手というのは――


冬葉とキャッチなボールをしたいですね。そんな妄想をしながら書きました。


友城にい

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