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短編

北京原人夢を見る

作者:


 私には小学生の頃から恋をしている男の子がいる。と言っても、それに気づいたのは皮肉にもまた、あいつと住む場所を違えた後だったのだけど。

 一度目は小学生。

 二度目は高校生。

 三度目はまだ来ないけれど、あいつは私を「北京原人」と呼び、私は彼を「帽子野郎」と呼んでいた。


 好きだとか、嫌いだとか、そんな言葉を知ったのはいつだったか覚えていない。でも、その感情を己のモノとして捉えたのは私が二十歳を過ぎてから。だからそれまでは何も、本当に何も知らなかった。

 思い出せるのは、小学校高学年の頃。交差点や、人の多い繁華街ではいつだって「誰か」を探してた。見た目や性格ではなく、何を探しているのか分からないまま、ただいつも思うのは、これではないと言うこと。まるでパズルのピースのように、ぴたりと嵌る何かを探していた。

 自分では認めたくないものの、私は少し変わっているらしく、小学生の頃は長期にわたってイジメを受けた。

その影響であまり中学へはいかなくなり、そのかわりフリースクールへ通うようになった。学校と繋がってるらしいその施設は、登校時間も勉強内容も自由なのに通えばその分は中学への出席日数に数えられると言う画期的な施設だったと思う。それでもテストの日などは中学校へ行かなければならず、何人かの同級生に声をかけられることもあったけれど。やっぱり違う。違うものは、私には必要ないもの。そう思えて、きっばりお断りし続けて三年間が過ぎた。


 そして高校の入学式の日、私はアイツと再会した。


 「お前、北京原人だろ?」


 式も終わり保護者説明会があるとかで私は校舎周辺をふらふらと歩いていた。そして聞えた不名誉なあだ名。


 「……」


 振り返り、何となく、今までのもやもやしていたピースがかちりと嵌った気がした。でも、名前も顔も一致しない。しかも二度と呼ばれないようにわざわざ自分の住む町から遠い土地の高校に入学したのに、周囲に存在する全ての新入生に今のあだ名を聞かれたのだ。


 「なぁ、北京原人?」


 遠慮もなく、あだ名を連呼するその男の子。後ずさる私。

 今思えば、高校の入学式にこんなコント的なことをしている男女を目にしたら自分でも笑えると思う。


 「……誰?」


 言いながら、私は逃亡した。そう、後ずさったまま方向転換し、走り出した。

 そこまでは、逃げる事が出来て本当に良かったと思っていた。……翌日に、奴が同じクラスだと知るまでは。























 教室の前から二番目の列、窓際に私が座り、ふと廊下側へ視線をやれば…


 「…かみさま」


 なぜ、ですか?視界に入ったあいつから目を逸らせずに、思わず私は呟いた。

 こんな事ってあるだろうか?同じ教室、つまりクラスメイト。しかも私が入学した高校は基本三年間クラス替えをしない。


 「まさか、そんな…」


 だって、そんな…もしこの事実を昨日のうちに知ることが出来ていたなら、もっと違った対応も出来ていただろうに。

 ガヤガヤと初登校で友人作りに精を出す周囲の若者とは違い、私は一人、今日から始まる高校生活に絶望していた。


 そして教壇に立ち説明を始めた担任は五十過ぎのおじさんで、その他のクラスメイトはヤンキー集団や、お嬢様グループ、地味組ともうすでに纏まっていて私に入るすきも無く…何のために私は住み慣れた町を離れ、わざわざ高い定期代を払ってまでここへ来たのか。と考えてしまうほど悩みましたとも。


 まぁ、なんだかんだ言っても過ぎてしまえば友達も出来たし楽しい高校生活だったけど。


 でも、なんと言っても、あいつは私を苛立たせる天才だったと思う。

 放課後に帰り道、傘を教室へ忘れて取りに戻れば…そこには彼女なのか遊びなのか知らないがクラスの女子と絡み合っているあいつがいた。驚いたかと聞かれれば、今更気にすることも無いような日常で、私は無視して教室へ入り傘を掴むと真っ直ぐ出口へ向かい歩き出した。

 もちろん視界にちらちらと映り込む男女は無視の方向で!!


 「なぁ、北京原人。もう帰んの?」


 あいつは、私がもう少しでこの異空間から脱出出来る!!と言うところで、見たくもないにやにやとした締まりのない嫌な笑顔を向けてきた。

 そして、くすくすと人を嘲る服の肌蹴た女子一名。


 「…っ」


 「おーい!北京原人?!」


 …おいおい、人様を笑う前に自分の顔を良く見ろ!今の私は確かに、やぼったい黒の長髪に一般的な制服をきっちりと着ている優等生キャラで…しかも地味だけど。でもこんな誰が来るかも分からない教室で、服を肌蹴させるほどふしだらではないわぁ!!なにより他人を嘲るとこが出来るほど綺麗な顔もしてねぇだろ!!


 …と、内心憤慨しつつ。

 私は頭に血が上ったまま……言ってしまった。


 「いい加減にしてっ!……もう二度と話しかけないで」


 あれから、廊下や駅や街中ですれ違うたび私たちの視線は交差したけれど、結局それっきり。何かが起こるわけも無く、本当にそのまま、私の高校生活は幕を閉じた。



 けれど、今でもたまにヤツを夢に見る。


 そして、いまだに予感がするのだ……三度目の再会を。


 

 感想など、頂けたら……嬉しいような、それはそれで恥ずかしいような(笑)

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