歯医者
暖かさが欲しいならくれてやる
歯医師はがりがり歯石を削って、丸い鏡で進捗を確認する
沈む夕陽は私を追って、まだぐずぐず外に止まっているから
窓から射し込む赤い光は、私の顔を照らしつけ続ける
自分をのせている高そうな寝椅子は、まるで呼吸をするように膨らみ、縮む
その度に私はうつら、うつらした
「寝てもいいんですよ」歯医師はそれに気づいて言う
「んん」歯ぐきから流れ出る自分の血液に溺れつつ返事を試みる
私の口内に溜まったヘドロはよほど多かったらしく、手術は何時間も要した
残りの客は一人ずつ頬を押さえて退席し、用事の済んだ歯医師は物珍しそうにこちらを見にきた
ついには寝転んだ私の周りを、ぐるりと囲むように歯医師たちが立っていた
彼らは専門用語を巧みに使ってヒソヒソと話し合い、やがて無表情に目を落とした
私の馬鹿みたいに開いた口から、今までの怠惰な性格が連なって出てくる
バレないものと決め込んで隠し続けた化けの皮が、一枚一枚剥ぎ取られていく
暗がりの中で顔は青白く変色し、呼吸は緩やかに落ち着いていった
意識が混濁して空気に溶け出し、何も考えられなくなる
「ぎゃぁ」
右隣の一人の歯医師が叫んで暴れた
背中に火がついて、勢いよく燃えている
彼は白衣を脱ごうとしたが、その前に炎は体全体を包み込み、焼き尽くした
どう、と倒れた歯医師が骨になっていくのを、私は横目で眺めた
他の歯医師たちも、それを見ていた
燃えた歯医師がいなくなったことで、サッと、夕陽がまた姿を現し、しつこく私に紅の光を浴びせる
そうして私は、多分今日も守られる




