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家の近くで犬型のマガモノを払い終えてから、腕時計を見て遅刻だと騒いでは猛ダッシュで無難に駅へとたどり着いた。通勤途中の上り電車の中で、俺は再び幾つかのマガモノと出会えた。
俺はニッコリ笑って、折り畳んだ用心用傘を右肩に預けるような恰好で斜めに構える。
マガモノは三つとも人型だった。
一つは手摺りに掴まっていて、こちらを見ている。
もう二つは、座席に座っている。車窓から外を眺めるもの。こちらを気にしているものがいる。
それら、三つの顔が全てこちらへ向いた。
途端に、場の空気がガラリと変わる。俺の方が速かった。右足を踏み込んで、手摺りのマガモノの面を用心用傘で砕いた。
座席の二人に向かって、用心用傘を真横に大振りした。
。
切断された二つの首が、ゴロリと車内の床に転がる。
俺は一息付くと、二つのマガモノの隣の座席に座った。腕時計を見ると、バイトの現場まで優にまだ33分はあった。
俺は首を車窓の方へ向けて、深呼吸する。
床にはマガモノの首が二つと胴体が一つ、人型のマガモノが持っていた用心用傘が三つ転がっていた。
「隣いいですか?」
「はい。いいですよ」
いつの間にか、場の空気がガラリと変わっていて、だいぶ落ち着きを取り戻した。
「あの。その傘、曲がっていますよ」
「え? あ……」
隣へ座った女性の声に、俺は用心用傘が、先端へ向けて少し曲がっているのを見て首を傾げた。
(これは、またあの靴屋へ行かないと)
独り言だった。
けれども、隣に座った人が頷いた。
「私も明日行くところよ。その靴屋って、アレでしょ。何でも直してくれるって有名なお店」
「え?」
「確か……名前は……」
「足許屋」
「あ、そうよね。足許屋だった!」
何故か、意気投合した隣の女性と俺は少し話をした。彼女はアイドルをしていて、三日前からの逢魔時で、ライブができなくなったこと、いつもレッスンと歌の練習だけになったこと。特別なファンの大事なペンライトが壊れて修復不可能なこと。など、西大馬崎駅まで、そのアイドルの話は続いて降りる際に、彼女は言った。
「明日。休みでしょ足許屋に一緒に行かない?」
「ああ……いいけど」
「あたしは、華山 花梨」
「俺? 白滝 ハクヤ(しろたき はくや)」