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NINJA PRINCESS  VS  QNOICH NINJA PARTY

作者: 城戸朗賢

始め、映画の脚本用にストーリーを練りましたが、小説にしたくなって、書いてみました。

痛快娯楽アクションです。

架空の城があまりにも巨大になってしまったので歴史小説ファンタジーみたいな感じです。

 大山城の居館の一室。傷んだ畳の上に五人の男たちが、大山城の見取り図を前に唸っていた。

「これ以上、詮索したら、大山の者に気取られてしまう。」

 皆、黙り込んだ。ろうそくの火が、隙間風に揺れている。ここは、居館の奥まった一室である。ろうそくの火が揺れるのはこの城のぼろさを物語っているといえる。

「もはや、打つ手なし……か」

 沈黙。

 皆、誰かが次の一言を口にするのを待っている。それは、誰でも言える、誰でも知っている一言であった。

 やがて、床の間の前に、一人布団を敷いて臥せっていた老いた男が口を開いた。

「姫に、嫁いでもらうしかないと皆、思っておるじゃろう?」

 皆、予想していたのと、微妙に違う一言に戸惑う。

「死んでも行かんじゃろうて」

 沈黙。

「ならば、掘ったこの穴を利用して、われら中之郷、殲滅の覚悟で奇襲を仕掛けるしかありません!」

 語気強く言ったものがある。

 皆が見下ろしている見取り図には四本の線が赤く走っている。それは、トンネルを示すものである。

「犬死ですな。」

 静かに言う男がいう。

「井戸を壊すのが、このトンネルの目的。相手が知らないこの戦法こそ効を奏するし、我が軍も、その後の囲い攻めに協力できる。」

 沈黙。

「他にどうするのです?」

「誰かを大山城に送り込んで直接調べさせるのです。」

「忍者を?」

「うむ……」

「われら中野一族は忍びの末裔……忍術に長けたものは大勢いる」

「それは無理でござる!よっぽど信用の置けるものを送らない限り…」

「左様、バレた場合に拷問にかけられるのは必定」

「でなくても、我が方が不利なのは最早、足軽の目にさえ明らか。いつ裏切って大山に内通するか知れたものではない」

「八つ裂きにされても、城内に忍び込んだ理由を絶対に言わないものなど……」

「勝算はそれしかありますまい」

 と、言っているのは、身分を隠すため粗末な身なりはしているが頬には立派なひげを蓄え、まだ、三十そこそこ……若いのに眼光の落ち着いた只者ならぬ男である。

「東殿、姫のことは、お諦めいただけますまいか?」

「中野城下五千の命を思えば……しかし……」

「あーあ、姫があっさり鷹虎の嫁に行ってくれればなぁ」

 と言ったのは中野忍者長の香介である。この男も、東殿と呼ばれた男と同じくらいの年である。年相応に、ときどき軽はずみな口を利く。


 時は戦国初期。ここ中野郷の城は、今、大山城に攻められる寸前で、風前の灯状態だった。幕府はすでに形骸化してながく、どの大名も、隣の国に襲い掛かるタイミングを見計らっていた。近隣の国で戦が起こっても、幕府には最早止める力はなく、まさに今、一挙に戦国時代の開始の火蓋が気って落とされようとしていた。


「とにかく、大山が、こっちに攻めてくるのは時間の問題でござる」

「明日にも来るかもしれん」

 それを引き止めているのは、ただ、大山の一人息子、鷹虎が中野の友香里姫に惚れていると言う事実ひとつだった。だから、友香里が鷹虎に嫁げば済む話ではある。同盟関係を結び大山の手足となって戦う。それはそれでよい。

「しかし、姫は鷹虎を毛虫のように嫌ってござる」

「無理もない……あれでは!」

「それに姫は……」

「東殿にホの字でござる」

東殿は静かに微笑んでいるようだ。

「うーむ…しかし、説得するしかないだろう…東殿!姫のことは、お諦め下され!」

「しかし、そうなると、東殿とウチと近いうちに戦うことになるぜ!」

 沈黙。

「友香里は嫁ぐまいて……」

 また、諦めたように義将が病床から言った。もう、先が長くないのであろう、擦れた声だった。

「大勢の人の命が懸かっている!なんとしても説得いたそう!」

 皆、顔を見合わせる。その顔に「そうだ、そうだ」と書いてある。

 と、そのとき突然、床の間にかけてあった達磨の絵が笑い出した。

 一同、仰天する。香介は懐に手を入れ手裏剣を投げる構えを取る。

「お前たち、こんな夜中に首を並べてそんな下らない相談をしていたか!」

 達磨の絵の中から、何者かが現れる。それは、女忍者、クノイチである。

 バッと覆面をはがす。

「あっ!姫……!」

 それは、友香里姫だった。

「鷹虎の嫁になど死んでも行くか!!」

 友香里は、鋭い視線で男たちを睨みつける。鋭い視線がなんとも凛々しく美しい女である。突然、友香里が現れたので、皆、唖然としている。<BR>

「お前たち!なにを呆けた顔をしているか!! 香介!! 私がここに潜んでいたのに気がつかなかったか! 敵の忍びだったらなんとする!!」

 香介、肩をすくめて小さくなる。友香里の眼差しは鋭く語調は強く、相手に有無を言わせぬものがある。

「さっきの話、私が行く。」

「さっきの…?」

「井戸じゃ! なにを呆けているか!」

「井戸……そんな!……姫にはその役はさせられませぬ!万一つかまれば…八つ裂きか、磔か…!」

「捕まったら舌をかんで死ぬまでじゃ。私が死んだら、葵を説得して鷹虎に嫁がせい!!」

「そんな、姫に無理なことを妹姫に…」

「いや!! 葵なら耐えられる! 私には耐えられん!!葵!」

 と、友香里は戸口のほうへ声をかける。

 一同その方を見る。何事も起きない。友香里が家老に目配せして、戸口のほうをもう一度見る。家老、気がついて戸を開ける。そこに葵がいる。葵は、友香里にとても良く似ているが、友香里のような魅力は放たれていない。友香里には何かしらオーラがあり、気が強く、キッとものを言うときの目つきは人を黙らせると同時に、ひきつけるものがある。葵はその点おとなしく、気も弱く、人を魅了する何かも持っていなかった。ただ、顔は姉に似て美しい。

「……」

 葵はうつむいている。友香里は男たちにものを言うときとは打って変わって静かに、優しく、妹に言う。

「よいな葵。お前は無駄に死ぬことはない。それに、中之郷の侍、百姓、皆の命がかかっている。」

 葵は姉に口答えしない。姉の気の強さも、決意も分かっている。

「鷹虎はいやか?」

 葵の前にひざを突く友香里。

 頷く葵。

「すまぬ、葵。しかし、お前に忍術はできぬ。私にはできる。鷹虎へ嫁ぐなど私には耐えられん。しかし、お前になら……お前は忍耐が強い。私の亡き後は……頼んだぞ。」

 葵は黙ってうつむいている。

「お姉さま……」

 葵の芽から涙がこぼれた。


 大山城から離れること一里(四キロ)。山の二合目あたりにある巨大な大山城から見下ろされるように平城ががある。中野城である。

 城内では昼間から宴会が開かれていた。客は大山城・城主 影虎とその息子 鷹虎である。宴会場の奥のほうには人のいない部分が設けてあってそこに刀やら屏風やら、高そうなものが所狭しとなれべてある。それらはすべて大山城からこの中野城の友香里姫に贈られたものだ。中央に見事な着物がある。

 鷹虎はぐでんぐでんに酔っていてろれつも回らずよだれさえ垂らしていてとても四十歳をすぎているとは見えない。

「さぁ、姫まいろう。」

 鷹虎は姫の手を掴んで放さない。姫の着物の袖口から手を突っ込んだりしている。

「いけません・いけません。」

 と姫は拒み続ける。

「早く着替えて。」

 早く着替えろとは、今日、持ってきた見事な着物のことで、鷹虎は今すぐ姫を嫁にもらうつもりでいる。

 鷹虎の隣で陰気な雰囲気の影虎が黙って飲んでいる。

 二人の周りには屈強な侍が十人、取り巻いている。いずれも大山城のものである。

 廊下では中野城の家老が部下と話している。

「本当に今日、連れて行かれかねないぞ。」

 この三年間、色々な贈り物を断りきれずに頂いてしまった。そろそろ腹をきめないと・・・しかし、姫は鷹虎のところへ嫁に行くのをかたくなに拒んでいる。

 鷹虎はワザと姫の腿の上に汁をこぼした。それを自分の袖で拭きながら

「やぁ、そそうを・・すまぬのお・・・」

 姫の着物のすそから手を突っ込んで、更に奥の方をまさぐろうとする。鷹虎は、スケベな行動を取るたびに涎をたらすくせがある。涎で姫の着物はべたべたになっている。

 逃れようとする姫。

「いけませぬ・・・」

 中野城の侍達が怒りに耐えている。家老が抑えるように廊下から指示している。


 さて、縁の下には小杉がいた。この役は間抜け面で舌が回らないほうが良い。

 間抜けな小杉は中野城の秘密兵器である。彼はトンネル堀りの一員なのだ。この時代、まだ、武田信玄は現れておらず、日本において、トンネルを掘って敵の城の井戸を破壊し渇攻めにする戦法は、まだ、確立されていなかった。が、中野城ではその技術が既に確立しつつあった。それは中野城の生き抜く唯一の活路であり、絶対秘密事項だった。

 しかし、下っ端の小杉はそんなことはわからない。彼は、筋肉だけが一流で穴を掘るのが速いだけである。 小杉は仲間の五留吾とドロだらけの顔を穴から除かせて

「姫を連れて行きやがったらこ・これでツっ殺してやる!」

 といきまいてスコップのような道具を握り締めている。面倒なので以下、スコップと書く。姫は超人気で城のみんなから溺愛されているのである。しかし、今、上で難にあっているのは実は姫の妹 葵。友香里姫の影武者である。

 葵は鷹虎から押し倒されて上からのしかかられている。まるで犯されそうである。しかし中野城のものたちは手が出せない。そんなことをしたらそれを言いがかりに攻めてくるに決まっているからである。大山城から攻められたらひとたまりも無い。何とか上手く外交して時間を稼ぎ・・・・・

 と、

「そろそろ、おいとましようかの。」

 と、突然、無口な影虎が端を置いた。

 みんな、意外に思う。葵はサッと逃れて廊下へ着物をなおしに走った。廊下に出ると家老の胸に顔をうずめて泣き出す。

 影虎は何かものほしそうに黙っている。これは、土産を要求しているのである。

 いつものことなので、城の者達はわかっている。用意しておいた壺を持っていく。影虎は目も向けない。次に見事な盆栽を持っていく。知らん顔をする影虎。いつもは、こちらが貧乏城だとわかっているので出されたものを黙ってもって帰る影虎である。二つめの品を受け取らなかったためしがない。家老が出て行き。

「一つこれを!」

 満面の笑みでさっきの盆栽を押しやる。

無表情の影虎。満面の笑みを続ける家老。影虎は盆栽を見ない。笑い続ける家老のこめかみに血管が浮かびだんだん太くなる。

 鷹虎だけが相変わらず酔って馬鹿げた冗談を言い続けている。鷹虎は父親のしている大事な話に一向興味も敬意も示さず、酒を注ぎに来る女中の手を捕まえようとしている。

「わかりました。」

 家老は言って席を立つと部下に向かって、大きくうなずく。言われた部下は「耐え難い」といった表情でうなずく。


「ちと、言いにくいが・・・」

 目の前の二十巻ほどからなる巻物の山を押しのけて影虎がやっと口を利いた。この巻物は、家宝で秘伝の忍法帳である。中野家の家宝そのものである。

「今度、その川に・・・・」

影虎は、扇子でゆっくりと、窓の外を指した。

 大山城と中野城の中間辺りに流れの速い川がある。鹿渡りかわたりがわという。

「姫、お似合いでござる」

 友香里は今、町の娘がチョッとおめかしをして出かけるときに着るような物を着せてもらっている。女中が二人がかりで着付けをしている。それを東殿が面白そうに眺めている。

 ここは、東城。中野城より一回りほど大きい、隣の国の城である。

 着付けが終わると東殿が言った。

「うむ、これでよかろう。」

「きれいな着物……」

「それで意外に安いのだ。」

 友香里は、着物の生地をなでている。

「戌亥の特産です。」

 側にいた男が言った。中肉中背、気の張った顔をしている五十がらみの男である。

「じゃぁ、今度は、もんぺになってもらおうか」

 友香里は、きれいな着物をもう少し着ていたい。

「先にもんぺをはいておけばよかったわ。」

「もんぺだとて、姫がはけば見栄がよかろう」

 友香里は、キッと怒った顔をする。他の者なら、この顔を見て友香里が真剣に怒っていると思って、さぞ神経をすり減らすことだろう。

「姫、呉服屋の末娘になった気分はいかがでござる?」

 大山城では時折、町の若い娘を女中として城内に入れていた。もちろん、城にはもろもろも機密もあるため、特に信用の置ける娘が厳選される。もちろん、一旦城内に入ったら、用意には出られない。まず、下っ端侍の嫁にでもなるか、一生城内にいるか、出なければ、よほど遠くの国へ嫁ぐしかない。戌亥と大山は、昔から親交があり、距離も適度に離れており、よく戌亥の町娘の末っ子などが、大山へ入っていた。

「この着物は、素敵。」

 友香里は微笑んだ。子供のころは何かというとすぐ、突っかかってきて人の顔をつねろうとしたものだ。友香里よりも十二歳年上の東はよく、子供のころの友香里に頬をつねられていた。目がパッチリして気の強い友香里が当時まだ十七歳だった東にはかわいくて仕様がなかった。十七歳……その時分には東はとっくに大人だった。五歳の友香里も、すでに東に恋をしていた。

「あさってだな。姫が大山に入るのは」

 東が言った。

「うむ。」

 と、五十がらみの男が頷く。

「わが国としては、大山城落城の暁には、東殿に大山城主をしていただき、同盟関係を結びたい。姫、全ては 姫の手にかかっています」

「はい」

 五十がらみを睨みながら頷く友香里。

「気の強い、末っ子だな。」

 皆笑う。

 友香里は十八。女らしい笑い方をするようになったなぁと、東は思う。

「では、もんぺになっていただこうか。それから、馬にでも乗ろう」

 馬に乗る。馬に乗るとは、一時期、東と友香里とそれぞれの馬に乗ることを意味していたが、ここ、一年ほどは東の後ろに友香里が乗ることを意味するようになっていた。東は友香里が五歳のころから自分に惚れていることを知っていた。

(そろそろ嫁にもらってやりたいものだ)

 と思っていた。子供のころ、友香里は東の後ろに乗るのが大好きだった。一時恥ずかしがって自分の馬に乗っていたのだが、最近は、また、東の後ろに乗るようになっていたのだ。身の軽い友香里は馬の負担にもならなかった。馬は気持ちよさそうによく走った。友香里は東の背に体をくっつけながら、いつかこの人のところへいくんだと心に決めていた。

「馬、もんぺで馬?」

 友香里は不機嫌そうな顔をして見せたが、喜んでいるのは明らかだった。

「では準備を……」

と 、言いかけたときだった。ほかならぬ、馬の早がけの音が部屋に響いてきた。ダダダッと激しく玄関に駆け上がる音がする。東は玄関のほうの戸を開け

「何事だ?」

 と尋ねる。

「む、遠野のお方か?」

「はい、隠居は?」

「ここに居る」

 遠野とか隠居とかは暗号である。

 中野の若侍は、息を切らして部屋に上がってくると手をついて自分の姫に報告をした。

「葵さまが……」

「葵がどうした?」

 友香里はさっと顔色を変える。

「葵さまが、人柱に……」

「なに?」

「いつ?」

「先ほど、大山殿じきじきに連れてゆかれました」

 友香里、気色ばむ。

「うぬう……お前らは黙ってみていたのか!」

 友香里が二、三歩詰め寄って怒鳴りつける。

「大山殿には、葵さまが姫の影武者をしていることを見ぬかれ……」

「くっ……よ、よし!では、今夜にでも忍者隊を編成し、例のトンネルと城壁から攻め込もう!」

 友香里は、冷静さを失っている。

「姫、落ち着かれよ。」

 東が、一喝した。

「何の人柱だ?」

 五十がらみが尋ねた。

「鹿渡り川に橋をかけると」

「まずいな。あの川は中野城の堀のようなものだ。橋をかけるとなると……」

 皆、しばし、黙考した。鹿渡り川に橋をかけると言うのは、姫を速く嫁によこして、大山の傘下に入らなければ攻め滅ぼすぞ。と言う意味である。あんな馬鹿殿の傘下に入ってもすぐ行き詰るのは目に見えていた。

「作戦通りいこう!」

 東は決断した。

「私は大山殿の性格を知っている。そうすぐには、やりません。じっくりと準備をして、中野をいたぶりながら、その柱を立てるでしょう。まだ、時間があるはずだ。」

 落ち着きを取り戻し鋭い目線で東を見上げる友香里。

「よし、井戸をつきとめ、葵も助け出してやるわ!!」


 大山城は周囲を壁に取り囲まれている。もちろん防御用の城壁である。壁は二メートル以上あり、その最上部には立派な瓦屋根が着いている。このあたり、よく映画などで見るつくりと同じである。

 城の外はすぐ森である。こういうつくりの城は実際の戦国時代には無い。防御しにくいからだ。しかし、この小説ではそうなっている。城の後ろは深い山で、城は後ろから攻められる心配が無い。いや、むしろ、背後の森をそのまま残しておいたほうが有利である。


 今、その森の中に忍者の死体が一つある。

あちらにも、こちらにも。

 この城の忍者は全て女。すなわちクノイチとしたい。理由は作者が女好きだからである。男の死体が横たわっているのと女のとでは大いにイメージが違う。若い女の忍者の体がこう・・・うつ伏せになって、ケツの辺りがセクシーに盛り上がっているところなんか、やはり絵になる。

 森の樹から城壁の上に飛び移ってくる忍者がいる。この男は香助である。香介はこの城の忍者ではないから男だ。

 香助に続いて、二、三の忍者が次々に飛び移ってくる。

 香助は城壁の上を天守のほうへ向かって走っていく。

 巨大な10層の城の7層目の屋根の上にクノイチ達の隊長の、あきがいる。あきのところからは侵入してきた忍者達とクノイチたちとの戦いが見える。クノイチ達のほうが数が多く圧倒的に有利である。動きは互角。


 城の中に女中部屋がある。この部屋には、女中達が夜は寝ている。しかし、今は半分ほどの布団はもぬけの殻だ。

 その、一番はしに寝ている友香里、すうっと目を開く。鋭くあたりの様子を伺う。友香里、そっと布団から抜け出して洗い物置き場に向かう。

 洗い物置き場で裸になる友香里。上から下まで何も着て無い状態である。こんな着替え方をするのは作者の趣味である。それから言い忘れたが友香里のイメージは実在のスポーツ選手からとってある。そうしたほうがキャラクターのイメージがしっかりして書きやすいからである。読者も読み易いと思う。

 洗い物置き場は忍者服の隠し場所でもある。友香里その中からすっと一着を取り出す。窓の外で突然声がしてビクッとする友香里。

「何しに来た。」

 裸のまま振り向けない友香里。緊張して立ちすくむ。

「わかりません。」

「なぜ逃げないんだ?」

「・・・・」

 外の屋根瓦の上で、あきが、他のクノイチと話している。友香里、忍者服をそっとつまんで箪笥の陰に隠れる。

 あき、気配に気がつく。振る帰り、窓から中を覗き込む。息を殺している友香里。

 胸が激しく動悸している。

 なにごともなく、気のせいかと思う、あき。

「蜘蛛の巣を使って一人、生きたまま捕まえよう。」

 友香里はいつの間にか忍者服に着替え終わっている。あき達がいないのを確認すると外へ飛び出す。

<BR>

 城壁の中を飛び回っている忍者達。侵入してきたものたちはほとんどがやられたが、強いのだけが三人残っている。手を焼いているクノイチたち。そこへ、あきたちがやってくる。形勢が逆転する。あき達は一人に狙いを定め忍者を上へ上へと追い込んでいく。驚異的なジャンプ力と鍵の手のついた綱を使って上へと屋根を昇っていく忍者とクノイチ達。

「む、アレは誰?」

 あきが叫んだ。ほかのものは何の事かわからない。

「あれだ、うちらの仲間じゃないわ。」

 指差されたクノイチはもちろん友香里である。

友香里、追われている忍者にいち早く追いつくと、忍者を誘導して城の別の側面へ回る。そして空中を歩き出す。

 城から、小高い松の樹の枝に張られた細い綱を見つけるクノイチ。ロープを伝って二人を追おうとする。その瞬間、中央で切れる綱。友香里は松のほうへ忍者は城のほうへ・・

 二人とも、うまく逃げたと思う。

 が、忍者は空中で、あきに後ろから抱きつれていた。


 自爆落とし! ・・・忍者が思った時、あきが消える。次の瞬間、空中に逆さ宙吊りになる忍者。口に猿轡がされ腕を捻り挙げられ足首を縛られた屈辱的姿だ。素早く縛れ決してほどけない、あき独特の特殊な縛りだ。


 一方、友香里は着地して巨大な城のほうへ突進する。

 友香里を目で追う、あき。友香里は城の中に消える。

 この城は安土城の五倍くらいの巨大なものである。数百人の人間が住んでいる。見つけ出すのは・・・

 考えている、あきの足元に血が落ちてくる。見上げると宙吊りの忍者の心臓に手裏剣が突き刺さっている。更に上空を見上げる・・・・。

 あきには黒い大きな塊が星の無い冷たい真っ暗な空にスーッと上っていくのが闇の中で見えたような気がする。


 朝。隙のない目つきの夏川の前に着物姿の、あきが正座している。二人の間には机も何も無く、夏川は、あきを直視している。夏川は顔の作りは何となく締まらない部分はあるものの目つきのきりっとした鋭そうな男である。この役はハンサムだがハンサムすぎず、どこかしらコメディアン風で間抜けな持ち味が望まれる。普段気が強くてしっかりしているが時々ドジをしてしまう。そんな男だ。

 夏川はピシッと正座していて全く姿勢を崩さない。くそまじめな男である。年は若いが、この男は大山城の家老に当たる。

「見つからない……か……」どこかに隠れているのか、それとも逃げたのか?」

「わかりません」

「お前らは、何のための忍びなんだっ!!」

 夏川が怒鳴った。

「もしかして、この城の中にいる誰かかもしれません」

「なに?」

「確かに特に優れた忍者なら、私たちの包囲をのれて逃げたか、この城のどこかに潜んでいるかもしれません。しかし、そんな凄い忍者は……そんじょそこらには……」

「なるほど、城の中の、たとえば女中に成りすましている…とか・・・お前、城中の女の顔は全て覚えているか?」

「いいえ、全部までは……北側の四分の一くらいが私の担当ですから」

「ウウム・・・だいだい的に顔見聞をしてみるか」

「まえまえから、この城に入っている女かもしれません」

「ム? ……そうだな……」

「この城の女全部を拷問に掛けましょう。」

「お前だったらそう簡単に口を割るか?」

「……」

「お前は意外に拷問には弱そうだな。」

 夏川はそんなことも真剣に言う。

「赤戸城で拷問を受けたときはどうだった?」

 あき、赤くなる。

「お前は拷問が好きなのか?」

 背筋を伸ばし、真剣な表情で言い続ける夏川。

「私に拷問をやらせてください。」

「そ奴、死んでも口を割るまい。・・・死んでも口を割らないだろうと言うことで責めるわけだから一人一人にとて つもなく時間がかかる・・・うーむ・・・それに、やつらの目的も気になる……」

「はい、忍びなら普通、見つかった時点で逃げるはず……なのに、奴らは自分たちが不利なにもかかわらず、逃げようとしませんでした」

「いったいなにをしに来たんだ?…奴らの狙いはなんだったんだ?…」

「殿の命を狙いに来たのでは…? 」

「……うーむ……」

 そこへ

「失礼します。」

 と、声。けげんそうな顔で振り返る、あき。

 ふすまがスーと開いて、友香里が三つ指を突いて深々と頭を下げた。友香里は黙って部屋に入るとお茶を入れる。

「何か、よい手は無いか?」

 夏川は入ってきた友香里を気にもせず、あきに問いかけを続ける。

「夏川様!」

 突然あきが語調を荒げた。

「今は、極秘の打ち合わせ中、何ゆえにこのようなよそ物にお茶など入れさせておるのです。」

 友香里が夏川の方をチラッと見る。夏川、相変わらず真剣な顔でうなずいて何か言いかけようとするのをあきは無視して

「ゆう!今は極秘の会議中じゃ!お茶なんかもって来ていいときじゃないわ!手打ちもんだよ!!」

「いや、私が頼んだのだ!」

 夏川の語調が多少鋭くなった。

 友香里、夏川にお茶を差し出す。

「今日で何日になる。」

「まだ、たった三日目です!」

 あきが横合いから叫ぶように言った。

「今日から私が使ってみることにした。」

「私の部下です。」

「今、からそのことを話すところだ!」

 川は憮然とした。夏川はムキになりやすい向きがある。

「このものは当城主大山様御用達の呉服屋の紹介で参ったものじゃ。素性に間違いは無い。」

 あきは気に入らない様子。

「先日、面接した折に作法も良くわきまえておるし、いたく頭の切れる。それにいたく動きが美しいおなごと思っ たゆえ今日から私が、使ってみておるところじゃ。」

 女心の全くわからない夏川はあきの前で平気で言う。

 あきは友香里を睨みつける。


 勝手部屋で女中達が昼食の支度をしている。ここは城の中、唯一の勝手部屋で

十層の城の三層目にある。三十坪ほどの土間である。今、下から続く石階段から友香里が袋を背負って上がってきた。あきがやってきて袋の中を確認する。芋とか野菜である。

「今は夏川様から御用は入っていないのかい?」

「はい。」

「じゃ、それを洗っておいで!」

「井戸は?」

「ここのじゃなきゃ下の奥のに決まってるじゃないか!バカだね!!」

「はい。」

 友香里はうなずくと野菜の入った袋を担ぐと外へ出て行った。

友香里の歩いているのを目で追っている、あき。友香里の歩く先から夏川が逆方向に歩いてくる。ジーっと見ている、あき。近くにいた夜はクノイチの女中に訊く。

「ゆうの働きっぷりはどうだい?」

 と尋ねる。

「いいです。特にもの覚えがいいです。」

 チッ・・・と舌打ちする、あき。

友香里と夏川が廊下で出会った。何か話している。夏川が友香里の担いでいる袋を手にとっている。意外に重かったらしく落としそうになる。珍しく笑う夏川。友香里、夏川の手から袋を取ると会釈して再び歩き出す。

「重労働もいやがらず頑張ります。」

 クノイチの女中が言った。

「夏川様の気をひこうとして野菜が重い振りをしてるわ。尻軽女が!」

 言ってみて、あきは思った。あの野菜がたっぷり詰まった袋は十分重いはず。・・・しかし、あきの目には、友香里が重い振りをしているようにしか見えなかった。


 一層。この城には中央に豪華であでやかな漆彩色を施した吹き抜けがある。吹き抜けは一層から八層まであり吹き抜けの周りには物見やちょっとした舞台が作られており、能などがまるで空中舞台のような趣で楽しめるようになっている。

 しかし、一層目においては豪華なのはほとんどその吹き抜けの周りだけで、だいたいが土間だった。戦時にはここに武器を置いて城の隅々にまで運搬するのに適しているためである。

 薄暗い土間の奥にひっそりと扉がある。そこを空けると井戸部屋である。直径三メートルほどのでかい井戸につるべが設けてあり、そのつるべはには、やぐらが設けられて屋根までついていた。その上に城の二層目の天井があった。小さな明り取りの窓があるだけの冷たいこの場に野菜洗いに友香里が一人で来させられた。

 井戸が異常に大きいのは、ここが、山の二合目辺りにあって井戸が深いためである。

 今、友香里がつるべを引いていると、突然それが重くなった。

 はてな?何かに引っかかったのとは違うような・・・

 友香里はグッと体重をかけてつるべを引いた。

 すると・・・・

 どーん・・・と黒いものが井戸から飛び出してつるべの櫓の上で忍者になった。

 反射的に袖口に手を入れる友香里。手裏剣が入っていたら投げていた。

「姫、井戸を見つけたからにはサッサとづらかりましょう。」

 それは香助だった。

「香助!」

 香助は中野城の忍者の棟梁である。

「どうやってここへ?」

「へへ・・」

 香助は自慢は言わない。そういう時はへへ・・と笑う。

「違うのじゃ!井戸がもう二つあるのじゃ!」

「もう二つ・・・。」

「それは確かなのじゃ、二つは分かったのじゃ。ここと三層の勝手場にあるじゃ。」

「もう一つは?」

「まだ、わからないのじゃ!」

「ウーン・・」

 私がモデルにイメージしている彼女が、いちいち「なになになのじゃ。」と喋ったらさぞかし面白いだろう。

「この城は思った以上に大きいわ。まだまだ、時間がかかりそうじゃ。」

「しかし、あまりおちおちしていると正体がバレますぞ!」

「私なら大丈夫じゃ。東様に・・・」

「うむ。東様も心配しておられる。」

 友香里の表情が変わる。

「姫、まさかここで恋文をしたためるおつもりではありますまいな。」

友香里、図星を疲れてドキッとする。。

「またぞろ恋文のために三里も走るのはかないません。」

「あれらは恋文などでは無いわ!」

「なんなら、今回は私が代わりに書いておきましょう。」

「バカを申せ!」

「しっ・・」

 二人、耳を澄ます。今、誰か女が一層へ降りてきた。

 友香里と香助、大急ぎでつるべを引っ張りながら

「あっしは、一旦引きあげやす。例の合図をお忘れなく。」

 野菜に水をぶっ掛けて洗っていたような体裁を作る。

 ガラッと板戸が開いて夜はクノイチの女中が井戸部屋に入ってくる。

「あーあ、ここは遠いし寒いし陰気だし・・・やだね。」

 香助の姿はもう無い。野菜を洗っている友香里。

「はい。」


 中野城の侍達があわただしく走っている。その行く先に家老がいる。

「なんと?!」

 侍からなにか言われ、青くなって走り出す家老。

 正客殿に影虎と屈強な侍達が十人ほどいる。

入ってくる家老。いつもの如くよい笑顔。

「これはこれは・・・突然のお越しで・・・」

 家老は上手いこと世間話をした末にこの間の件は冗談だったことにしてしまおうとする。が、影虎は家老の冗談には一向のってこない。

「今日は葵殿を連れて帰りたい。」

 しいては先ず、みそぎしているところをこの目で確認したいと言う。

 中野城の侍達は

「影虎殿は侍を十人しか連れてきていない・・・・斬ってしまえるのでは?いっそ斬ってしまえば・・・」

 と囁いている。しかし、あの影虎が、影武者では無いという補償は無い。臍を噛む中野城の若い侍達。


 白州。雪が降りそうな寒空である。

葵が白装束を着て表れる。これも影虎が贈った。絹地なものだから、かなり体のラインとかわかる。

無口な影虎は何も言わない。既に冷水が桶いっぱい用意されている。

 泣きそうな、葵。なんともいえない緊張感があたりいっぱいに漂っている。大山城の影虎と十人の侍はじめ中野城の家老一同五十人あまりが声もなく居並んでいる。なんと言ったところで、もう運命は変わりそうに無い。間が持たない。葵、意を決しかねながら恐る恐る冷水を腿の辺りにかける。冷水が腿を切るように刺す。

「ああっ!・・・・・!」

 冷たさに悲鳴を上げそうになる。

 絹の白衣がスーッと透明のようになって肌にピッタリくっついていく。

 影虎は何も言わない。その陰気な冷たい目が少しだけ葵を見た。

 恐ろしい目だった。

 葵は肩から一気に水を浴びた。全身の肌が透けて見える。葵は恐怖と寒さと恥辱にガタガタ震え、

「あっ・・・ああっ・・!」

 と小さく悲鳴をあげながら冷水を浴び続ける。


 中野城 居殿。ここに、中野城主 七十歳の中野義将よしまさがいた。

「姫から、連絡はまだか?」

 義将はつぶやいた。室は十畳ほど。室には品のよい掛け軸などの芸術が二、三点あるばかり。だが、畳といい襖といい全てが洗練されている。

 義将の他に家老と香助と二人の客人があった。客の一人は東殿である。この人はこのシーンのほかにもう一箇所くらい出てくるだけだが極めて重要なポジションである。まだ、若く、落ち着いて、知恵があり、自信に溢れ、しかも、でてきただけで「こいつが主役」と感じさせるほどのオーラがほしい。この人物がどっしりしていて読者を惚れさせるようなものが無いとこの話は全く読み応えの無いものになってしまう。きらびやかな色彩のなかの”黒”のような存在である。

 義将は障子の方に顔を向ける。

「葵はまだ無事か?」


 大山城 中天守閣。天辺の間。夜。

 大山城は大天守閣のほか、中天守閣と小天守閣が有る。大天守閣はひときわ高く、中天守と小天守は一周りほど小さい。中天守天辺の間には影虎。小天守天辺の間には鷹虎がの寝室となっている。この二つの天守は並ぶようにたっていて互いの距離は十五メートルほどである。

 今その中天守の間に葵がいる。白い着物から白衣(寝巻き)に着替えようとしている。影虎が入ってくる。付き添いの侍が豪華な座布団を敷き、影虎が座ると静かに部屋を出てふすまを閉める。葵、解きかけた帯を慌てて巻きなおすと影虎の前にひれ伏す。何も喋らない影虎。そのままずいぶん時間が流れる。

 突然、何の前触れも無く、影虎は葵に襲い掛かる。葵を押し倒そうとする。

 葵は

「お許しください。」

 と言いながら必死に逃げる。影虎は追いかけて押し倒そうとするが方や七十過ぎ、かたや十六歳なので何分、中々捕まらない。

 中天守での、どたばたと騒がしい音が小天守に聞こえている。鷹虎、眠れない。


 中々捕まらない葵。襖まがすっと開いて、先ほどの侍が入ってくる。葵をあっという間に捕まえると腕を掴んで捻り挙げる。そのまま葵を窓のところまで連れて行き障子を開ける。落としそうなくらい葵を突き出す。<BR>

「見ろ!」

 ちょうど三日月が雲間から現れて、かすかな光が城の石垣の底を映し出す。そこはVの字型に切れ込んだ深く狭い空堀である。石垣で、できている。

「この堀は敵から城を守るためのものではない。ここから人を突き落として殺すためのものだ。」

 葵はVの字型の切れ込んだから彫りに自分の体が挟まっている様を想像した。平らでない分、落下の衝撃 がやわらげられ、即死しないで・・・

 葵の口から悲鳴が上がる。侍は葵の体を布団に叩きつける。

 影虎、重い口を開く。

「お前は姉ほど愛されてないゆえ殺してもおもしろうない。」


 小天守まで葵の「お許しください。」と言い続ける声が響いている。


 その二つ下の層の、とある部屋。夏川が禄高の報告書をチェックしている。

 そこへ、若い侍が入ってくる。

「なんだ?」

「実は鷹虎様が・・・・」

「またかっ!!」


 小天守へ今の若い侍がやってくる。

 鷹虎はすでに着流しに着替えている。

「すまぬの。」

「いえ、若殿のためなら喜んで。・・・お供もさせていただきます。」

「え?来るの?」

「はい。」

 とぼけ顔で答える若侍。

「ぬしも好きじゃの。」

 鷹虎、よだれをたらしながら笑う。若侍も少し笑う。

 中天守から

「あ・・・お許しを!・・・ああっ・・お許しを!・・・」

 と言う声が聞こえ続けている。

 鷹虎と若侍、部屋をあとにする。


 ちょうどその時間・・・・真っ暗な穴の中でうごめく者達がいた。

「おい、やっぱり止めよう。万一でも城も真ん中辺りに出た日にゃぁ・・・」

「俺の計算に間違いは無い。」

「計算たっておえまのは全部、勘じゃねぇか!」

「勘だろうがなんだろうが今までオレがここってったとこにゃぁピッタリ当たってたんだ!それも立派な計算でぃ!」

 言いながら強引に掘り続ける小杉。

 ぽこっと地上に穴が開く。

 緊張する小杉と呉留五。その他二名。小杉が恐る恐る穴から顔を出す。

 どうやら、何か大きな建物の縁の下のようだ。しかし、建物の外れのほうである。もう少しで穴が外から丸見えだ。

 ヤバイ・・・・と思ったとき、侍らしき人影が二つやってくる。慌てて穴のなかに隠れる呉留五と小杉。目だけ出して様子を伺う。

 やってきたのは鷹虎とさっきの若侍である。鷹虎は胸を張ってずたずたと歩いている。鷹虎の後ろから若侍がヒョコヒョコ走るようについてきている。若侍がツツっと前に走り出ると小杉たちの穴から五メートルくらいのところで立ち止まる。若侍、懐から鍵を取り出して戸を開く。

「お前はここで見張っていろ!」

「はい。」

 鷹虎だけ中へ入っていく。

 それは城から、せり出すように伸びている居館である。大変立派なつくりで大きな建物だ。

 小杉と呉留五、穴にもぐって相談する。

「どうする?」

「バカ、声が大きい。」

 小杉は声をひそめた。

 若侍は何かニヤニヤしていて、何も気がついてない。

「こ・ここ、縁の下の真ん中じぇねぇぞ・・・」

「日が昇ったら丸見えじゃねぇか?」

「何とかして隠そう。」

「いやいや、あわてるんじゃねぇ、縁の下なんてそうそう誰も見やしねぇって!」

「それより葵様を助けよう!」

「バカ!そんなことしたら大山が攻めてくるじゃねぇか!」

「よ・良くワカンネェ・・」

「姫様に葵様のことを知らせるんだ!」

「知らせてどうすんだ?」

「・・・・」

「とにかく一大事だから姫様に知らせるんだよ!!」

「これから、俺らで井戸をさがしちゃどうだ?」

「それもいいな・・・・」

「捕まっても口を割らない自信があるか?」

「ある。」

「拷問はいてぇぞ。」<

「じゃぁ、・・・ねぇ・・」

 と、縁の上から女の声が聞こえる。

「あっ・・・な、なりません!」

 押し殺した悲痛な声。

「うへへ・・これ、声を立てる出ない。」

 とか言いながら無神経な鷹虎の声は大きい。

「大人しくしないと親父に言いつけてお前の国を攻めてしまうぞ。」

「お、お許しを!」

「うへへ・・・・綺麗じゃのう・・・姫!」

 姫、と聞いてビックリして顔を見合わせる小杉と呉留五、そのほかの二人。

「おい!」

「姫が!」

「すぐ助けに行こう!」

 上からは、どたどたと、鷹虎が女を取り押さえようとしているらしい物音が聞こえる。

「ああ、お許しを!

「姫・・うへへ・・やっぱり姫はいいのう・・・」

 女の押し殺した悲鳴が凄くエッチなムードで聞こえてくる。

「いいではないか。どうせ、親父とはもうやっちゃったんだろ?」

 縁の下で聞いていた四人。

「やっちゃった・・!?」

「む・・姫が・・・むむ・・・うっ・・・・」

「まて、本当にうちの姫か?」

 上からは

「お、お許しを・・ああっ・・そ、そこまでは・・・ああっ・・お許しを!」

 縁の下の四人は穴から、這い出ようとする。しかし、若侍がいる。若侍は、なかの様子を伺っている。

上からは

「お許しを・・・・小国とはいえ私はレッキとした姫・・・他のものに知れては困りまする・・」

「うへへ・・ひめぇ・・・・」

 この居館は影虎が近隣の小国から人質としてとってきた姫を住まわせている、大奥に似た建物である。

もう、一刻の猶予も無い。あの若侍をみんなで襲って・・・四人は目配せする。と、若侍、見張っているはずの戸をあけて、すすっと中へ入っていってしまう。四人、すすっと穴から出て這い進んで戸のところへ来る。なかの様子を伺う。さっきの女の声は既に喘ぎ声に変わりつつある。呉留五、戸に手をかける。意外にも鍵がかかってない。中をのぞくと土間の向こうに廊下と、その先に派手な大きなふすまがある。

 若侍の姿はない。四人、なかに入る。既に女の喘ぎ声が大きくなっている。四人、お互いの下半身に目をやる。女の喘ぎ声がもう一つ加わって二つになる。呉留五、廊下に上がろうとして自分のドロだらけに体に気がつく。困る四人。辺りを見回す。と土間の奥のほうに井戸が少し見えている。四人、裸になって大急ぎで体を洗う。

 襖の向こうかでは、若侍が鷹虎になりすまして女たちに抱きついている。女たちも気がつかないフリをしてきゃぁきゃぁと喜んでいる。

 外から聞いていると、だんだんエッチな喘ぎ声が三つも四つも聞こえだす。四人、着物の裏とかで適当に体を拭くと廊下を、裸のまま廊下をしのび脚で進み、襖を少しあけてなかの様子を伺う。中は、真っ暗で何も見えない。エッチな声だけ、あっちからもこっちからも聞こえる。四人、中へ飛び込んでいく。


 女中部屋で寝ている友香里。目を開ける。音もなく、するすると布団から抜け出す。二十二人ほどの女中が寝ている。十ほどの布団はから。忍、クノイチとなって見回りに出ている。寝ているものは誰もおきない。但し、それはこの部屋の女達だ。ふすまの向こう、隣の部屋で眼を開いたものがいる。勿論あきである。

友香里、それに気づかず、部屋のものが誰もおきていないのを確認すると素早く洗い物部屋に行く。

 隣の部屋で目を開けている、あき。耳で様子を伺っている。

 友香里はクノイチ姿になって窓から外へ飛び出していく。


 友香里は物陰に隠れて、見張りのクノイチたちを探している。忍術を使って隠れているクノイチたちを一人二人と見つけていく。雲間から月が現れる。友香里はつきが作り出す建築物の陰に入り込んで、すー・・・と移動する。

 友香里がまだ調べてないのは城の西側の大奥屋敷のある一角だけだった。友香里は当たりを伺いつつ、そちらのほうへ移動する。

 大奥の建物の中から、クノイチが一人忍び出てくる。そのクノイチのところへ他の二人のクノイチが集まる。友香里のところから何か話している様子が伺える。しかし、何を喋っているのかわからない。友香里、耳を澄ます。だんだん、音が聞こえてくる。その音は次第に大きくなってきて女のエッチな声と鷹虎の下司な声になる。クノイチ達の話し声は聞こえない。と、クノイチ達のかすかな笑い声が聞こえる。クノイチたちが油断した瞬間に一気に大奥の縁の下へ走りこむ友香里。縁の下の様子を伺う。誰もいない。縁の下を素早く移動し、大奥の裏木戸へでる。あたりの様子を伺う。裏木戸に鍵がかかっていないのを見て。一瞬、考える、が、思い切って中へ入っていく。

 大奥のなかは妖艶な様子で盛り上がっている。友香里、あたりを探る。と、奥に木の扉があり、開きっぱなしになっている。その奥に井戸が少し見える。友香里、当たりを警戒しつつ、走って井戸のところまで来る。懐から小石を出して落とす。しばらくすると・・・ぽちゃ・・と、かすかな音がする。友香里、満足げにうなづく。井戸さえ見つければもう、用は無い。大奥屋敷を出ようと身を翻そうとした瞬間、何かの気配に気付いてピタッと動きが止まる。

 天井から声がする。

「わたしが、ずーっとお前の後をつけてきていたのに気がつかなかったのかい?」

 友香里、振り向きざまに手裏剣を投げる。あき、キーンと跳ね返す。友香里、窓へ向かってダッシュする。あき、追う。窓から飛び出す瞬間、またしても振り向き、今度は短刀で切りつける友香里。

「うわぁっ!」

 かろうじて避ける、あき。胸の辺りを切りさかれる。鎖帷子くさりかたびらがなかったら致命傷だった。あき、ムチのようなものを出して友香里を攻撃する。友香里の手首を絡めとる。すかさず、もう一本のムチがとんでくる。ビシッ・ビシッと打たれる友香里。二発目で覆面が吹っ飛ぶ。

「やっぱりおめぇか。」

 友香里、ばっと掌を広げる。サッと避ける、あき。友香里、その瞬間にムチを切ると煙幕のなかでスピンする。煙幕が友香里を包む。そのまま友香里は大奥屋敷のほうへ逃げる。逃げるときに、またしても、あきのムチを一発食らう。

 大奥へ続く襖を開けたと見えるまもなく開けてしかも閉める友香里。追う、あきへ襖の向こうから手裏剣がとんでくる。わかってたとばかりに避ける、あき。同じように大奥の中に入る。大奥の中は建物自体はだだっ広いだけだが絹のカーテンのようなものが、壁の代わりのようになっていて無数の小部屋みたくなっている。

そのなかを疾風のように逃げている友香里。女達や、鷹虎や小杉たちがぶったまげているなか、あきが襲い掛かる。あきは、絹の壁代を巧みに扱って友香里を絡め取ろうとする。布団が切り裂かれたり綿が飛び散ったり女達の悲鳴が飛び交いメチャメチャになる。

「姫?」

 小杉が、呉留五に確認する。

 友香里は防戦一方になる。追う、あき。小杉、そばにいた鷹虎を突き飛ばして、あきにぶつける。友香里、その隙に何とか棟続きの城のほうへ脱出する。

 城のほうの廊下へ出る。向こうからクノイチが一人襲い掛かってくる。友香里、突進していって、すれ違いざまにサッと天井へ飛ぶとそのまま、クノイチをかわして向こうへ走り去る。クノイチの心臓に手裏剣が突き刺さっている。友香里とクノイチたちは、足音も立てずに廊下を走っていく。廊下は時折直角に曲がっておりそのたびごとにクノイチが待ち伏せている。それらをあっという間に全部倒して奥へ逃げる友香里。城の中央に出る。吹き抜けになっている。だいぶ、息があがってきている友香里。吹き抜けを見上げる。恐ろしく高い。クノイチたちが数人追ってくる。考えている暇は無い。鍵の手のついた縄と驚異的なジャンプ力で吹き抜けの上へ上へと  逃げる友香里。

 あきは螺旋階段を使って吹き抜けの上のほうへ駆け上がっていく。

下から、友香里を追い上げていくクノイチたち。友香里、イキがあがってきて非常に苦しい。それに、どうやら、上に追い込まれているようだ。吹き抜けとはいえ、最上部は天井になっている。どん詰まりだ。

 吹き抜けの最底には最早誰もいない。底の脇の板がガタッはずれ、小杉と呉留五と以下二名が顔を出す。彼らは上へ逃げている友香里を見上げ、

「何とかしなくちゃ・・」

 と相談する。

「火・火をつけよう!」

「バカ、まにあわねぇよ、そんなの。」

 小杉、今、外した板っきれを上のクノイチめがけて投げつけようとする。

「ばかよせ。」

 と、言ったときには既に小杉は板切れを投げつけていた。小杉の発達した筋肉のバネからはじかれた板切れは非現実的なスピードで上昇していき、信じられないほどの高さまで飛んできて、もう少しでクノイチの一人にあたりそうになったところで急速に失速して落ちる。


 友香里は、だんだん天井のほうへ追い詰められている。

 汗だくになって肩で息をしている。第七層の張り出した舞台のようになっているところへやってきて下をうかがう。各層にクノイチがいる。が、良く見ると一筋、隙があって上手く飛べば、脱出できそうに見える。<BR>

 友香里、二層の角めがけて飛び降りる。降下すると今まで四角だった部分が見える。その一角に小杉たちがいて今、まさに破れた板戸から飛んできた網に絡み取られて、板戸の内側に消えてしまった。

「・・あ・・!」

 それは一瞬の出来事だったが友香里に致命的な隙を作ってしまった。

それまで天井の彫刻のように見えていた塊が突然、あきになって友香里めがけて飛び掛る。空中であきに抱きつれる友香里。

「あっ・・・!」

 逃れようとするが、疲労していて力がでない。

(自爆落とし・・・!)

 このまま床に頭を叩きつけられて死ぬのかと思った刹那、友香里の体は縄にからめ取られて逆さに宙吊りにされたいた。既に、段取りがされていて、するすると、そのまま下におろされてくる。口に猿轡がされた例の屈辱的な縛りだ。下で待っている、あきの所まで下ろされてくる友香里。息が苦しくて喘いでる。あき、猿轡を切る。激しく呼吸する友香里。友香里の髪を鷲づかみにする、あき。友香里は、はぁっはぁっと呼吸するのが精一杯で、あきになされるままにブラブラ揺すられている。あき、友香里に往復ビンタをする。友香里が吊るされている綱を切って床に落とす。

 小さく悲鳴を上げる友香里。

 あき、友香里の上に馬乗りになって忍者服を引き裂く。肩までむき出しにされる友香里。あき、部下のクノイチに命令する。

「裸にして、牢屋まで引きずっておゆき!」

 あきは当然、友香里が中野城の姫だとは知らない。


 本当はこの後、友香里は裸で縛られたまま城内を引きずり回されて、ありとあらゆる辱めを受けるのだが、そういう場面を書くと作者はイメージモデルの方に訴えられてしまうのが心配になるので割愛しておくことにする。


 着替えの間で袴をつけている影虎。もちろん若い侍が着付けしている。夜中に騒ぎが持ち上がったので夏川の報告を待つために、天守の間から急いで帰ってきて着替えているのである。本来、殿たるもの、夜中に部下の報告を受けるくらいで着替えたりしない。こんな場面で着替えているのは影虎の変なこだわりである。

 そこへ、夏川がやってくる。

「殿、例の忍びを捕まえました。」

「・・・・うむ・・・」


 地下牢。縛られて吊るされている友香里。さっきの、あきの命令からすると、友香里は裸にされて縛られているはずだが、諸事情により、ここでは、さっきの格好のまま縛られていることにする。

 あき、友香里の尻をムチで引っぱたいている。

「どうせ、そう簡単には喋らないよね。」

 と、言いながら体中をビシビシひっぱたく。

 今度は、部下のほうを振り向き、割と真面目な様子で質問する。

「それとも、かわいがってあげたら喋るかしら?」

 影虎と夏川が現れる。

 友香里、顔を背ける。友香里は十年ほど前、まだ、子供だった頃ではあるが、一度、影虎に謁見している。顔を見られたら、中野城の姫だとバレる・・・・

 夏川が口を切る。

「どうだ?」

「最悪。」

「あんまり、ひっぱたくな・・・急ぐ必要は無い。・・・縄をほどけ。」

 友香里、下ろされて、縄をほどかれる。厳しい表情で友香里を見つめている夏川。

友香里が、自分の気に入っていた女中だと気がつく。ピクッと頬が一瞬ひきつるがすぐに、厳しい顔に戻る。

「この忍びを責めるより、呉服屋を責めたほうが早そうだな。」

 と硬い口調で言う。小さな目で友香里を見ていた影虎がボソッと言う。

「顔を・・・。」

「はっ。」

 あき、友香里の顔を影虎のほうへ向けさせようとする。友香里、顔を見られまいと、体をねじって抵抗する。あき、力が強い友香里にてこずる。

 夏川が交代する。友香里の髪をかきあげ、しっかり顔をおさえて影虎のほうへ向けさせる。あきから相当ビンタを食らっているらしく既にかなり腫れている。

 冷たい目で友香里を見る影虎。

 影虎、夏川に目を向け、何か、言いたそうな顔をする。夏川、友香里から手を放し、耳を影虎の口元へ近づける。影虎、ボソボソと何か言う。夏川、ビックリして、飛び上がりそうになる。驚異の目で友香里の顔を見つめる。

 しばらく唖然とした後、夏川は気を取り直して言う。

「これで、中野城は無傷で手に入れられますな。」

「・・・・」<BR>

 例の如く返事をしない影虎。影虎の顔を覗き込むようにしてみる夏川。

 影虎、不気味に笑っている。

 夏川、ぞっとする。


 中野城居館に再び東殿が訪れている。彼は今、厳しい顔つきで、書状を読んでいる。

「おのれ!大山!中野忍軍のおそろしさ、おもいしらせてくれる!!」

 叫んで、中野城主・義将は喀血した。もともと、起きてはいけない体なのだ。

 東殿が読んでいるのは、大山城からの書状である。そこには・・・・・友香里姫が、大山城に潜入していたので捕らえて辱めてくれたでござる・・・・くらいのことが書かれている。

 香介と家老が同席している。二人とも義将と同じく激高していて

「こうなったら一族玉砕!」

 とか

「大山の首だけはとってやる。」

 とか叫んでいる。

 東殿、書状を読み終わる。

「うーむ・・・」

「東殿、トンネルを使わせてください!」

 香介が詰め寄る。

 東殿、しばらく無言で考える。やがて

「この書状には、トンネルのことが一言も書かれてない・・・・。」

「奴等まだ、気づいてないんですよ。」

「気の強い友香里ゆえ死んでも口を割らんだろうて。」

 義将は友香里が受けているだろう拷問を想像して体を震わせた。

(ほんとうにそうだろうか?)

 と東殿は思った。トンネルから攻め込んでくるのを待ち構えているのではないか?この書状はそのためのワナではないだろうか?そう考えると、いかにも影虎の下品な性格を反映している行動のように感じられた。

「大山城には妹姫がいる。」

「葵などが殺されおっても友香里は口をわらんだろうて。」

「・・・さぁ、はたして・・・・」

 東殿、深く思案する。


 大山城、天守閣から近くの壁の下の地面が動いたかと思うと、ボコッと穴があいて小杉が顔を出す。

「これで全部か?」

「へい。」

「うそを申すと命はないぞ。」

「へい。」

 大山城の兵たちはすでに甲冑を身につけ、中野の兵が攻め込んでくるのを待ち構えている。


 天守第六層から、兵の配置状態を見下ろしている影虎。傍らの夏川に

「・・・あの・・あたりに磔を二つ・・・」

 と指示する。驚く夏川。

 地下牢へやってくる夏川。あきが案内している。通路の脇に鷹虎が隠れている。あき、鷹虎と目線を合わせる。鷹虎はさっきまで友香里を口説こうとしていたのだ。してみると、書状に書いてあったのとは違い友香里たちにまだ、魔の手は伸びてなさそうである。

 あきは、鷹虎と友香里のやり取りを面白がって見物していた。

 夏川が来たので今あわてて隠れて、中断中である。あき、姫の牢の前で立ち止まる。

「ん?・・・妹姫はどうした?」

「メソメソうるさいので、ほかの牢に移しました。」

「連れてまいれ。」

 あき、不服そうな顔をする。

「殿は二人を磔にするおつもりだ。二人いっしょのほうが引き出す時、楽だから、妹姫もここに入れるのだ。」

「わかったわ。」

 あきは、くるっと振り返るとうれしそうに笑う。廊下を走って去る。途中、隠れていた鷹虎に小声で呼び止められる。

「どうした?」

「あいつは、磔にされるのよ。ウッシシ!」

「え?おれの嫁さんを磔?」

「馬鹿ね!中野のやつらは一網打尽に滅ぼされるのよ。あんたも、もうちょっとましな嫁さんがもらえるわ。

「いやだ、友香里姫がいい!」

 と、二人の耳に、夏川の太い声が聞こえてくる。

「友香里姫!そのような強情を張っている場合ではありませぬぞ!」

 しばらくの沈黙。

「このようになったからには、もはや鷹虎さまに嫁ぐのは無理!しかれど拙者であれば!」

 あきと鷹虎顔を見合わせる。

「拙者であれば、大山殿支配下の中野城が、この夏川の物となるだけの話。一族もろとも死なずにすみますぞ!」

 鷹虎、何か叫びそうになる。その口をふさぐ、あき。

「殿に掛け合ってくるでござる!」

 夏川の駆け去る足音がする。足音が遠のいたのを確認して、あき、鷹虎の口から手を離す。

「な、夏川が姫と・・・!」

 鷹虎の言葉は、あきの耳には入らない。

 あき、怒りに目が燃えている。突然、何か思いつく。

「若殿!夏川殿に友香里姫を寝取られますぞ!!」

 激しく、鷹虎を揺さぶる。

「大殿に知らせるのです!!」

「う、うん!・・なっ・夏川などに・・・!」

 鷹虎はあわてて駆け出す。入れ違いに引っ立てられてきた小杉や五留後たちとぶつかる。

「そいつらは別の筋の牢へ入れておおき!」

 あきに、命令されて下っ端侍と小杉たちは別筋へ消える。

 あき、にやっと笑うと懐からムチを取り出して、思いっきりビシッ壁を打つ。


 天守に登ってくる夏川。

「恐れながら・・・」

 大殿の間の襖を空ける。影虎、城の見取り図を開かせて、兵の配置を確認している。

 影虎、夏川のほうへ目を向ける。

「少し、危惧されることが・・・」

 夏川、にじり寄る。

「きゃつら・・・穴を掘って、そこから攻め込むとか申しておりましたが・・・・」

「・・・・」

「それならば、友香里姫、自らわざわざ危険を冒して、忍び込んだわけが、いまひとつ解しかねます。」

 見取り図を開いていた普請奉行が意見を言う。

「いや、穴の出口は、非常に城の弱点とも言うべきところを上手くついている。これは、誰かが城の中に入って始めてできることじゃ。」

「古の呉の国の兵法書で読んだことが・・・どうしても、気になりまして・・・優れたる穴掘りは、何でも、城内の 井戸を壊すことができるとか・・・」

「井戸を・・・?バッ・・馬鹿な!!土中を掘って一畳ほどの小さな井戸ににそう上手く掘り当たるわけがなかろうが!!」

「それが、兵法書には”できる”と書いてござった。」

「その方法は?」

 珍しく影虎が歯切れよく言葉を発した。

「方法までは・・・記されてませんでした。」

「聞いたこともない話だぞ。」

 影虎が、微笑みながら言った。夏川は、影虎が、動揺しているかもしれないと思った。<

「何で、もっと早く言わなかった。」

「自分でも、信じられないと思いましたので・・・しかし、事実なら・・・」

「どう思う?」

 尋ねられて普請奉行は

「不可能と存じます。」

「しかし事実なら!!」

 夏川、語調を強める。

「この際、中野を味方につけたほうが安全でございます。」


 大殿の間の外で、なにか、声がする。

鷹虎がやってきて、中へ入れろと言っているが、若い侍に止められている。鷹虎は、汗だくで、息が上がっていて、激しく取り乱している。巨体を生かして大殿の間の前まで、若い侍たちを引きずって這って行く

「誰も中に入ってはならないとのことでございます。」

 と言われ、襖に耳をつけて、聞き耳を立てる。


 大殿の間では、影虎が不気味な微笑を浮かべている。ごくっとつばを飲み込む夏川。

「お主を中野の婿に・・・」

 黙って頭を下げる夏川。

「鷹虎が友香里姫に惚れてさえおれねばのう・・・」

「恐れながら、鷹虎様は姫が姫だとうだけで夢中であられ、どこの姫でもかまわぬように存じます。」

「一度、鷹虎の望みをかなえてやりたいものよ。」

「そっ・・・それは・・・・」

 夏川、苦悩に顔をゆがめる。

「一度、鷹虎の望みをかなえてつかわせい。」


 大殿の間の外では、鷹虎がガバッと跳ね起きた。

「き・聞いたか!」

 その声は、大殿の間の中に丸聞こえである。

 鷹虎、立ち上がる。すでに股間が盛り上がっている。

 巨体をゆすって、廊下を走り出す。


 鷹虎、転がるように階段を走り降りる。

 宵の口の薄暗がりの中に、二つの天守が浮かんでいる。今、鷹虎が階段を駆け下りている天守と、見えている二つの天守に囲まれた部分に中野軍を追い込むように兵が配置されている。


 ゼイゼイ言いながら、地下牢まで走ってくる鷹虎。この地下牢は大きなものだが、今は、地下牢全体の入り口部分にしか見張りがいない・・・ように見える。

 鷹虎、見張りを無視して中に突進する。見張りは、相手が鷹虎なので止めようともしない・・・が、気がつき。

「鷹虎様・・・もしや・・・」

 と、鍵を渡す。

「おお・・・」

 鷹虎、鍵を受け取る。見張りは、にこりと笑って、手でゴマをする。もちろん小遣いをねだっているのだが、鈍い鷹虎は気がつかずに、牢の奥のほうへ走り去る。


 友香里の牢を探している鷹虎。散々、うろうろした挙句やっと見つける。

 友香里は床にうつぶせに倒れている。

「ひ・姫・・?」

 例のごとく大きな声で、話しかける鷹虎。姫は顔を向こうに向けている。倒れたまま、少しだけ動く姫。

「姫?こっちを向いてたもれ!」

 格子をガタガタ揺する鷹虎。

 友香里、うう・・と呻く。泣いているようである。

「姫、ここを開けてござれ!」

「うう・・内側からでは開けられませぬ・・」

 鷹虎、

「そうか!」

 といって懐の鍵をまさぐる。鍵を開けて中に入ってくる鷹虎。

「ひめぇ・・・うへへへ・・・・・」

 嬉しそうに涎をたらして姫の肩を抱き起こす鷹虎。姫の顔を見てギョッとする。

 姫の顔は何かで激しく打たれたらしく、メチャメチャに腫れあがっている。

 鷹虎、一瞬、姫を放り投げそうになるが姫は鷹虎にしがみつくようして、離れない。

 呻きなく

「・・うう・・・・」

「ど、どうしたのじゃ・・・」

「あきに、やられました・・・」

「うぬう・・あきめぇ・・・」

 牢の天井の一角に、黒い塊がじっとしているのに鷹虎は気がついてない。

 それは、友香里である。友香里が、遠隔腹話術で妹の変わりにしゃべっているのである。

「鷹虎様・・・悔しいです・・友香里は、あきの術に敵いませぬ。」

「術?」

「自爆落しのような・・・」

「・・・ああ・・・」

 鷹虎は、顔の腫れている実は葵の友香里を手込めにしてしまおうか迷っていて、ぜんぜん聞いていない。

「あきの術を破る方法を教えてください!」


 牢の外。一人のクノイチが蜘蛛のように天井に張り付いている。ゆっくりと友香里たちの牢の方に近づいてくる。


 葵はぐっと鷹虎を引き寄せる。鷹虎は突然その気になって、葵を押し倒す。葵、鷹虎の顔に爪を立てて押し返す。

「あきの術の秘密を・・・」

 鷹虎、なおも葵をものにしようとする。葵の爪がますます顔に食い込む。

「あきの弱点を・・・・」

 とても色っぽい声だったので、思わず鷹虎の力が緩む。

「あの術を破る方法をお教えくだされば・・・」

 葵、鷹虎の顔を不器用に、しかし、やさしく摩る。

「術のことは、わからん。」

 葵、つい

「え?」

 と言ってしまうが、友香里の腹話術の声がかぶる。

「あきは空中で、向きを変えることができるような・・・」

「で、できる。しかも、止まれる。」

 それを聞いて、天井の友香里、驚く。

「空中で止まれるのですか?」

 鷹虎、葵の尻を撫ではじめる。葵、その手を払いのけようとするが、鷹虎の力が強くて動かない。

「いかにして?」

「し・知らん・・。」

「・・・友香里はあきに一泡吹かせとうございます・・このままでは悔しくて・・・」

 鷹虎が、葵の体を引き寄せようとする。葵、嫌がる。

「うう・・やめて・・ください・・・」

「うへへ・・・ガッ・・」

 鷹虎、突然、声もなく倒れる。友香里が一撃を食らわしたのだ。

 友香里たちの牢のすぐ前まで来ていたクノイチが手裏剣を出す。

「カッ!!」

 突然、気合を発する友香里。

 天井にくっついていたクノイチ、金縛りにあって、地面に落ちてくる。その体が、友香里の目の前に来た瞬間

「ハッ!!」

 友香里の体が一回転する。と友香里の着ていた服と忍者の着ていた服が入れ替わり、友香里は忍者姿になる。

 友香里、妹の手を引いて、牢から出ようとする。

 葵は

「私は足手まといですから・・・」

 と、留まろうとする。

 友香里、ぎゅっと妹を抱きしめる。

「お前をおいてなんか行けないわ。」


10

 外はすっかり暗くなっている。天守には影虎と、夏川と、あきがいる。

「友香里姫がそう言ったのか!?」

 影虎は、明らかにうろたえていた。

「妹めを責めましたらあっさり口を割りました。」

 あきは、手柄を立てて、得意そうに媚びるように夏川をみた。

 影虎が珍しく自分から口を開く。

「まさか、そのような古の技が本当に可能だとは・・・」

「東殿が絡んでいるのでは?」

「言われんでも分かっておるわ。」

「東殿の後ろ盾には・・戌亥・・。」

「ええいっ!!」

 影虎は足を踏み鳴らした。

 机の上に、城の見取り図が開かれている。トンネルが、赤い線で示されており、井戸まで、もうちょっとという線もある。

 影虎は、幾分落ち着きを取り戻した。

「井戸の、場所をハッキリと知られなければどうということはないが・・・」

 影虎は、静かに座った。

「・・・死んでもらうしかないの・・・あの姉妹には・・・今すぐにでも。」

 あき、ニーッと嬉しそうに笑う。と、その耳に、忍者笛が聞こえる。

 あきの表情が変わったので、夏川が尋ねる。

「どうした?」

「友香里が、脱走ました!!」

「なに?!」

 その時

 ・・・ダーンッ・・・

 と、花火のようなものが上がる。

 これは脱走した友香里が城の外の仲間たちに向けて発した合図であろう。

 影虎、飛び跳ねるように立ち上がり

「侍も出せ!!・・・友香里を見つけ次第、殺せ!!中野が攻めてくるぞ!!お主たちもすぐ行け!逃したら二人とも磔じゃ!!」

 と叫ぶ!

 二人、天守の間から飛び出す。

 夏川、近くの侍に叫ぶように言う。

「友香里姫が牢から逃げた。捕まえろ!!全員で動け!」

「友香里姫は忍者の末裔・・・。」

 捕らえるのは殺すより難しいという意味である。言われて、むむうっと唸る夏川。

「・・・見つけ次第・・・・お討ち取りしてよし。」

 侍たち、散っていく。城内、騒然となる。ドタバタと人の走る音、叫び声。刀や槍の触れ合う音。

 夏川は独り呻く。

「ううむ・・友香里どの・・・」

 その様子をあきがすぐ後ろで見ている。

 夏川は体を震わせている。

「友香里殿・・・無・無念でござる・・・か・かくなるうえは、この手で・・・!」

 夏川、刀を抜く。と、後ろから手刀が飛んできて夏川の首をへし折る。夏川、その場へドタッと倒れる。

 夏川を見下ろすあきの目が嫉妬に燃えている。


 城内の一角の土が、どっと崩れ落ちて、中から武者が飛び出してくる。大山城内の者たちは、まだ、待っている。武者が数十人出てきてから、いっせいにしとめようという考えだ。

 五人、十人と武者が出てくる。<


 友香里は、すでに小杉たちも牢から出して、戦いながら逃げていた。だが、戦闘できるのは、ほとんど友香里一人しかいない。全員、いったん縁の下に身を隠す。

「二手に分かれよう。」

「じゃ、俺は姫と。」

「あいつらの狙いは、私一人。」

「俺は腕には自信があるぜ。」

 小杉、袖をまくって筋肉隆々の腕をみせる。

 友香里、さっと飛び出していく。

「あっ・・・姫!」


 穴から出てきた武者たちは二十人ほどになった。

 大山の武将が、早く弓を撃ちたがる兵を制している。

「まだだ。」

 と、二十人ほどの兵がいっせいにジャンプする。着地のとき、ドンと地面をける。もう一度ジャンプ。

 ドンッ!!

 煙が上がる。衝撃で仕掛けてあった火薬が爆発したのだ。

 どっと地面が崩れ落ちて直径十メートルほどの大穴が開く。そこから百人くらいの兵がどっと、飛び出してくる。びっくりする大山の武将。

「う、うて・・・うてーっ!!」

 たちまち合戦になる。大穴が、あっちにもこっちにも3つほど開いてそれぞれから100人ほどの兵が飛び出してくる。


 縁の下でそれを聞きつける、小杉たち。縁の下を必死に這って、そちらのほうへ行く。飛び出して向こうの穴に飛び込んで逃げ出したい。しかし、矢はどんどん降ってくるし、合戦の真っ最中だし、飛び出すのは無理。

彼らの後方の地面が動いたかと思うとぽこっと穴が開いて、一人の武者が顔を出す。小杉たちのほうをじっと伺っている。やがて、それが、小杉たちだと気がつく。下に向かって何か言っている。すると下から東殿が這い出してくる。東殿は縁の下を這っていって、小杉たちの横まで来る。

「姫はどうした?」

「え?」

「と、殿!」

「東様!」

 数人の護衛の武者たちが現れる。

「姉姫は一人で飛び出していきました。」

「お前たちは、三つの井戸の場所が分かるか?」

「井戸?井戸てぇと・・・」

 五留後が言う。

「1つなら分かります。」

「どっちだ?」

「スケベ館の・・・うへへ。」

「どこだ?」

 東殿は懐から大山城の見取り図を取り出すと、地面に広げる。別の侍が突然、矢を放つ。向こうのほうでクノイチが一人、ドタッと倒れる。

 非常に複雑な、城の見取り図。五留後、戸惑う。必死に考える。

「俺らが出て行ったトンネルはここですが・・・うう・・・」

 小杉と顔を見合わせる。

「あの時は、頭がいっぱいで・・・」

「頭がいっぱい?」

 東殿がやさしく尋ねた。

「ここです。」

 と、突然、横から葵が地図に手を伸ばす。

「姉姫から聞きました。天守の北の長く延びた建物の東の角…」

 東殿、武将たちと顔を見合わせて、大きくうなずく。

「後は、友香里殿を脱出させるのみ。」


 大山城の裏手の森の中から20名ほどの忍者が次々に城内に飛び込んでいく。というか、彼らは、城壁の上を走って建物の中へ侵入しようとしている。大山城のクノイチ隊が、待ってましたと迎え撃つ。個々の忍者たちが激しい戦いを繰り広げる。


 縁の下では、すでに葵が穴のなかへと脱出している。

 武将の一人が、耐え切れなさそうにうなる。

「姫、脱出の合図はまだか?」

「急くな。合図なら分かっておる。」

 東殿がなだめた。しかし、さすがにその顔には緊張がみなぎっている。

「姫はすでに、われら、中野忍者隊が発見しております。」

「なに、本当か?」

「なぜわかる?」

「忍者の秘密ゆえ明かせませぬ。」


 天守閣。忍者たちが音の出ない笛を吹いている。

 この時、静かに雪が降り始める。雪は静かに、規則正しくまるで ”雪時計” とでも言うかのごとく降り続く。


 ここで雪が降るのは、三次元空間を四次元にするためである。雪が積もると足が滑りやすくなるので、クライシスも増す。友香里がこれから上へ逃れていくに連れ、屋根の上の雪が少しづつ、積もってゆく・・・。そうすると、本来、三次元である筈の空間イメージが、視覚イメージ的に四次元に変換され、空間の持つ面白みが、より濃厚になると期待できる。

 これは、一人の作家が一生に一度思いつくか、つかないかの優れたアイデアである。作者はこれが自分のオリジナルであってほしい。しかし、世の中は広く、賢人は星の数ほどいるので、どこかで誰かがやっているような気もする。


 上空では、大凧に乗った香介が友香里を発見している。助けたいが今はチャンスがない。


 天守の天辺に、あきが立っている。影のように黒い瓦に溶け込んでいる。香介には気づかれていない。


 一層から三層あたりまで、中野忍者達とクノイチ達が戦っている。友香里は四層目にいて、何とか、見方の穴のあたりに飛び降りようとチャンスをうかがっているが、敵の攻撃が激しくて、飛び降りられない。屋根の上に雪がまだらに積もり始めえいる。クノイチたちの攻撃が激しいので、城の中へ逃げる友香里。と、侍たちが襲い掛かってくる。畳をはがし、襖をつきぬけ、走る走る。ある間へ飛び勢いよく駆け込む友香里。 ”撒き菱” が撒かれている。友香里、とっさにダイビングすると指を立てて逆立ちになる。立てた指で撒き菱をまたぐ。そのまま超忍者的なスピードで敵忍者と戦いながら天井へ飛び移る。

 天井裏を走って逃げる友香里。しかし、多勢に無勢。上へ上へと上っていく。

 第六層。再び屋根の上へ出てくる友香里。屋根の上には雪が五センチほど積もっている。

「姫ーっ!!」

 友香里、上空で叫ぶ香介に気づき、凧のほうに向かう。足が雪で少しすべる。香介、凧から縄をたらす。上手くつかみ損ねる友香里。クノイチが襲い掛かってくる。クノイチ、侍たちに向かって上空を指差す。

 窓から身を乗り出して上空を見る侍たち。大凧に気がつく。たちまち、弓が持ってこられて放たれる。

 上へ逃れていく友香里、香介の凧に穴が開くのを見て悲鳴を上げる。

「香介っ!」

 やっと中野忍者のものたちが友香里の援護に駆けつける。友香里、追っ手から逃れて天守の天辺に上っていく。

 城の天辺。屋根の上には雪が五センチほど積もっている。すでに汗だくで息が上がっている友香里。

 天守の天辺に着く。もう、自分を追ってくるクノイチはいない。

「香介ーっ!!」

 と両手を上に上げる。

 と、そのとき、天守の端からどーっと火柱が上がる。香介の大凧の”足”に火がつけられたのだ。

 友香里、気配に気づき。影のようなものを見つめる。それは、あきになる。

 香介の大凧は香介を乗せたままバランスを崩し、炎に包まれて墜落していく。

 対峙する友香里と、あき。

 友香里、チラッと下を見る。地上に例の穴が見える。

「飛び降りる術を持っているようだね。」

 あきが、言ってニヤリと笑う。

(飛び降りたら、また、あの術でやられてしまう。)

 友香里は不利な屋根の端から逃れて有利な上へ行こうと斜めにダッシュする。滑って転ぶ。あき、すばやく回り込んで上に登らせない。あきも、雪に足を滑らせて、転びかける。

 術をかける隙をうかがう友香里。あきには隙がない。友香里は激しく呼吸しているがあきは、まったく疲れていない。突然、あきの手から炎の筋が走って友香里に襲い掛かる。よける友香里。炎はムチが燃えているものらしい。波打って襲い掛かってくる。二発ほど打たれてよろめく。三発目に燃えているムチを素手でつかむ。手からジュゥ・・・と音がする。しかし、手を離すと屋根から落ちる。雪で滑って落ちそうになる。必死で耐える友香里。あき、不意にムチを話す。よろける友香里。ムチは雪を巻き込んで下へ落ちていく。落ちそうになる友香里。あき、すぐダッシュできる体制で友香里が落ちるのを待つ。が、友香里はすんでのところで落ちない。

「しぶといね。」

 にらみあう二人。

「エイッ!」

 友香里、あきに何か投げつける。友香里の動きが早かったので反応できなかった、あき。というか、飛んでくるものが見えなかった。しかし、突然、見えているものがすべてゆがむ。何かの術にかかったらしい。友香里、屋根の天辺目指して駆け上がろうとする。あき、多少ぐらつきながら、それを阻止する。友香里、短刀であきに襲い掛かる。あき、受ける。あきのほうが強い。跳ね返される友香里。滑って転び、さらに屋根の端まで滑り、止まる。立ち上がったところを今度は、あきが何か見えないものを投げつける。

 ドン・・・と友香里の体に衝撃が走り、よろめく。また、投げつけられる。よけれない友香里。屋根の端でよろける。あき、勝利を確信して微笑む。また、何かを投げるしぐさをする。

 下を見る友香里。

「ホラ、さっさと飛び降りろ!」

 友香里、屋根の端を走る。そして、不意に飛び降りる。上のほうから、ダッシュしてくる、あき。友香里をおって飛び降りる。

 友香里はからだを大の字に広げてゆっくり回転しながら落下している。体をまっすぐにして友香里に襲い掛かる、あき。友香里を後ろから捕まえようとする。友香里は捕まりそうになった瞬間・・・


 あきがここで仕掛けようとしている技は ”自爆落とし” である。前に仕掛けたのは ”自縛落とし” で、まったく別な技である。作者としては ”自爆落とし” に愛着があるのでここで友香里に ”自爆落とし” を決めさせたいところである。しかし、かの白戸三平著 ”カムイ伝” の ”カムイ” が繰り出す必殺技 ”飯綱落とし” に似ているような気もする。そこで急遽、別な技を、繰り出すことにした。


 体を弓反りにのけぞらし背中で丸い輪を作る友香里。あき、自分も体をひねって、友香里の背中を取ろうとするが、間に合わない。友香里の体が急に勢いよくスピンしだしたからだ。逆に友香里にガッチリつかまれてしまう。あきの体を軸に、激しく回転しながら落下している二人。第四層あたりのところで、あきの体からはじけるように横に飛び出す友香里。細い1本の縄を使って逃れた。

 そのとき激しく第2天守閣に叩きつけられるが、ちょうどそこにいて戦闘におびえていた鷹虎の顔面に友香里の肘がヒットし、友香里の衝撃が和らぐ。鷹虎は三メートルほど後方に吹っ飛んで転がる。

 スピンする、あきの体から無数の蜘蛛の糸のように細い糸が放たれる。それは、あきが蜘蛛の巣と呼んでいた特殊な糸だった。が、今は皮肉にも回転している、あきの体に巻きついて逆に自由を奪う。あきの体はそのまま激しくスピンしながら、例のV字溝に落下し、全身がねじり砕かれて死ぬ。


 すぐ、穴に飛び込もうと下を見下ろす友香里。戦闘は混沌としている。見ると、東殿自身が戦闘に参加していてる。たった今、横にいた忍者侍に指差されて友香里のほうを見上げる。

「東様!!」

 嬉しそうに叫ぶ友香里。しかし、飛び降りるスペースや隙はなさそう。そのとき、上空で叫び声がする。

「姫ーっ!!」

 友香里の前に細い綱が落ちてきて、数メートル前にとまる。見上げると、仮修復された大凧がヨレヨレと飛んでいる。友香里、屋根の上を走って綱にジャンプする。

 友香里が綱を上っていくのを見て

「撤退!!」

 と短く叫ぶ東殿。


 友香里が、綱を上って行く途中、第二天守から、焦燥した表情で戦況を見下ろしている影虎が見える。

綱を伝って凧まで上ってくる友香里。

「やりましたな! 姫! 」

 と言う香介。

 友香里、何も言わず、下を見下ろす。闇の中に、ぼうっと大山城全体が見える。その三キロメートルほどさきに中野城。その先に東城。更にそのはるか先に東殿の後ろ盾の戌亥の巨大な城。

 再び、大山城を見下ろす。東殿たちが穴の中に撤退していくのが見える。

 友香里、初めて微笑む。

「この凧、中野まで、もつだろうな?」

「お任せを。」

 自信たっぷりにうなずく香介。


                              終わり



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