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シュールナンセンス掌編集

ボタン

作者: 藍上央理

「ボタン」



 ふとしたことで気付いたことなのだけど、私たちの首の後ろにはボタンがある。

 私が気付いた理由はボーイフレンドのうなじに手を当てたときだった。

 ボタンに気付いている人は少なくて、町に出掛けると、夏であるせいか、みんなのボタンは丸見えになっている。時々暑いさなか、タートルネックのシャツを着ている人やスカーフを巻いている人がいるけれど、そのひとたちは多分自分たちの首についているボタンに気付いているのだ。

 ボタンはちょうどホクロ状になっていて、柔らかい。

 どういう代物なのか知らないが、たまたま町で見かけた人とも思えない人から予測して、本性をさらけ出すボタンなのだろう。

 単純明快な人は付き合いやすい姿に変身してしまう。

 複雑怪奇な人や二重人格的な人は、しりごみするような姿に変身してしまうのだ。

 私は好奇心に負けて、ボーイフレンドのボタンを押してしまった。

 ボーイフレンドはほかにふたりのガールフレンドをもっている姿になって、私は未練なく別れる決心ができた。

 ボタンを押すのは恐ろしいが、押されるのはもっと恐ろしい。

 本当に試してみたことはないけれど、もしかすると自覚している人間には自分の本性が見えてしまうのではなかろうか。

 それ以来私は首にスカーフを巻いたり、タートルネックのシャツを着たりして、ボタンをごまかしている。

 そんなときに田舎から、少しピンぼけの気がある祖母が遊びに来た。

 着物の襟の後ろにはやはりボタンがあり、好奇心に駆られて、私は肩をもんであげるふりをして、それを押してしまった。

 そのとたんに、祖母は幼い少女に若返り、背中に四つの翼をつけて、笑いながら窓から飛んでいってしまった。

 私は呆然として、空のかなたに消えてしまった祖母を見送っていた。

 祖母の本性は天使のように純粋だった。

 それで私は一大決心をして、鏡の前に立ち、首のボタンを押してみた。

 それなりに叫ぶ準備していたが、鏡の中の自分は変わりなく自分自身で、私はそっと安堵したのだった。けれど、ボタンを押して以来、付き合う人間が変わっていった。前に交流のあった友人たちとは疎遠になり、新しい知り合いが増えていった。

 あのボタンは本性をさらけ出すボタンではなかったろうか?

 自分の勘違いなのだろうか?

 けれど、町には相変わらず本性をさらけ出した人間がうろついている。

 自分もその仲間に入ったわけだが、自分がどのような姿をしているのか、知りようがない。

 ところで飛んでいってしまった祖母は、あれ以来行方不明になり、今も捜索中である。

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