表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一番近くにある日常 入!  作者: 友城にい
暑かりし、草野球編
20/78

また会おう、その時は絶対ナツ! 五球目

「おっ! けっこう飛んだなー」


 手をかざして、打球の方向を見る暖。

 僕も白球の行方を気にして、空をさがした。今日は快晴。といっても空にはそれなりに、わたあめみたいなふわふわしてそうな雲がいくつか。それと重なって暖みたいに最初から見ている人と違って、さがすのが大変だった。

 ヒメ本人は、振りきったスイングの反動で尻もちをついたようだ。背後からずさーという音がしたからわかった。

 滞空時間にして五秒。ヒメの打った球は、それなりの距離を放っていて左方向のところで、ポトンと落ちた。


「ヒメけっこう飛ばしたな。たいしたもんだ」

「ふっふっふ。どう、尊敬しますか?」

「ああ、尊敬する。さすが僕の姉だ」


 そう言うとヒメからの返事はなかった。


「?」


 気になり、ヒメの顔を覗きこんだ。


「なに顔を赤くしてんだよ。暑いか? もしそうなら、休んでもいいんだぞ。ねっちゅ――ぶへっ」


 心配して気を遣ってやったのに、いきなり顎をアッパーで殴られた。どゆこと?


「私。自由に体温調節ができるんですの。心配なさらず」

「初めて聞いたわ、そんな設定!」

「おーい。姫夏の記録、六十四メートルだからな」

「わかった」


 計測係の莉乃から聞いて、そのままヒメに伝えると。

 ヒメはいきなりバットで僕に突きつけた。


「ヨル。早く投げなさい。莉乃に負けてはいられませんので」


 なんだかやる気満々だ。

 三球目。四球目とずっこける空振りを披露。

 あっという間に最後の一球。


「どうする。あと一球だぞ」

「わかってますわ。安心なさい。私には『秘策』がありますの」


 燃えていた。

 髪が逆立っているようにも見える。どんだけ賭けてんだよ、この戦いに。


「気絶させるとか替え玉とかはなしだぞ。ズルは嫌いだ」

「うっ」

「今『うっ』って言わなかったか?」

「言ってませんわよ? 気にせいか、冬葉じゃありません?」

「わ、わたし言ってないよ!」

「わかってるから……」


 冬葉が動揺していた。おい。変な濡れ衣を着せるな。


「それで秘策は?」

「まあ、それは投げてみてからのお楽しみということで」

「なんだよ。まあいい。あと一球だ」


 それだけを言い残しマウンドに戻る。

 僕は、肩に息を吹きかけ、手に力を入れた。


「いくぞ」

「おまかせあれ」


 僕は足を上げ、指からボールを滑らせる。よし。思ったとおりのエールを描いた。

 投球は円を辿り、ヒメのおへそのラインを水平に沿った場所に行く。絶好球だ。

 バットを振る。

 見事な素人スイング。だがそれでいい。

 僕はそこまで計算して投げたつもりだ。

 コンマ数秒――

 吸い込まれるようにバットの芯にボールが当たり――


「あーあ、打ちあげたなぁ」


 暖が空を見上げ、言った。

 そのとおりにボールは暖やヒメの上空にまっずぐ飛んでいった。いわばキャッチャーフライってやつ。

 ボールの下を叩いたのだろう。

 数秒の時を得て、ボールは暖のミットに収まる。


「姫夏殿の完敗でございますな」

「そうみたいですわね」


 ヒメは悔しいようにしていない。

 それはいいのだが……。


「やーい。姫夏の負け~」


 案の定、莉乃が駆け寄った早々、そう口にする。まあこれを言うために勝負したようなもんだからな。


「そうですわね。私の完敗ですわ」

「な、なんだよ。気が狂うじゃねえか」


 莉乃が少し困った顔をする。レアかもしれない。


「莉乃。バッティング。教えてくださる?」

「気持ちわりーな……。裏でもあるんじゃねえか」


 疑心暗鬼の莉乃。当然か。


「純粋に野球をうまくなりたいだけですわ。楽しいですわね、野球」


 とびっきりの笑顔。おもわず僕でさえ、頬が緩んでしまいそうだ。


「わ、わかったよ。言っとくが、あたしの特訓は厳しいからな」

「承知の上ですわ。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げるヒメ。本当に不思議な光景だ。初めて見る。


「ふん」と鼻を鳴らして、莉乃とヒメはフェンスの脇に移動していった。


 そこに僕の横に一つの影が……


「勝手に勝負して。勝手に解決して。勝手に個人練習。お前の仲間たちには頭があがらんな」

「僕もだよ。でも」


 暖は二人を厳格な目で見る。


「愉快で自由きままな、いい仲間。退屈はしないよ」

「そうだな。じゃあ四人で守備練と打撃練。どっちがいい?」


 暖がそう聞く。

 さすがに僕だけで決めるわけにもいかないので、


「冬葉と南雲ちゃん、どっちがいい?」


 暇そうにしていた二人。でも額には汗が流れていた。それもそうか。

 話しかけられ、少し元気そうに駆け寄ってきて、


「ようやく出番がきました。ね、南雲ちゃん」

「そうですねぇ~」

「え?」

「野球が始まって、ずっとわたしと南雲ちゃんは空気だったから」

「南雲は、莉乃ちゃんに投げましたけどねぇ~」


 ゴーン、と吹雪くような鐘を衝く音。おそらく冬葉から。


「うう……南雲ちゃんのバカ! それは言わないでよ……」


 なんだかわからんが、よーくわかった。とりあえず僕たちが相手すればいいんだろう。


「よし。どっちにする?」

「バット持ってみたいです」

「南雲もそっちでぇ~」

「わかった。暖、バット三本」

「あいよ。おれの持参した金属バットと姫夏殿が用意してくれた木製バット。どっちがいい?」

「どっか違うの?」


 僕は聞く。よくわからんし。


「全然違うぜ。まあ木製のほうが重いし。飛距離も抑えられる。プロが木製使うのはそれが主な理由だ」

「なるほど。じゃあ、金属で。なるべく重くないやつので頼む」

「わたし、これでも力はあるほうです!」


 と、強がり。でも僕は冬葉の非力さをよーく知っている。

 なので、嘘をついて小学生が使う野球用のバットを渡すことにした。


「お、重い……これは僕には無理だな。冬葉、これどうだ?」

「よーし。わたしの本気。魅せてあげます」


 両手でガッツポーズ。愛でたい。


「大丈夫か? 無理はするなよ。ケガされたら元も子もないからな」

「心配ないさぁー(某被り物芸人風)」


 空を仰ぐように雄たけびを上げる。

 なんで大西ラ○オン?


「じゃ、ほれ」

「がってん……だ……」


 手に持つほうを冬葉に渡し、握った。「触り心地いいんだね」と余裕そうにする冬葉だが、僕が手を放した途端、太さのある重さで、打つほうを地面に叩きつける。


「大丈夫か、本当に」

「うぅ……うぅ……」


 ただ可愛く唸っているだけだった。


「無理しなくていいぞ。振れなきゃ意味ないんだし。自分に合ったものを……」


 途中で言うのをやめる。

 冬葉が必死に頑張っていたから。


「ふぅ……ん! わたし……試合するなら、これで打ちたい。これで打たせてください」

「お、おう……」


 グングンくる気迫に押し負けて、背後を見る。

 すると。


「うっ……うっ……」

「どうした?」


 暖が男泣きしていた。


「たくましくなったなあ。兄ちゃん感激。それと……少しさみしい……」


 暖が切なさを。

 冬葉が一つ強くなった日だった。


弱気な冬葉とさよなら。


友城にい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ