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一番近くにある日常 入!  作者: 友城にい
暑かりし、草野球編
16/78

また会おう、その時は絶対ナツ! 一球目

 キーン。

 金属音が野球場全体に轟く。


「おーい、夜夏。そっちに飛んだぞー!」

「わかってるって」


 人口芝を蹴りつけて、僕は空遥か高く飛ぶ白球をありったけの全速力で追いかけた。


「うわっ……追いつかな……い……」


 すでにバテテいる僕に走る気力は、ほとんど残させているはずもなく。あと1メートルほど届かない。自由気ままな球は地面を叩きつけて、さらに奥へと転がっていく。


「なにやってんだ、夜夏! やる気あんのかー!」

「すまない!」


 フェンスに当たってようやく手に収めた球を急いで、莉乃に目がけて投げる。


「ああ、暑い……なんでこんな日に野球を」


 ギラギラに輝く空を仰ぐ。

 電光掲示板に表示されている気温は、三十四度。ギリギリ真夏日だ。でももうすぐ超えることだろう。

 キーン。

 爽快な反発音。

 白球は、僕目がけて襲ってくる。

 休んでいる暇が、なぜかない。

 無論なぜか。莉乃が打たれているからです。


「夜夏、そっちいったぞー!」

「おうー」


 僕から見て右の方から、響き渡るような大きな声を出す男性の声。

 ついに物語初登場の僕に続く第二の男キャラ。坊主頭の北松きたまつだん。その名の通り、冬葉の双子の兄だ。

 その暖のかけ声に僕は、ほぼ定位置に着いてグローブに捕球完了。猛練習を積んだ甲斐があるってもの。


「ナイス夜夏」褒める暖。

「ありがとよ」

「いいわよ。ヨルー」

「いえ~い」南雲ちゃん、テンション高い。


 遠くで、コクリと頷く冬葉が見えた。


「その調子だぞー」と大声を出す莉乃。投手。


 二塁近くに南雲ちゃん。一塁近くにヒメ。外野に右側から僕、暖、冬葉。

 ほかの三人は、モブってことで。

 相手は、近所で草野球をやっていた小学生の皆さん。

 経緯を知りたい?

 しょうがない。では、一週間前の朝まで遡ってみよう。



 回想~



「あーあ。誰か姫夏を甲子園へ連れてって」

「タ○チか」


 的確なツッコミ。誰か10点満点ください。


「よし。野球やろうぜ。みんなで」と莉乃の発言。


 それに反抗するのが、いつものことヒメ。


「は? お前ここが逝ったのか、ワーイ」


 なにかを持ちあげようとするポーズ。それとも身体全体で「Y」を表しているのだろうか。いや、違うか「W」か。


「ちげーよ。いっつもかっても姫夏の遊びに付き合ってちゃあ、こっちの意見が通らねぇからな。たまにはいいだろ。どうせタッちゃんもカッちゃんもいねぇしよ」

「最後関係なくね?」


 僕は、ツッコミ回り。

 横を見ると、ヒメは口をタコにしていた。


「ぶー。私野球のことなにも知りませんわよ。ちなみに野球やったことある方。挙手」


 しーん。

 誰もいない。


「あれ、莉乃は?」

「ないよ? あたしあんまりスポーツしねぇし」

「じゃあなんで野球しようなどと……」

「まあ、気分。いいだろ。外天気いいし」


 なんだそりゃ。


「平気なのか。ほら、莉乃前に熱中症で倒れてるし」

「平気平気。そんなもん気にしてたらなんもできねぇじゃん」


 とはいっても。


「で。どうすんの。野球経験のある知人なんて……あ」


 僕は冬葉を見た。

 それに気づいた冬葉は顔をぶんぶんと横に振る。


「お、お兄ちゃんはいつも部活でいないし、近いうちに大会もあるって言ってたから。多分お願いしても……」


 冬葉の「お兄ちゃん」ボイスをダウンロードしたい方は、僕のところまで。

 暖は生粋の野球好き。三食の飯より野球が好き。野球で大学の推薦を狙い、あわよくばプロ入りを目指すほどのお気楽なやつ。ちなみに親友。


「ダメか?」

「うん……た、多分だよ」

「冬葉」

「なに、姫夏ちゃん?」

「一応訊いてくださいます?」


 ヒメは真剣な顔をしていた。

 なにやる気になってんだよ。口で否定してても、興味だけはあるんだな。


「わ、わからないからね。うん」


 やけに冬葉が念を押す。

 僕は「どうした?」と尋ねる。


「えっと、昨日ケンカしたの。いつもの些細な兄妹ゲンカみたいなものだけどね……」


 そういうことか。

 僕もたまにヒメと口ゲンカするのと一緒かな。まあ一、二時間。早ければ五分で仲直りする僕とは少し違うか。


「僕が電話しようか?」


 手を差しだした。冬葉は、悩みつつも可愛らしい携帯を僕に渡す。


「うん……お願い」

「家にいるの?」

「いるよ。多分、高校野球観てる」

「わかった」


 冬葉から電話を受け取り、着信履歴から「暖」をさがし、コール。すぐに電話は繋がった。


「今ヒマか?」

『なんで夜夏が、冬葉の……まあいい。なんだ。お久しぶりのお茶のお誘いか?』

「まあ近い」

『ごめんな。今は無理――』

「知ってる。冬葉とケンカしてるんだろ」

『なっ! なぜそれを……』

「お前わかりやすいな、反応が」

『はぁ……そうなんだよ。だからさ』


 暖の深いため息。どんな理由でケンカしたのか気になる。


「今からさ、野球するんだけど、どうだ? 暖にコーチを頼みたい――」

『バットとグローブ何個いる?』


 対応早っ!

 今は無理って言わなかったか! どんだけ野球好きなんだよ!


「えっと、今日はとりあえず五個でいいよ」

『プー、プー、プー』

「切れてる!?」


 おそらく「五個」のところを聞いて、電話を切ったな。

 僕は「電源」ボタンを押して通話を切った。

 冬葉に携帯を返して、みんなほうに向き直る。


「どうですって?」

「今向かってると思う。おそらく十分以内には……」


 すると外のほうか「うおおおおおおおっ!」という大きく野太い声がし、キキィーとフォークで黒板を引っ掻いたような嫌悪音と共に、自転車が庭に入ってきた。


「おまたせしやした。姫夏殿!」

「早っ! 暖お前何者!」

「んん? おれか? おれは天才バッター北松暖さ。覚えときな。覚えてて損はさせない」


 片目ウィンクにグッド。

 一瞬、歯が光った気がしたが、気のせいか?

 自信満々だな。相変わらず、ヒメに負けず劣らず。暖はヒメのこと「姫夏殿」と呼ぶ。詳細はまたあとで。

 息一つ上がっていない暖が、自転車から降りると機体がバラけてぶっ倒れる。


「おっ? また壊れたのか。おれが遅刻しそうになった時にかぎって壊れるんだよな。この自転車」

「単なる負荷だろ」


 冷静なツッコミ。


「不可? おれに不可能という言葉は辞書に載ってねぇー!」


 暑苦しい! あと漢字違う! 不可じゃなくて負担をかけすぎという意味の負荷!


「ねぇねぇ~莉乃ちゃん。冬葉ちゃんのお兄さんは~やっぱり熱いねぇ」

「南雲よ。そんな弱いもんじゃないぞ。あいつはな――」

「お二人さん、なにを話してるんだい! 悩みならこの『北松暖』こそ暖長におまかせあれ!」

「うぜー!」莉乃の叫び。


 なんだよ。暖長って。団長とかけてんのか?

 なんで僕この人のこと親友って言ったんだ?

 次にターゲットになったのは。


「私やっぱりあの方を呼んだの失敗のような――」

「なにに失敗したんだい。なあーに。挫ける必要はない。失敗は誰にでもあることさ。一番ダメのは、チャレンジしないこと。だろ?」

「うざーい、ですわ。やっぱり!」ヒメの叫び。


 そんなヒメは置いといて。暖が冬葉を視界に入れると高かったテンションが下がり、黙った。いいぞ冬葉、さすがだ。


「ふゆ……」

「話しかけないで」

「…………」


 冬葉の拒絶にさすがの暖も熱くはなれなかった。


「じゃあ、聞かなくていい。おれの独り言。それでいい。じゃあ、言うぞ。おれの独り言を」


 暖は、僕を見る。僕は目をつぶる。

 それを意味するものを頭の悪い暖でもわかったようで言葉を続けた。


「おれは自分を曲げない。今までもこれからもだ。でもそれは、おれ一人の力じゃない。冬葉がいてくれたからだ。おれが仮にも一人っ子だったとしたら、おそらく、ここまで野球に熱くなれていなかったと思う」


 暖の真剣な顔。

 そうだ。あんなにハッチャケていても冬葉と血の繋がった兄なんだ。

 僕が冬葉と仲よくいられている理由も暖のおかげ。

 だから僕は暖のことを「親友」と呼んでいる。なぜ忘れていたんだろう。


「おれはおれ自身のために野球をやる。妥協はしない。冬葉。だから、見守ってくれないか。だからさ――」


 冬葉が暖を見る。真剣な顔つき。


「婆ちゃん家に付いていけないことを許してくれないか」


 ズコー。

 四人ほどずっこける。


「わかった。しょうがないよね。お兄ちゃんは頑張ってるんだもんね」

「わかってくれたか」

「うん」

「よし。じゃあ、さっそく練習やるぞ。あれ? どうしたみんな」

「どうしたじゃねぇー!」僕の叫び。

草野球シリーズです。でもボケしかないので、ご安心を。いつもどおりです。


勢いで明日も更新します。


友城にい

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