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一番近くにある日常 入!  作者: 友城にい
暑かりし、草野球編
17/78

また会おう、その時は絶対ナツ! 二球目

「じゃあ、まずは投手を決めようか」

「そんなもの決めるまでもありませんわ」


 ヒメは、胸を張り腰に手をやる。


「ほう。姫夏殿自信満々だな。気に入った。ではお手並み拝見といこうか」


 ヒメは、中学の時に使っていた赤いハーフパンツに上は当然、サイズが合わない(胸が)ので吸収性の高いシャツを着た。胸が強調されすぎて、若干二名ほど自分の胸をずっと見ている。微笑ましい。

 そのままマウンドに登り、グローブを手に取って着けた。



 右手に。



「姫夏殿は左利きでありますか?」

「なにを言いますの。右利きに決まってますわ」

「それならば、グローブは左手に。着け心地が悪いはずだ」

「え? あ、たしかにですわ」


 ヒメは左手に着け直して、いざ。


「私はこれでも一時期『メ○ャー』にハマっていましてよ」


 結局漫画知識での自信かよ!? わかってたけど! それで右手に着けたのか。主人公が左利きだから!


「『メジ○ー』ならおれも全部読んだ! こい!」


 そこ丁寧に乗らなくていいから!


「いきますわ」


 左足が天にまでかけ上げる。身体柔らかっ!

 正面から見るとヒメの身体は「十」を描いていた。頭の上には太陽が重なる。どうやってやってんの! つか漫画知識細かい! もはや「○ジャー」じゃないけど!

 ズザッ、と左足を踏ん張り、右腕をムチのように反らし、滝から落ちる鯉を連想させるように球に魂を乗せた。


「うおおりゃあああああああっ!!!」


 キラン、

 とヒメの投球は、なんも関係のない右方向に消えていった。

 彷彿させるは、ロケ○ト団かバ○キンマンのやられ方。


「どこ投げてんねん! つうかどうやったらそっちに球投げれるんだよ!」


 関西弁が混じったツッコミ。だが、ヒメは物怖じせず、マイペースだ。


「あら? イメージとは違いましたわね」

「ヒメのイメージどんなの!」

「ほら。ぐおーん、みたいにぎゅるるる、とキャッチャーがフェンスまでどがー、と吹っ飛ぶような感じに投げましたわ」

「なるか!」


 ヒメそれとボキャブラリーが貧困すぎる! なんだよ。ぐおーん、とぎゅるるる、って。

 暖を見ると「ううむ」と頭を捻って、こう言った。


「姫夏殿はファーストがいいな」

「ふぁーすと? 私が最初ってことですの?」


 違う。一塁手のことだ。メジャ○読んだんじゃないのかよ。無駄かよ!


「姫夏殿。ファーストとは一塁を守る人のことだ。つまりそこだ」


 暖がズビシとその方向を指す。


「あら。近いですわね。で、ここはなにをしますの?」


 本当にメ○ャー読んだのか! 野球漫画での描写度が多いはずだが。


「そうだな。主に捕球作業になるな。だから、姫夏殿の練習はそれを中心にやっていく。いいな?」

「それって重要ですの?」

「すごく重要。勝敗に関わってくるほど」


 たしかにエラーしたら、流れが変わるしな。凡打をエラー。そうなるとランナーが出る。逆転や追加は当たり前。野球漫画知識です。

 次に冬葉がして、外野。南雲ちゃんは、二塁手になった。


「今回のわたし、出番これだけ……」

「南雲、不満が残ります~。呪ってやる~」

「ごめん。次回出すから」


 平謝りをして、四人目に莉乃。


「夜夏しねーのか。あたしは最後でいいからさ」

「なんで?」

「最後のほうが盛り上がるだろ? 『奴は怪物か……』てなってさ『ゼヒトモワガチームトケーヤクシテクダサーイ』て」

「ならねーし、スカウトマンこねーよ! なんで外国人!? 外国にでも行くの!?」

「そんなわけだから夜夏先にやれ」

「ったく……」


 僕はグローブを着けて、暖からボールを受け取る。


「いくぞー」

「おう。全力で飛びこんでこい」


 ボールを投げるのは、学校の授業ぐらいのものだ。それ以外でやるなんて考えてもみないし。

 僕はイメージだけして、右腕を振り下ろし、ある限りの力でボールを放つ。

 スパン、といい音が鳴る。


「夜夏いい球投げるじゃないか。もう一回いいか」

「お、おう。いいけど」


 なんだかいい感触を受けたらしい。

 僕が投げようとする。


「ちょっと待った。今から要求するから、そこに投げてもらっていいか」

「なんで」

「ピッチャーならコントロールくらい必要だろ。真ん中ばかりじゃ、バリエーションも生まれないからな」


『バリエーション』という言葉を知っていることに驚きつつ、わかったと返事をした。

 まずは高め。低目。と行き、身体側と外側。四個の角にも僕はスローボールながら収めることに成功した。


「夜夏コントロールいいな。球遅いけど」

「ヨルやりますわね。どうやら、重要人はヨルになりそうな予感がしますわ。球遅いけど」

「夜夏くんすごいね。球遅いけど」

「南雲も頑張りますねぇ~。だから~夜夏くんもファイトぉ~ですよぉ~。球遅いけどぉ~」

「なんでみんなに『球遅い』ことをディスられなきゃならん!」


 あれ? そういやこういう時の定番。莉乃が入ってこなかったな。


「どうしたんだ、り……の……」


 後方に立っていた莉乃を見る。

 そこには人間とは思えないほどの凶悪でどす黒いオーラが背景から出ていた。


「……どうした莉乃」

「ふふふ……」

「?」

「ふふふふ、ふははははっははははっはははっははっはははははは」


 逝った。僕はそう悟る。


「あたしが……あたしこそが最強! でも!」


 莉乃が狂気に満ちた顔を僕に見せる。まじ怖い。思わず一歩下がる。


「なんだよ……」

「夜夏。リア充があたしより先にテッペンを取った。これの意味がわかるか!」

「なあ暖。莉乃が僕よりいい球。コントロール。もしかしたら変化球が投げれたら、ピッチャーは莉乃に譲ってくれ」

「ああ。言われなくても、莉乃ちゃんが夜夏より最高の逸材ならそっちに変更は可能だ」

「だってよ」

「よし。暖。さっそくやろうじゃねえか」


 ズコー。最近の流行り。ここのところは、コツも掴んだ気がする。

 莉乃が僕に気づかれないスピードでマウンドに立っていた。


「それと暖。あたしのことを『ちゃん』付けで呼ぶな。性に合わねーから」

「でも莉乃ちゃんも女の子だろ。おれは女の子には『ちゃん』を付けて呼ぶように自分に言い聞かせているんだ」

「くそ……やっぱりこいつとは息が合わねー。おい、誰か代わってくれよ。誰でもいいから」


 投げてもいないのにバテテいる。精神的だろうか。


「きな……こ。夜夏、キャッチャーやってくれ。ボール捕るだけだから」

「あいよ……しょうがねーなぁ、莉乃ちゃんは」

「ああ?」

「なんでもないです……」


 すごい顔で睨まれた。ヘビに睨まれたカエルの気持ちがわかる。

 暖は、「うーむ」と考え出す。


「おい。グローブよこせ」

「…………」

「暖?」

「おれ、もしかして嫌われてる?」

「そりゃもう」

「それとも莉乃ちゃんは夜夏が好きなんじゃないか?」

「ないな。100パー」

「三角関係にはならないか。さすがに」

「お前はなにを期待してたんだ?」


 たまに暖がわからない。


「よし、わかった。おれは審判をやろう。夜夏じゃ、いいか悪いかわからないだろ」

「まあな」


 僕はしゃがみ、ミットをかまえた。さっき暖がやってたのをそのまま真似る。


「いいぞ莉乃」

「おう。一球目から全力でいくから覚悟しとけよ。あと、怪我してもあたしは一切の責任を負いません」

「わかったから早く投げろ」

「よーし、腕がなるぜ」


 そういや、スポーツをやるのは初めてだ。水泳はあるけど、こういった専門のことをやるのは。或いは莉乃がやっている姿を見るのもおそらく初めてだ。

 そう思うと少しドキドキする。莉乃は見た目こそ運動神経が良さそうに見えるが、実際はどうなんだと常日頃から思っていた。それを見るチャンスと言ってもいいだろう。

 やべ……変に緊張してきた。どうしよう。


「しっかりかまえてろよ」


 莉乃が足を踏みこむ。セットポジションから綺麗に入り、腕をしっかり振って球が放られてきた。

 僕は瞬きもできずに無我夢中にボールの向かってくる方向にミットを寄せて、ボールがミットに収まる感触を手全体で味わう。

 莉乃を見るとやったりの顔。僕はミットの中を確認する。


「あれ?」


 そこにはボールがなかった。

 どこに行ったか聞こうと後ろに立っていた暖を見ると、原因不明の悶絶をしていた。


「どうした?」

「ああ……アアア、た、球が……夜夏のこぼした球が、おれの……」


 よく見ると暖は、自分の金的と思われる場所を押さえていた。

 ああ、なるほど。そこに当たったのか。ご愁傷様でございます。

 硬球でなくてよかったな、と励ましにならない言葉を暖に送って、三十分後に暖による正式なピッチャーが決まった。

キャッチャーは股間にもプロテクターをつけるらしいですが、さすがに審判はつけてませんよね、多分。

その分、暖は死ぬぐらいの激痛だったはずです。

運がなかった。これにつきます。

では、次回は10日に会いましょう。


友城にい

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