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虚無の願いと誓約の勇者  作者: 懺悔
6/7

安堵

 ――祥子が目を開けると、そこには見知った天井があった。

 双葉荘の天井だ。

 そこで祥子は、布団の上に寝かされていた。

「おはよう祥子、気分はどうだい?」

「雫……さん……?」

 ぼやける視界の中に祥子は見知った顔を見つけた。

「自分の名前を言ってくれ、あと年齢も」

「汐宮祥子、十七歳」

「うん、ショックで幼児退行したりはしていないな。それじゃあ、昨晩のことは覚えているかい?」

 そう言われて、まだ判然としない意識の下、祥子は昨晩の記憶を掘り返す。

 ――相馬の冷たい眼差し、空から落ちてきた化け物、そして、宙を舞った腕。

「ひっ――ん――!」

「おっと、あまり大声を出さないでくれ、双葉が起きてしまう」

 悲鳴を上げようとした祥子の口を雫がふさいだ。

「彼女は知らないんだよ。配慮してくれ、な?」

 そう言って薄く笑みを浮かべる仕草は、祥子が知っている雫だった。

 それを見て安堵すると同時に、祥子は不安を感じていた。

「――雫、さん。教えてください、あなたの、知っていること、全部」

 雫の手を退けて、証拠はたどたどしく切りだした。 

「倉内は、無事、なんですか?」

「……それは――」

 祥子の問に対して、雫は言いよどむように俯いた。

 その仕草を見て、祥子は自分の息が詰まるのが分かった。

 ――まさか。そんな不安がよぎる。

「雫さん? 倉内は? あいつは無事なんですか、雫さん! 早く答えて下さい!」

 祥子は飛び起きて、雫の肩を激しく揺する。

 意識が途切れる直前、祥子は見たのだ。自分を庇った相馬の腕が、怪物の爪によって千切られる瞬間を。

 一気に吹き出し彼の血を見て、怪物が目の前にいるというのに、祥子は気絶した。

 そんな自分が、こうして五体満足で双葉荘に戻っているということは、一緒にいた相馬も生きているはずだ。

 ――そう冷静に考えつつも、祥子はやはり不安が拭い切れないでいた。

「…………」

「雫さん! どうして答えてくれないんですか、雫さん!」

 確かな答えを知っているはずの、雫は下を向いたまま答えようとしない。

 そんな彼女の様子が、ますます祥子の不安を煽る。

 それを表すかのように祥子が、雫の肩を揺する力も段々と弱くなり、遂にはその手を降ろした。

「そんな……」

「くっ……くくっ………」

 祥子が脱力した途端、それまで無言だった雫の肩が震え始めた。

「くっ……はははははっ!」

 震えは徐々に大きくなり、遂にこらえきれなくなったか、雫は大声で笑い始めた。

「雫さん!? もしかして、私の事からかってたんですか!?」

「いや、すまない。クラマのことを心配して焦っている君が、とても可愛らしくて、とても面白かったから、ついふざけてしまったよ」

「こんな時にふざけないでください! 私は真剣に話してるのに!」

 笑みを浮かべながらおどけた調子で謝る雫を、祥子は怒鳴りつけた。

「……次は真面目に答えてくださいよ」

 そう言いつつも、祥子は心の中では安心していた。

 こうやってふざけるのは、彼女の知る、『霧谷雫』だったからだ。

 事情を知った祥子に、雫は態度を豹変させるのではないのかと、祥子は不安に思っていた。

 あの冷たい眼差しをした、相馬のように。

「――それで、雫さん。本当に倉内は無事なんですか?」

「あぁ、ピンピンしてるよ。治療が終り次第、この部屋に来るように言ってある」

「そうですか、良かった……」

 雫の態度から、ある程度は察することができていたものの、改めて言葉で確認して、祥子は安堵のため息をついた。

 腕を切り落とされることは、常識で考えれば相当な重傷だが、それについてはあまり心配していなかった。

 真っ二つにされても動く怪物を見たあとだ――人のちぎれた腕が元通りになるぐらいでは、驚かない自信が祥子はあった。

 ………優劣をつけている自分に少しだけ幻滅したが。

「さて、祥子――聞きたいこと、クラマに聞ききれなかったこと、色々あるだろう? 勇者様に代わって、私が何でも答えてあげよう」

 向かい入れるように腕を広げながら、雫は言った。

「――同じ姫巫女のよしみだ。どんときたまえ」

 表情は笑みだった。

 だが、祥子には、いつものように彼女が楽しんでいる風には感じなかった。

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