また会おう、その時は絶対ナツ! 二球目
「じゃあ、まずは投手を決めようか」
「そんなもの決めるまでもありませんわ」
ヒメは、胸を張り腰に手をやる。
「ほう。姫夏殿自信満々だな。気に入った。ではお手並み拝見といこうか」
ヒメは、中学の時に使っていた赤いハーフパンツに上は当然、サイズが合わない(胸が)ので吸収性の高いシャツを着た。胸が強調されすぎて、若干二名ほど自分の胸をずっと見ている。微笑ましい。
そのままマウンドに登り、グローブを手に取って着けた。
右手に。
「姫夏殿は左利きでありますか?」
「なにを言いますの。右利きに決まってますわ」
「それならば、グローブは左手に。着け心地が悪いはずだ」
「え? あ、たしかにですわ」
ヒメは左手に着け直して、いざ。
「私はこれでも一時期『メ○ャー』にハマっていましてよ」
結局漫画知識での自信かよ!? わかってたけど! それで右手に着けたのか。主人公が左利きだから!
「『メジ○ー』ならおれも全部読んだ! こい!」
そこ丁寧に乗らなくていいから!
「いきますわ」
左足が天にまでかけ上げる。身体柔らかっ!
正面から見るとヒメの身体は「十」を描いていた。頭の上には太陽が重なる。どうやってやってんの! つか漫画知識細かい! もはや「○ジャー」じゃないけど!
ズザッ、と左足を踏ん張り、右腕をムチのように反らし、滝から落ちる鯉を連想させるように球に魂を乗せた。
「うおおりゃあああああああっ!!!」
キラン、
とヒメの投球は、なんも関係のない右方向に消えていった。
彷彿させるは、ロケ○ト団かバ○キンマンのやられ方。
「どこ投げてんねん! つうかどうやったらそっちに球投げれるんだよ!」
関西弁が混じったツッコミ。だが、ヒメは物怖じせず、マイペースだ。
「あら? イメージとは違いましたわね」
「ヒメのイメージどんなの!」
「ほら。ぐおーん、みたいにぎゅるるる、とキャッチャーがフェンスまでどがー、と吹っ飛ぶような感じに投げましたわ」
「なるか!」
ヒメそれとボキャブラリーが貧困すぎる! なんだよ。ぐおーん、とぎゅるるる、って。
暖を見ると「ううむ」と頭を捻って、こう言った。
「姫夏殿はファーストがいいな」
「ふぁーすと? 私が最初ってことですの?」
違う。一塁手のことだ。メジャ○読んだんじゃないのかよ。無駄かよ!
「姫夏殿。ファーストとは一塁を守る人のことだ。つまりそこだ」
暖がズビシとその方向を指す。
「あら。近いですわね。で、ここはなにをしますの?」
本当にメ○ャー読んだのか! 野球漫画での描写度が多いはずだが。
「そうだな。主に捕球作業になるな。だから、姫夏殿の練習はそれを中心にやっていく。いいな?」
「それって重要ですの?」
「すごく重要。勝敗に関わってくるほど」
たしかにエラーしたら、流れが変わるしな。凡打をエラー。そうなるとランナーが出る。逆転や追加は当たり前。野球漫画知識です。
次に冬葉がして、外野。南雲ちゃんは、二塁手になった。
「今回のわたし、出番これだけ……」
「南雲、不満が残ります~。呪ってやる~」
「ごめん。次回出すから」
平謝りをして、四人目に莉乃。
「夜夏しねーのか。あたしは最後でいいからさ」
「なんで?」
「最後のほうが盛り上がるだろ? 『奴は怪物か……』てなってさ『ゼヒトモワガチームトケーヤクシテクダサーイ』て」
「ならねーし、スカウトマンこねーよ! なんで外国人!? 外国にでも行くの!?」
「そんなわけだから夜夏先にやれ」
「ったく……」
僕はグローブを着けて、暖からボールを受け取る。
「いくぞー」
「おう。全力で飛びこんでこい」
ボールを投げるのは、学校の授業ぐらいのものだ。それ以外でやるなんて考えてもみないし。
僕はイメージだけして、右腕を振り下ろし、ある限りの力でボールを放つ。
スパン、といい音が鳴る。
「夜夏いい球投げるじゃないか。もう一回いいか」
「お、おう。いいけど」
なんだかいい感触を受けたらしい。
僕が投げようとする。
「ちょっと待った。今から要求するから、そこに投げてもらっていいか」
「なんで」
「ピッチャーならコントロールくらい必要だろ。真ん中ばかりじゃ、バリエーションも生まれないからな」
『バリエーション』という言葉を知っていることに驚きつつ、わかったと返事をした。
まずは高め。低目。と行き、身体側と外側。四個の角にも僕はスローボールながら収めることに成功した。
「夜夏コントロールいいな。球遅いけど」
「ヨルやりますわね。どうやら、重要人はヨルになりそうな予感がしますわ。球遅いけど」
「夜夏くんすごいね。球遅いけど」
「南雲も頑張りますねぇ~。だから~夜夏くんもファイトぉ~ですよぉ~。球遅いけどぉ~」
「なんでみんなに『球遅い』ことをディスられなきゃならん!」
あれ? そういやこういう時の定番。莉乃が入ってこなかったな。
「どうしたんだ、り……の……」
後方に立っていた莉乃を見る。
そこには人間とは思えないほどの凶悪でどす黒いオーラが背景から出ていた。
「……どうした莉乃」
「ふふふ……」
「?」
「ふふふふ、ふははははっははははっはははっははっはははははは」
逝った。僕はそう悟る。
「あたしが……あたしこそが最強! でも!」
莉乃が狂気に満ちた顔を僕に見せる。まじ怖い。思わず一歩下がる。
「なんだよ……」
「夜夏。リア充があたしより先にテッペンを取った。これの意味がわかるか!」
「なあ暖。莉乃が僕よりいい球。コントロール。もしかしたら変化球が投げれたら、ピッチャーは莉乃に譲ってくれ」
「ああ。言われなくても、莉乃ちゃんが夜夏より最高の逸材ならそっちに変更は可能だ」
「だってよ」
「よし。暖。さっそくやろうじゃねえか」
ズコー。最近の流行り。ここのところは、コツも掴んだ気がする。
莉乃が僕に気づかれないスピードでマウンドに立っていた。
「それと暖。あたしのことを『ちゃん』付けで呼ぶな。性に合わねーから」
「でも莉乃ちゃんも女の子だろ。おれは女の子には『ちゃん』を付けて呼ぶように自分に言い聞かせているんだ」
「くそ……やっぱりこいつとは息が合わねー。おい、誰か代わってくれよ。誰でもいいから」
投げてもいないのにバテテいる。精神的だろうか。
「きな……こ。夜夏、キャッチャーやってくれ。ボール捕るだけだから」
「あいよ……しょうがねーなぁ、莉乃ちゃんは」
「ああ?」
「なんでもないです……」
すごい顔で睨まれた。ヘビに睨まれたカエルの気持ちがわかる。
暖は、「うーむ」と考え出す。
「おい。グローブよこせ」
「…………」
「暖?」
「おれ、もしかして嫌われてる?」
「そりゃもう」
「それとも莉乃ちゃんは夜夏が好きなんじゃないか?」
「ないな。100パー」
「三角関係にはならないか。さすがに」
「お前はなにを期待してたんだ?」
たまに暖がわからない。
「よし、わかった。おれは審判をやろう。夜夏じゃ、いいか悪いかわからないだろ」
「まあな」
僕はしゃがみ、ミットをかまえた。さっき暖がやってたのをそのまま真似る。
「いいぞ莉乃」
「おう。一球目から全力でいくから覚悟しとけよ。あと、怪我してもあたしは一切の責任を負いません」
「わかったから早く投げろ」
「よーし、腕がなるぜ」
そういや、スポーツをやるのは初めてだ。水泳はあるけど、こういった専門のことをやるのは。或いは莉乃がやっている姿を見るのもおそらく初めてだ。
そう思うと少しドキドキする。莉乃は見た目こそ運動神経が良さそうに見えるが、実際はどうなんだと常日頃から思っていた。それを見るチャンスと言ってもいいだろう。
やべ……変に緊張してきた。どうしよう。
「しっかりかまえてろよ」
莉乃が足を踏みこむ。セットポジションから綺麗に入り、腕をしっかり振って球が放られてきた。
僕は瞬きもできずに無我夢中にボールの向かってくる方向にミットを寄せて、ボールがミットに収まる感触を手全体で味わう。
莉乃を見るとやったりの顔。僕はミットの中を確認する。
「あれ?」
そこにはボールがなかった。
どこに行ったか聞こうと後ろに立っていた暖を見ると、原因不明の悶絶をしていた。
「どうした?」
「ああ……アアア、た、球が……夜夏のこぼした球が、おれの……」
よく見ると暖は、自分の金的と思われる場所を押さえていた。
ああ、なるほど。そこに当たったのか。ご愁傷様でございます。
硬球でなくてよかったな、と励ましにならない言葉を暖に送って、三十分後に暖による正式なピッチャーが決まった。
キャッチャーは股間にもプロテクターをつけるらしいですが、さすがに審判はつけてませんよね、多分。
その分、暖は死ぬぐらいの激痛だったはずです。
運がなかった。これにつきます。
では、次回は10日に会いましょう。
友城にい




