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ALLFO星機構 続書薄物収容施設  作者: セクシー大根教教区長ミニ丸語
シリーズ:外華内貧ラスボス系悪役令嬢の英傑列伝~このアホみたいな世界ブッ壊す~
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3:琥珀の旨味


 途中でいきなり拷問を切り上げた主人は、部屋に入って頭を抱えていた。

 顔色はあまり良くない。

 ロキュメスはそれを黙ってみていた。


 主人が部屋で定期的に暴れるようになってから、主人は殆ど食事に手を付けていない。

 代わりに、ロキュメスが厨房から果実や生で食べれる野菜、保存食などを密かに持ち出して主人に差し出している。

 保存食も味の良いものではないが、元からそうであるものであれば塩辛く仄かに苦い肉の保存食でも主人は口にした。そうでも無ければ生きられぬと、この世にしがみつくように、鬼気迫る空気を纏いながら。


 元から主人が食事時になにかしら反応を見せたことは、ロキュメスの記憶の限りではない。

 ここ最近急に強く食い煩いをし始めた。一口二口入れても、不味い不味いと吐き捨てる。


 異民族のロキュメスも、正直この国の食事はおいしいとは思えない。見栄えは綺麗だが、自分がまだ貴族の隠し子だと発覚する前、母が誕生日に振舞ってくれた見てくれの悪くて何が入ってるかもよくわからないごった煮の方が美味しかった記憶がある。

 だが、この貴族社会のものは生まれた時からその味に慣れているので味にどうこう口を出さない傾向がある。大事なのは見栄え。それが一番。特にどんな素材が使われているか視認できるようにすることが美しさの一つと考えられている。

 

 自分の主人も、それを当たり前のように口にしていたはずだ。

 比較的普通に食べていた果実さえ、薄っすらと不満げに見える。すっぱくて苦い、そう小さくつぶやいた。かと言ってそれを持ってきたロキュメスを責めるでもない。となれば、彼女はコレがロキュメスの手違いによって与えられた代物ではないと判断しているという事。

 

 その果実とて六大公王の愛娘が口にする物。皇帝も口にする代物と同じであり、残り物を口にしたことがあるロキュメスは果実はおいしいと思った。こんな甘い物があるのかと。しかし自分の主人は其れすらも気に入らないように見えた。


 ロキュメスには想像もしえない。

 今、主人の中にいる魂は、22世紀の、それも裕福な家庭に育ち、人間が口にする為だけに品種改良を施された人間のエゴの塊のようなものを毎日口にしていたことを。それと比べたら、品種改良だの肥料での育成なども殆ど行われていない果実など家庭菜園の代物ですら遠く及ばない味なのだ。

 味蕾は元のクルァウティの物の為、極端な拒絶反応こそ出ないが、不味い物は不味い。記憶の方が拒絶しているのだ。


―――――――――品種、いえまずは土壌の改善、その為には肥料の開発を。なら、研究所を抑えて、予算も引っ張ってこないと。


 ブツブツと何かを低い声で呟き始めた主人。ロキュメスは、ただただ無言でその様を見守っていた。




 拷問後、一日程放置。

 当然の如く糞尿を垂れ流しているので事前に清掃を入らせてから例の拷問室を訪れると、彼は非常に大人しくなっていた。非常に残念な事にこの世界には隷属魔法みたいななろう小説によく出てくる都合の良い魔法がないので、アナログな方法で心を折った。


 針の先に蛇の毒を塗ったと言ったけど、そんな貴重な物をわざわざ使ったりしない。あるにはあるけどね。

 使ったのは清掃時に使用される強毒なアルコール。不幸中の幸いと言えばいいのか、あの異母妹は少し潔癖に近いところがあったのでこの世界もリアル中世近世の汚物塗れの町並みは好まず、衛生観念などはこの世界はしっかりしている。


 傷から細菌が入って死ぬことを防ぎつつ、少しでも血液の循環を促し血が止まるのを遅らせる。

 あの部屋の暖房を過剰に強めたこともあって、あの男は目を閉じさせられている間に自分から流れる液体が汗か血か分からない。


 目の覆いを取ってあげた時の縋るような目と言ったら。

 まるで美の女神に直面したように滂沱の涙を流していた。


 今回の拷問は痛みを用いて尋問し、何かを吐かせるためのモノではない。

 心を折って服従を強いる物。よって過剰に痛みを与えるのではなく、恐怖を与えた。

 

 プライドも常識も、死の恐怖を前には無力になる。

 この人の年は確か、25才ほどだったか。拷問前は其れなりに美男子だったが、今は40才くらいに老けて見えた。余程恐怖で消耗したと見える。まる一日水も取らせずに汗を流させ続けたこともあって軽度の脱水症状にも陥っているでしょう。


 私はゆっくりと、彼の顔に取り付けた拷問用の金属の器具を手ずから外した。

 本来であればこんなこと従者にやらせればいいのだけど、この『解放』を私自信が行う事に意味がある。


「ねぇ、わらわの言っている事分かったかしら?考える時間はたっぷりあったものね?」


「あ゛っ…あ゛ぁ…」   


 見張りの者から聞いたところによると、閉じ込めて直ぐはかなり叫んでいたようだ。  

 相当抵抗したのか器具に口をぶつけて痛々しい痕が残っている。喉は枯れ果て、声も出せない。死んだ魚の様な目をしているけど、正気を完全に飛ばしたようには見えない。


 私はロキュメスに運ばせてきた物を手に取る。

 彼は拷問器具化とでも思ったのか身を大きく震わせたが、違う。


「まずは治してあげるわ。折角痛めつけないように配慮したのに、口を痛めてしまっているわね」


 意識して優しい声音を。母親が赤子に向ける様な慈愛に満ちた声を。

 彼の顔周りに手をかざして意識を集中する。

 この女は設定通り確かに純粋な魔法の扱いは最強に近い。イメージで言えば圧倒的な自我で世界を上書きするような物。斯くあれかし、と強く思う事。この世界に私の意思を焼きつける。

 その点で言えば私はこの女を超えている。

 なにせ、この世界を書き上げたのは私だ。私が原画だ。絵で文字に命を吹き込む様に、この現実を私の脳内の絵図で塗りつぶす。勿論限度はある。魔法の練習を始めて当初、速攻で現実世界に帰還可能な魔法を模索したが駄目だった。空間に干渉できても、絵で時間を描けないのでどうしようも無かった。

 ただ、それ以外なら。あの異母妹の書き散らした資料に律義に目を通していた私なら、魔法をどうするれば最高効率で使えるか分かる。


 私の手が光るとみるみる内に彼の顔が毛髪を失った頭部を除き元通りになる。そこから更に治癒の範囲を広げて体にまで。治癒の度合いを微弱に調節して焼き印は残るように。大丈夫、出来る。イラストの完成図を焼きつけるイメージでやれば可能だ。


 この世界の魔法の教練をする時は、絵を描かせていいかもしれない。 

 ロキュメスあたりで実験しよう。


 そんなことを思いつつ、片手で手にしていたスプーンを彼の口に近づける。


「お飲みなさい」 


 それはただの温かいコンソメスープ。

 ロキュメスに命じて作らせたものだ。

 他の料理人は一旦休暇を出したので、昨日私とロキュメスが厨房で何をしていたかを知る者はロキュメスのみ。別に難しい事をしたわけではない。とにかく野菜や肉、ガラなどを炒めて煮込ませて、自己流でコンソメスープを作った。料理に凝っていた家族が作っていたのを横目で見ていてだけだからレシピはうろ覚えだし、材料も異なるせいか私からすると色味も琥珀色には遠く、灰汁をとったはずだけどまだまだ雑味があるが、時間をかけて作ったそれはこの世界に来てようやく私の味蕾を潤した。

 ロキュメスなど最初は何をさせられているのか珍しく疑問でいっぱいの顔で作業をしていたが、完成品を口にした時の顔を見て思わず笑ってしまった。いつも不愛想で表情が変わらないロキュメスが目を見開き、思わずと言った様子で私が指示を出す前に二口目の味見をしようとして非常にばつの悪そうな顔をしたから。好物を前にお預けをされた子犬みたいだった。

 

 その自家製スープに、根菜やらソーセージを入れて更に煮込んだスープ。ロキュメスが持ってきたのはソレ。

 ロキュメスが少し物欲しげに見ているのが面白い。   


 この世界にリアルにあった調味料なんてないけど、コンソメは時間と手間をかければそんな難しい材料を揃えなくても作れることは覚えていた。この変な国の貴族社会からすると、これは美しい料理とは言えない。けれど、その美しさを超える価値を示せば。


 スプーンで掬い上げて、私はそのスープを彼に飲ませる。

 その時の彼の顔を見て、私は満足した。


 翌日から、彼は私に献身的に仕えるようになった。美しさは味を満たしてから。美しさは無価値ではない。しかしまず味を満たさず求めるものでもない。その私の言葉を体で理解してくれたようだ。

 そんな彼に私はとある物を渡した。それは私がリアルで覚えている限りの料理のレシピ。再現困難な物しかないだろう。だって材料に同じ物がほぼないから。塩とかは同じだけど、それ以外の野菜は記憶から近似する物を強引に当てはめるしかなかった。だからこのレシピは不完全にも近い原石でしかない。けど、これを糧にしてほしい。

 そしてこうも言った。この資料を基に作った料理は全て貴方の名義で発表しなさい、と。頭に叩き込んだらこのレシピは焼却しなさい、と。

 

 散々痴態を見せた後だし、ロキュメスに関してはもう諦めた。

 この女にとって私の没落は自分の没落とも同義なのでまず裏切らない。なので私の様子がここ最近変、つまり転生以降の言動に違和感を覚えさせても封殺できる。しかし、あまりに色々やって変に勘繰られても面倒だ。特に、皇帝ファミリーを除けば貴族の令嬢のトップである私が料理について詳しいのはおかしすぎる。だからこの専属料理長を飼いならす必要があった。

 

 これらのアイデアを使えば、きっと彼は上手くやってくれるはず。

 事実ではないともされたけど、ビーフシチューを作ろうとして出来たのが肉じゃがなんて言われたように、私のレシピを曲解して変なものが出来るかもしれないけど、其れもまた一興。少なくとも、彼はもう味に妥協しなくなった。

 美しさを重視するこの国では彼の今後の姿勢は容易に認められないだろう。

 けど、私は『命令』で彼を守れる。彼の態度は私の命令によるものだと言えば、有象無象は簡単に封殺できる。命令とはこういう事。強いる代わりに責任を持つこと。

 彼はこの家に限り、自由にやれることを理解してくれた。

 

 それに彼の弱みを私は握っている。

 頭が禿ているという事実を。

 この世界は残酷だ。リアルなら自分の上司にやられたと警察に駆けこめばいいけど、この世界に警察はない。警察に相当する組織は貴族とべったり、私の一声で幾らでも闇に葬り去れる。グランドルートだけ難易度が跳ね上がるのはこの女の力が皇帝に届きかねないほど強力だからだ。

 それほどに、この国にとって『美しいは正義』なのだ。


 だから彼にはカツラをプレゼントをしつつ、とある契約を結んだ。

 もし、私の舌を満足させる料理を貴方が完成させたら、呪いを消して頭髪を蘇らせましょう、と。

 私のかけた呪いは強い。世界最高クラスの私の自我を打ち破る火力が必要だ。けど呪いをかけた本人なら同等の出力が出せるので確実に呪いを消せる。

 それを聞いて彼は涙を流して喜んだ。

 人間は不思議な物で、強い鞭を与えた後に飴を与えられると、鞭を振るった相手にも尻尾を振ってしまう。

 自己防衛のための機能なのか。ストックホルム症候群に近い状態。彼は私に忠誠を誓ってくれた。


 その翌日。彼が私に出した料理は頭髪を治してやるには程遠いけど、デコピン一発で程度で済ますくらいの味にはなっていた。

 やはり、やり方次第で価値観は変えられる。それを確信した私は次になにをするか思案し始めた。


 

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