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ぱんどら  作者: 星川宙
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第一章―はじまりー②

「月詠……か」


 少女は納屋に入ると小さく呟いた。その声音には諦めや自嘲など様々な色が混ざっていた。何かを考え込むように虚空を見つめる。


「考えても何もわからないよね」


 しばらくして少女はそう呟くと薄い紅の羽織を脱ぎ、複雑な構造になっている袴を慣れた手付きで脱いでいく。そして鞄の中から着替えの服を取り出して着替えていく。服を着替え終わると先ほどまで着用していた袴を丁寧に畳み、部屋の中央に置いてある机の上に丁重に置く。


 そして徐に机の前で正座をして、頭を下げる。


(少しの間しか入らないんだから、別に私服でもいいと思うんだけど)


 少女は心の中でそう呟く。月詠神社には本殿と少し離れた場所に木々に隠された小さな社がある。そこが本当の月詠神社の本殿だ。しかし、その事実を知っている者はほとんどいない。理由はその社に入れるのは月詠の巫女とその補佐役に選ばれた雨宮の一族の者2人だけーーいや中に入れるのは(・・・・・・・)月詠の巫女に選ばれた者と補佐役だけと言うのが正しいのだろうか。


 社は普段は閉ざされていて、神主が何度か掃除の為に中に入ろうとしたのだが扉はまるで鍵がかかっているように開かなかった。しかし月詠の巫女が中に入ろうとすると、扉はすんなりと開き、中に招かれる。補佐役は月詠の巫女がお役目を終えた後に迎えを許されたように入ることができる。ほとんど月詠の巫女しか入ることができないが、社の中はいつも澄んでいて綺麗な状態を保っている。


 社は月詠神社にとっては柱であると同時に無価値な物だった。月詠神社は御影島の成り立ちの歴史の最初から存在している古い神社だ。しかし、参拝客はおろか神主さえ中に入れない社だけだと神社は成り立たない。そこで昔の神主と島の重鎮は代わりに祀るものが必要だと今の本殿を建設し、時の月詠の巫女から預かった、神の依代を祀っていると言われている。


 そんな神社の歴史を頭の中で思い出しながら少女はため息をつく。


(神主さん達があの社を神聖視するのはわかるけど、だからといって清めてあるもの以外での立ち入りや持ち込み禁止はないよね)


 少女はもう一度ため息をつくとかばんを持ち納屋から出た。そして納屋に鍵をかけると、境内にある受付に向かう。


「あの、納屋使用終わりました。鍵の管理をお願いします」


受付で売り子の女性に鍵を渡すと少女は女性に一礼して、神社を後にした。そして階段の先にある長い坂を歩き、神社から近い港に足を向けた。考えをまとめる為にいつも使用している場所に人がいないことを祈りながら。



♢♢♢♢



 それから十数分ぐらいで少女は目的の場所に着いた。


(時間が悪かったな……)


 少女は港を見回すと心中で呟く。港にはちょうど船が到着したばかりらしく、船から学生と思われる男女が大勢降りてきており賑やかだった。さらに言えば港の入口に"ようこそみかげ島へ"と書いてある布や運動会で使うようなテントが存在を主張している。少女は港に船が来る日は意識的に近づかないようにしていた為、その光景に驚きながらしばらくその様子を眺めていた。しかしこの様子では自分の目的は果たせないと考えてその場を後にすることにした。


(港近くはどこも同じだよね……。ここからだと1人になるにはあそこが近いかな)


 少女はそう思案しながら次の目的地に向けて歩き出した。しかし歩き出した次の瞬間、その足はすぐに止まることになった。


「おい、当夜危ない!!」

「えっ?……あっ」

「きゃぁ」


誰かを注意する声が聞こえたかと思ったら誰かとぶつかり少女は勢い余って後ろに倒れた。

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