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西大馬崎駅から、通勤ラッシュの雑踏を掻き分け、駅ビルの中へ入ってから、3階のお客がまだ誰もいないお土産フロアから、ケーキ屋『スイーツミキサ』に行く。バイトは、その店でケーキを作るのが仕事だ。
人が苦手な俺はいつも一番早くにつく。無人のケーキ屋の厨房へ向って、しばらくぼんやりする。それから、バイト仲間のいつもケーキをお客に売っている高田 雄也が来た。
「やっぱり、もういる?」
「ああ」
「早いな。今日から、はやく家を出ることにしたんだ」
「……」
「電車も始発とはいえないが、7時のに乗ったんだ……。あ、今日から新しく調理する人が来るから、名前は確か……」
「その人。きっと、女の人でしょ」
「ああ、そうだ……名前は確か……」
「……?!」
「お! 来たじゃん!」
「おはようございます。あら、もう二人来ていたの」
「おはようございます!!」
「おはようございます」
新しくここで働く人は、高田の異常な出勤時間でわかる通りの美人だった。それも俺と同い年の見た目だ。遅刻の常連の高田が、今日に限ってこんなに早く来たのが頷ける。
「香之 夏希よ」
「香之さんかあ、いい名前だなあ。俺は現役大学生で、二番目にこの店で年長者の高田 雄也!」
「……白滝 ハクヤです」
俺は、厨房の中へ歩きながら答えていた。