また会おう、その時は絶対ナツ! 四球目
先攻後攻はじゃんけんで決めた。勝ったのは莉乃だった。
「よし。ピッチャーは自由に決めさせてもらう。あたしはいい具合の球を投げていた南雲に投げてもらいたい。いいか、南雲」
南雲ちゃんはゆるゆるボイスで「は~い」緊張感が一切見えない。
「ヒメは?」
「私ですか? そうですわね……。ここでヨルと言うとお決まりにしかなりませんし」
僕ってお決まりなの? つまり王道? ちょっと嬉しい……。
僕じゃないってことは、前にやった対決みたいに冬葉か? でもそんなにコントロールはうまくなかった。ということは暖? でもそれじゃ、莉乃の反感を買う気もする。どっちを選ぶんだ?
「私は上原○うじを選びますわ」
??????????
「えっと、元き○じんで現在はレッド○ックスのあの、上原?」
「そうですわよ。ほかに同じ人なんていますの?」
「いや、だってその方ならもうアメリカに……」
「心配いりませんわ。コレなら球団に払って一週間お借りできるよう交渉は済ませておりますから」
今、シーズン中だろ……。
まあ関係ないか、ヒメにとっては。それを表すみたいに、またヒメの指があれのサインを出す。ああ、あれね。うん、もうなにも言うまい。
僕は黙ってヒメから離れた。
「おい姫夏。上原きたねーぞ!」
やっぱり莉乃の怒りを買ったようだ。さあどうする。
「なら、前ケンを手配しましょうか?」
「OK」
「おい!」
僕が鋭い視察でツッコム。
「なんですの。何度も」
「何度も。じゃない。なんでさっきから元プロや現役が出てくるんだよ。ヒメにとってプロ野球選手ってなんだよ!」
「そうですわね。金の亡者?」
「なんでだよ! 夢壊すなよ!」
「う~ん。ならどうすればいいんですの?」
「全部取り消せ。そうしないと僕は、屋敷の中でボイコットを起こす」
我ながらなに言ってんだ、と思う。でも本気。
「仕方ありませんわね。五人とも取り消しますわ。でも代わりの三人はどうするんですの?」
「べつに三人くらいならいるだろ。ほらお手伝いにする執事さんとか」
「その手がありましたか。さすがヨル」
「いや、これくらい思いつけよ」
ヒメは、僕のケータイを借りるとどこかに電話をかけた。そして、少し話すと僕にケータイが戻ってくる。
「解約してきましたわ。まあ三人のギャラは支払いましたけど」
「そっか。じゃあ、ヒメは誰を選ぶんだ?」
そう聞くとヒメはスッと僕を指さした。
「僕か?」
「ほかにいないでしょ。よろしく頼みましたわよ」
「まあいいけど……」
僕は頬をポリポリとかいた。
そこに暇そうにしていた莉乃が、
「まだか? 待ちくたびれた」
「ごめん、すぐに――」
「あーら、あなたは佐々木小次郎になるんですの? なら私が宮本武蔵かしら。そうなると負けるのが――」
「あたしは負けねーっ! とくに姫夏にだけはなっ!」
挑発が簡単すぎる。簡単すぎて、感嘆する。(笑)
こうして、少し遅れて勝負は始まった。
最初にマウンドに登ったのは、順番通り南雲ちゃん。僕は大丈夫なのか、と声をかける。
「へいきで~す」
軟球を天に掲げて、太陽を背に受ける。ああ輝いてるぜ、南雲ちゃん! 後光が、まるで南雲ちゃんのために存在してるみたいだ。
「よーし、軽くで頼むぜ」
「おまかせあれ~」
キャッチャーは暖。審判は無知な冬葉になった。多分飾りだろうけど。
審判の冬葉が「ぷ、ぷれいぼーる……」と合図。
南雲ちゃんが腕をぐるぐると回して、初球を投げた。
それにタイミングよくバットを振り下ろす莉乃。タイミングはドンピシャ。あとは――
キーン、
といい音。
タイミングがあっていたため、センターに打球を飛んでいく。
「よーし、こんな感じかな」
無論。それを取りに行くのは僕の役目。計量係になってしまったわけで。
「夜夏。何メートルだー」
ちょっとまってくれよ。それどころじゃない。
ボールがバウンドした場所に測りを持っていって、それを告げる。
「七十一メートルだー」
外野のフェンス近くまで飛んでいた。まあここ庭だけど、測りやすいようにとホームラン制のために簡易フェンスを置いている。
とはいえ初心者とは思えないほど飛んだな、と感心。素質があるのかもしれない。
「おっ! これはもうあたしの勝ちなんじゃね? なんたって相手はあの……ぷぷ、世間知らずの箱入り娘で疲れ知らずの筋金入りのお嬢様だからなあ」
それにムッときたのか。ヒメがすぐに反撃。
「あーら。糖分摂取しないとしゃべりもできなくなる人に言われたくありませんわ~。その点私はもう充電完了の補充がいらない状態ですし。ほら、早く二球目をやったらどうです? このオ○スズメさん」
ヒメの決め顔。勝ったような顔をする。
「まだそのネタやんのか、ニ○ース……」
尽かさず莉乃も反撃。あーあ、またバトルか。
僕は仲裁のためにあいだに割って入る。
「ほらやめろ。今対決してるのに喧嘩したら対決の意味ないだろ」
僕の言葉に莉乃は「ふぅ」と怒りを堪え、ヒメは元の位置にドヤドヤと戻っていった。
そのあと莉乃にそれ以上の記録は出ず、ヒメに交替する。
「ほらよ。あたしのラッキーバットだ」
「あーら、ありがとうウッキーバット」
「誰がウッキーバットだ! あたしが猿ってか!」
「違いますの?」
「もう好きに吠えてろ。あとで好きなだけ負け犬になればいい。だって、ヒメにあれ以上の距離なんて〝ありえない〟からな」
ほう。莉乃が挑発に乗らないとは珍しい。それだけ自信があるってことか。
さて、
「僕らもやろうか」
「ええ。莉乃をぎゃふんと言わせてあげますわよ」
「ぎゃふん」
莉乃が言う。
「なんで今言いますの? 負けを認めました?」
「認めねえよ」
ヒメの塩対応に莉乃が「ぼ、ボケ殺しだ……」みたいな顔をしていたことは秘密。
僕はマウンド。さっきまで僕がやっていた場所に莉乃が立つ。南雲ちゃんじゃ、効率悪いし、なにより測り方に不安があるとのこと。
「いくぞー」
「ええ」
僕はボールの感触。肩の力を抜いて、ヒメに一投。
「えい」
ヒメは見事に空振り。空振りは一球にカウントされる。ひょろひょろ球だったのに……。
僕は聞いた。
「なあ。バット振ったことある?」
「ありますわ。イメージと夢で」
「それはないことにカウントされることを、今ここで言っておく」
やっぱり。
「暖。バットの握り方と振り方だけ教えてやってくれ。これじゃ勝負にならん」
「わかった。夜夏の頼みとあらば」
暖は懇切丁寧にヒメにみっちりと教えた。メ○ャーの佐○くんみたいなスイングを伝授していたことまでは絶句したが。
それから五分後。
「よし。わかりました。これで私もホームランですわ」
そんなにうまくいかねーよ。この野球とやらは。いくらヒメでも――
僕は二球を投じた。
真ん中低め。僕としても誰にしても絶好球。
「もらいましたわ!」
ヒメは暖に教えてもらったとおりにバットを肩から振り下ろす。
タイミングばっちり。バットの芯の部分にボールが当たる。
それをヒメの中にあるありったけの力を肩から腕、そして手にこめてバットにボールを乗せて、力一杯振り上げた。
莉乃の時も爽快な気持ちのいい音がなった――だが、それを上回るほどの爽快とはまた違う、豪快でテレビで観ているような臨場感のある金属音が僕の耳朶を打って、庭全体に静かに木霊する。
僕はヒメの打球を目で追う。
果たして、結果は――
ラッキーバットではなく、ウッキーバット。それは果たしてどんなバットなのだろうか。猿用ではなさそうだ。
次回は3月13日になります。ご期待ください。
友城にい




