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ep149 仮定と予測

 葵は机に近付き、箱の中身を確認する。蒼も近付く。


「それに小型カメラが入ってるの?」


 手のひらサイズの白い変哲もない箱だ。葵が蒼にも見やすいように箱を持った手を下げてくれた。

 箱の中はプレゼント用の箱を利用したのかなと思われる、紙製の緩衝材が敷かれ、その上に2つのビー玉サイズのカメラと思われる精密機材が入っていた。それとは別に覚え書きのようなメモが入っており、蒼はそれだけ箱から抜き取る。


「多分、俺への使用の注意書きだろ? 必要だったらあとでお兄さんに持っていてもらえばいいよな」

「……そうだな。とりあえず、一宮さんに渡してくる」


 返事も待たずにメモに視線を移した蒼を呆れたように見ながら、葵は肇の作業する工房の扉を開けて中に入っていった。

 蒼は視界の隅でそれを確認しながら、メモに意識を戻す。


 そこには、小型カメラの取扱方法と、カメラの映像の確認方法について書かれていた。取扱方法はほとんど、普通のカメラと変わらないため、蒼は早々に肇に渡す必要はないなと判断する。

 カメラ映像の確認についてもざっと目を通すとポケットの中にメモをしまった。

 蒼が確認するのは織り込み済みだったようで、今日駿河家で眞琴が直接渡すと最後に書かれていた。詳しい方法だけ書いて、現物を寄越さないのは眞琴らしいなと思わず蒼は笑う。


「蒼さん、一宮に人形をもらってどうするつもりなの?」


 メモの確認が終わったのを確認してから後ろにいた琉架が声をかけてきた。蒼は背後を振り返りどこか探るような様子で見てくる琉架と昴に笑い返した。


「そりゃ、三毛猫のカメラの補完的な役割と、宮端商店街の怪しい店を見張れたらなって」

「ああ、昨日言っていた彼を?」

「そう、今の話を聞いていたら、実はその店員が人(・)形(・)だ(・)っ(・)た(・)可(・)能(・)性(・)も出てきたからな」

「――っ」


 蒼にとってはただの何気ない仮説だったのだが、昴と琉架は同時に息をのんだ。


「待ってください、蒼さん。それは禍月組の兵器が島に浸透している可能性があるってことでは――」

「ということは、春宮はすでに実験体として、記憶と能力が抜き取られている可能性が出てきたってことだよね?」


 2人がほぼ同時に話す。そして、昴が目を見開きながら琉架を見た。


「待ってください。なんでここで春宮さんの話が?」


 怪しげな店の店員が春宮と同じ癖を持っていた。その事実は蒼と琉架の2人しかまだ知らない。

 蒼は考える。昴に昨日神庭会で判明したことを共有した方がいいのだろうか、ノアズ計画を一緒に行う上で共有するべきか、昴の性格を考慮するとすぐに結果を出すのは躊躇われる。

 背負い込むことにより、動けなくなる可能性が否定できないのだ。どうしたものか蒼が思考を巡らせていると、何も知らない琉架が口を開いていた。


「蒼さんが、春宮と店員の癖が一緒な気がすると言っていてね。まだ確かめてないんだけど、父さんも美苑……娘も蒼さんの直感は野生の勘とほとんど一緒だから、まず間違いないって評価してたから、確定だと僕は思うんだ」

「……ちょっと待って、琉架さん? それは聞き捨てならないんだけど!」

「何騒いでんだ、蒼」


 蒼が琉架に食ってかかろうとすると、工房から葵が出てきた。


「俺のせいじゃない! 野生の勘って褒め言葉ではないよね!?」

「あー、あんたのことか。確かに天才野生児って感じだもんな」

「待って、俺は天才でもなければ、野生児でもないぞ!?」

「……そうだったな」

「投げやりな返答から、ない方がよかったんだけど!」


 蒼は葵に近付くと文句を言う。天才って言われるのが嫌いなことを葵に伝えたことがなかったか? と冷静な頭は考える。それと同時に、珠来の話も流れてしまったなと蒼は伝えるかどうかの結論を先延ばしにした。

 しかし、葵がこの話は終わりだとでも言うように口を開く。


「それよりも、一宮さんからあと少しで出来るから待ってろだそうだ。それで、今後の動きの確認をさせてくれ」

「今後の動き? 俺と琉架さんの動きは決まってるけど、な?」

「そうだね」


 蒼は確認するように琉架を見ると、彼は微笑みながら頷いた。自然と3人の視線は昴へと向く。


「私の話ですよね。正直、月陽さんに有無を言わせずにここに送り込まれたので、この場所がどこかも分からないのが正直なところですが……」

「そうだったな。そのまま戻るなら、俺から月陽に連絡するようにあいつから言付かっている。だが、次の動きは昴の好きにしていいとも言われている。……蒼達についていくのも駿河家に戻るのもあんたが選択していい」


 葵は昴に優しく笑いかけていた。その様子を確認していると、トントンと隣に移動してきた琉架に肩を叩かれた。


「? どうした、琉架さん」

「いえ、日向さんもなにかと事情があるの?」


 葵や昴に聞こえないように小声で琉架が尋ねる。蒼の口角がわずかに上がる。


「あー、ほら、一応"サーカス"のリーダーだからさ。俺も詳しいことは聞いてないけど、今は吹雪の支配下にいる」

「……そうなの? いい人そうなのに」

「あははっ、いい人が作ったチームだからいいチームとは限らないだろ? 多分、吹雪は今"サーカス"が今後利用しやすくなるように、篩《ふるい》にかけてるんだと思うんだ。扱いやすい、いい人が潰れるのを防いでいるんだと思う」

「……そうなんだ、噂には聞いているけど、蒼さんは吹雪に会ったことあるの? 朽梨さんとも親しいみたいだし」


 反射的に吹雪《唯華》は、従姉妹ですと出かかった言葉を蒼は飲み込む。

 そして慎重に考えながら口を開いた。


「吹雪が拠点にしている場所の1つが、俺と被っていてさ。それで知り合い。アイさんともそこで知り合った。それが、今のすーさんの居場所でもある」

「そっか、神庭会以外にも能力者と無能力者が共存している場所があるんだね」


 どこか嬉しそうな琉架に、今度駿河家に来るか誘うかを少し考える。

 そのタイミングで、ガラッと扉の開く音がした。

 工房へと繋がる扉が開いており、肩にカラスを乗せた一宮が姿を現した。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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