異世界の食卓から
(♪♪♪ オープニング・テーマ ♪♪♪)
――「異世界の食卓から」。今夜はドワーフの食卓です。
――人口102人のドワーフの村。村人の多くは洞穴で暮らし、ミスリル鉱山で働きます。
「男衆は腹ぺこになって帰ってくるからね。これくらいの量なんて、あっという間になくなっちまうんだよ」
――そう笑顔で話してくれたのは、マーヤさん(133)。7人家族の胃袋を支えています。
「まずは、下ごしらえからだ。ルル芋の皮を剥くよ」
――ルル芋は、洞穴近くの畑で育て、秋に収穫します。それにしても、本当にすごい量ですね。
「このへんの土地は、やせてて麦がとれないからね。ルル芋が主食なんだよ」
――なるほど。あ、マーヤさん。そのナイフ、柄のところに細かい彫金がされていますね。
「ああ、これかい?これはね、うちの亭主が鍛えて彫ってくれたのさ。ちょっとしたものだろ?」
――旦那様の愛を感じます。
「あたしも昔はね、この村一番の美人なんて言われていたものさ。みんなそりゃ必死になって求婚してきてね。そのときの戦利品が今でも……」
「かーちゃん、のどかわいたー!」
「はいはい。ガル乳をあげるからね。ちょっと待ってておくれ」
――ガルはヤギやヒツジに似た家畜のことです。夏に放牧して冬には洞穴に入れます。ドワーフは、ガルの乳や肉だけでなく、骨や皮まであますところなく使います。
「それを飲んだら、こっちを手伝っておくれ」
「はーい」
――ドワーフは12歳で成人になります。いまガル乳をごくごく飲んでいるイェルドちゃん(7)も、あと数年で大人の仲間入りです。また、ドワーフは非常に長命で、平均寿命は250歳前後とされています。
「よし、できた。次はルル芋を蒸すんだ」
――ドワーフのかまどは石造り。燃料となるキャル石をくべて火をおこします。岩壁に煙を出すための穴がいくつか空いているので、室内で煮炊きをしても大丈夫です。
「蒸しあがるまでの時間で、今度はルベゾを作っちまう。うちのルベゾは格別だよ!」
――ルベゾは、ドワーフの伝統的な家庭料理です。
「ガルの骨は、ディーと一緒にあらかじめ煮込んであるんだ」
――ディーは根菜です。玉ねぎのような見た目ですが、味に癖があり、セロリなど香味野菜に近いところがあります。
「そこにガル乳だね。それを加えて、大きめに切ったニップと、ガル肉の塩漬けを入れる」
――ニップは葉物野菜で、キャベツとちょっと似ています。また、ガルの肉は、塩漬けにすることで、保存がきくようになります。ドワーフは、ほかにもたくさんの保存食を作っていて、貯蔵庫はいっぱいです。
「味の決め手は、シャクシャクだ!ここらではとれないから、ちょっとばかし値が張るけど、あるとないとで大違いさ」
――シャクシャクは香辛料。獣の臭みを消す効果があります。いい香りがしてきました。
「それから、クウィンの実のすって入れる。腹もちのする、こってりした味になるよ。これで一丁あがりだね」
――クウィンは脂肪分とビタミン・ミネラルがたっぷり。森のめぐみです。クルミやピーナッツに似た香ばしい香りが、食欲をそそります。
「味見するかい?」
――いただきます!
――ふうふう。あちち。スープは……ガル乳が入っているので、少し癖がありますが、スパイスが味と香りを引き締めていて、おいしいです。かたそうだったお肉ですが、ほろほろとくずれます。この塩気がいいですね。ディーもニップも、とろとろに溶けています。こんなに甘くなるんですねえ。
「そりゃよかった。さて、そろそろルル芋が蒸しあがる頃合いだ。……よし、ちゃんとナイフが通るね。ルル芋は軽く潰して、スィルフィスを添えるだけだよ」
――スィルフィスは、川魚を香料と一緒に煮込んでパテ状にしたものです。とても塩辛いので、そのままでは食べません。ルル芋に添えるほか、サラダの味付けとして使われます。
「おーい、マーヤ。帰ったぞ!」
「「「母さん、ただいまー」」」
「はいはい、おかえり。……って、あんたたち。何度言ったらわかるんだい!汚いままでミードを飲みはじめるなって、いつも言ってるだろ。椅子が汚れちまうじゃないか。着替えておいで!!」
――ドワーフの村では、水は貴重。なかなかお風呂に入れません。その代わり、頻繁に着替えます。そして、ミードは蜂蜜酒です。ドワーフの食卓にお酒は欠かせません。
「おい、あんた。よくわかってるじゃないか。飲もう飲もう」
――それでは、お言葉に甘えて。かんぱーい!
「……まったくもう。こんなんじゃ、ピナ桃の蜂蜜漬けはおあずけだね」
「そりゃないぜ、マーヤ……」
――「異世界の食卓から」。次回はケンタウロスの村を訪ねます。