また会おう、その時は絶対ナツ! 五球目
「おっ! けっこう飛んだなー」
手をかざして、打球の方向を見る暖。
僕も白球の行方を気にして、空をさがした。今日は快晴。といっても空にはそれなりに、わたあめみたいなふわふわしてそうな雲がいくつか。それと重なって暖みたいに最初から見ている人と違って、さがすのが大変だった。
ヒメ本人は、振りきったスイングの反動で尻もちをついたようだ。背後からずさーという音がしたからわかった。
滞空時間にして五秒。ヒメの打った球は、それなりの距離を放っていて左方向のところで、ポトンと落ちた。
「ヒメけっこう飛ばしたな。たいしたもんだ」
「ふっふっふ。どう、尊敬しますか?」
「ああ、尊敬する。さすが僕の姉だ」
そう言うとヒメからの返事はなかった。
「?」
気になり、ヒメの顔を覗きこんだ。
「なに顔を赤くしてんだよ。暑いか? もしそうなら、休んでもいいんだぞ。ねっちゅ――ぶへっ」
心配して気を遣ってやったのに、いきなり顎をアッパーで殴られた。どゆこと?
「私。自由に体温調節ができるんですの。心配なさらず」
「初めて聞いたわ、そんな設定!」
「おーい。姫夏の記録、六十四メートルだからな」
「わかった」
計測係の莉乃から聞いて、そのままヒメに伝えると。
ヒメはいきなりバットで僕に突きつけた。
「ヨル。早く投げなさい。莉乃に負けてはいられませんので」
なんだかやる気満々だ。
三球目。四球目とずっこける空振りを披露。
あっという間に最後の一球。
「どうする。あと一球だぞ」
「わかってますわ。安心なさい。私には『秘策』がありますの」
燃えていた。
髪が逆立っているようにも見える。どんだけ賭けてんだよ、この戦いに。
「気絶させるとか替え玉とかはなしだぞ。ズルは嫌いだ」
「うっ」
「今『うっ』って言わなかったか?」
「言ってませんわよ? 気にせいか、冬葉じゃありません?」
「わ、わたし言ってないよ!」
「わかってるから……」
冬葉が動揺していた。おい。変な濡れ衣を着せるな。
「それで秘策は?」
「まあ、それは投げてみてからのお楽しみということで」
「なんだよ。まあいい。あと一球だ」
それだけを言い残しマウンドに戻る。
僕は、肩に息を吹きかけ、手に力を入れた。
「いくぞ」
「おまかせあれ」
僕は足を上げ、指からボールを滑らせる。よし。思ったとおりのエールを描いた。
投球は円を辿り、ヒメのおへそのラインを水平に沿った場所に行く。絶好球だ。
バットを振る。
見事な素人スイング。だがそれでいい。
僕はそこまで計算して投げたつもりだ。
コンマ数秒――
吸い込まれるようにバットの芯にボールが当たり――
「あーあ、打ちあげたなぁ」
暖が空を見上げ、言った。
そのとおりにボールは暖やヒメの上空にまっずぐ飛んでいった。いわばキャッチャーフライってやつ。
ボールの下を叩いたのだろう。
数秒の時を得て、ボールは暖のミットに収まる。
「姫夏殿の完敗でございますな」
「そうみたいですわね」
ヒメは悔しいようにしていない。
それはいいのだが……。
「やーい。姫夏の負け~」
案の定、莉乃が駆け寄った早々、そう口にする。まあこれを言うために勝負したようなもんだからな。
「そうですわね。私の完敗ですわ」
「な、なんだよ。気が狂うじゃねえか」
莉乃が少し困った顔をする。レアかもしれない。
「莉乃。バッティング。教えてくださる?」
「気持ちわりーな……。裏でもあるんじゃねえか」
疑心暗鬼の莉乃。当然か。
「純粋に野球をうまくなりたいだけですわ。楽しいですわね、野球」
とびっきりの笑顔。おもわず僕でさえ、頬が緩んでしまいそうだ。
「わ、わかったよ。言っとくが、あたしの特訓は厳しいからな」
「承知の上ですわ。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるヒメ。本当に不思議な光景だ。初めて見る。
「ふん」と鼻を鳴らして、莉乃とヒメはフェンスの脇に移動していった。
そこに僕の横に一つの影が……
「勝手に勝負して。勝手に解決して。勝手に個人練習。お前の仲間たちには頭があがらんな」
「僕もだよ。でも」
暖は二人を厳格な目で見る。
「愉快で自由きままな、いい仲間。退屈はしないよ」
「そうだな。じゃあ四人で守備練と打撃練。どっちがいい?」
暖がそう聞く。
さすがに僕だけで決めるわけにもいかないので、
「冬葉と南雲ちゃん、どっちがいい?」
暇そうにしていた二人。でも額には汗が流れていた。それもそうか。
話しかけられ、少し元気そうに駆け寄ってきて、
「ようやく出番がきました。ね、南雲ちゃん」
「そうですねぇ~」
「え?」
「野球が始まって、ずっとわたしと南雲ちゃんは空気だったから」
「南雲は、莉乃ちゃんに投げましたけどねぇ~」
ゴーン、と吹雪くような鐘を衝く音。おそらく冬葉から。
「うう……南雲ちゃんのバカ! それは言わないでよ……」
なんだかわからんが、よーくわかった。とりあえず僕たちが相手すればいいんだろう。
「よし。どっちにする?」
「バット持ってみたいです」
「南雲もそっちでぇ~」
「わかった。暖、バット三本」
「あいよ。おれの持参した金属バットと姫夏殿が用意してくれた木製バット。どっちがいい?」
「どっか違うの?」
僕は聞く。よくわからんし。
「全然違うぜ。まあ木製のほうが重いし。飛距離も抑えられる。プロが木製使うのはそれが主な理由だ」
「なるほど。じゃあ、金属で。なるべく重くないやつので頼む」
「わたし、これでも力はあるほうです!」
と、強がり。でも僕は冬葉の非力さをよーく知っている。
なので、嘘をついて小学生が使う野球用のバットを渡すことにした。
「お、重い……これは僕には無理だな。冬葉、これどうだ?」
「よーし。わたしの本気。魅せてあげます」
両手でガッツポーズ。愛でたい。
「大丈夫か? 無理はするなよ。ケガされたら元も子もないからな」
「心配ないさぁー(某被り物芸人風)」
空を仰ぐように雄たけびを上げる。
なんで大西ラ○オン?
「じゃ、ほれ」
「がってん……だ……」
手に持つほうを冬葉に渡し、握った。「触り心地いいんだね」と余裕そうにする冬葉だが、僕が手を放した途端、太さのある重さで、打つほうを地面に叩きつける。
「大丈夫か、本当に」
「うぅ……うぅ……」
ただ可愛く唸っているだけだった。
「無理しなくていいぞ。振れなきゃ意味ないんだし。自分に合ったものを……」
途中で言うのをやめる。
冬葉が必死に頑張っていたから。
「ふぅ……ん! わたし……試合するなら、これで打ちたい。これで打たせてください」
「お、おう……」
グングンくる気迫に押し負けて、背後を見る。
すると。
「うっ……うっ……」
「どうした?」
暖が男泣きしていた。
「たくましくなったなあ。兄ちゃん感激。それと……少しさみしい……」
暖が切なさを。
冬葉が一つ強くなった日だった。
弱気な冬葉とさよなら。
友城にい




