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ALLFO星機構 続書薄物収容施設  作者: セクシー大根教教区長ミニ丸語
シリーズ: 死にゲー運び屋RPG〜法律人権さよならしてるクソゲーだけど楽しくやってます〜
19/19

7:AIP



◆1:7:20:01:否ヶ淵TC某所◆


ふーんふーんふーんふーんふーんふーんふーんふーん。


 第九っていいよね。ふとした時に鼻歌でチョイスされる度一位(俺調べ)だ。


 ガムテープをビッとやってペッタリ手配書を貼り付ける流れ作業。10枚1組で貼ることで帯のようになるが、その目立ち方は1枚の時の比では無い。


 種族人間って高度な存在なフリして結構ポンコツだからな。案外一目でわかるほどの大きな物を一つバン!と貼るより、程よいサイズを複数貼った方が案外記憶に残る。


 大きい方が記憶に残りそうな気がするが、人間は記憶に複数のラベルを貼って保存してる。極端に大きな広告などは確かに記憶に残るが、その際に記憶のラベルは『大きい物』に分類されてしまって肝心の内容に関心が向かない。


 まあ人間そんなもんだ。もともと特に興味のある物以外は結構適当に情報を処理してる。


 だが、帯状にして繰り返しを行うと、人間はそれを記憶に残し易くなる。

 勉強と一緒だな。英単語を覚えたい時、一度にたくさんやってもダメだろ?小分けにして繰り返した方がより覚えるんだ。


 パっと見は何かが繰り返されてる。しかし遠くから見るには全ての文字を読めない。そこで感心を持った奴は近づき手配書の内容によく目を通す。

 デカい紙だと目に見える文字で満足されて読み流しされるから注意だ。


 推定『喧嘩売りの少女』の顔付き手配書がズラッと10枚並べて貼られている様はなかなか目立つ。

 作業中にも既に暇人達がフラッとやって来て手配書を眺めていた。


「へぇ、ただの噂じゃなかったんだ」


「イベントだってよ」


「ナニコレ?捕まえればいいの?」


 皆さん好き勝手話してらっしゃる。しかしそれでいい。噂になって広まるのが狙いだ。



 俺はプレイヤーの多そうなところ、『喧嘩売りの少女』が出現した、しそうな場所の付近にぺったらぺったら手配書を貼り付けていく。

 500枚を10枚1組したので、最大50箇所に貼れる計算だ。だが闇雲に貼っても逆に新鮮味がなくなるので貼る場所は絞る。


 『イベント』という形に落とし込まれた瞬間、娯楽に飢えてる同僚プレイヤーどもは面白いように食いつき情報は拡散される。

 俺がメッセ凸した奴らの多くは手配書の発行元が誰かに気づき、既に俺に対してメッセ凸返しをし始めている。


『ま た お 前 か』

『さすがユーザーイベ開催数ランキングで唯一個人枠でありながらトップクラス』

『何が始まるんです?』

『手配書貼って回ってんのテメェだろ』

『ジッとしてられないんですか?』

『また寄り道してるのか』

『捕まえたら見返りあります』

『はよランク上げしろ』

『祭りじゃ祭りじゃ』

『情報代請求するね』

………………

…………

……


 ああもう邪魔くさ!視界にチラつくメッセージがマジでお邪魔。飛蚊症ってこんな気分なのか?これオフにできないのガチで運営無能説。


 しかし反応は上々。関心が手配書の内容より手配書の作成者によっている気がするが無視だ無視。

 ゲーム内掲示板に移動すれば早速スレがたち、アホ達があーだこーだ喚いている。てか明らかにデマ情報の方が多いんじゃないか?まあプレイヤーにも色々いるからね。愉快犯が混ざる確率も多いさ。


 これで【喧嘩売りの少女】は一部のコアなプレイヤーが知ってた噂話程度の存在から、実際に存在しうる物としてプレイヤーが認識し始めた。


 手配書を貼って2日立つ頃には俺の熱心な宣伝活動で多くのプレイヤーが【喧嘩売りの少女】を認知。愉快犯が多すぎてそろそろ【喧嘩売りの少女】のリアルの姿がゴリゴリマッチョなハゲと断定され勝手にイメージイラストまで投稿されどれがいいか厳選しようとしていた頃、【喧嘩売りの少女】の被害に遭ったことがあると主張する者が現れ始め、信頼性の高い情報が増え始めた。


 暇人や悪ノリエンジョイ勢は【喧嘩売りの少女】の出現予想ポイントに常駐したりし始め、捕獲網を勝手に形成する。

 3日の時点でデマを流したバカ達がいて、とあるポイントに一斉にプレイヤーが押し寄せる事態となったが、すぐにバレてデマを流した愉快犯は処刑された。

 だがこの騒ぎのおかげで、より多くのプレイヤーに【喧嘩売りの少女】は認知された。


 因みに言葉巧みに周囲を扇動した愉快犯とは後でコンタクトを取りビジネスフレンドとなった。俺は有能な奴を見逃さないんだよ。



 デマが流れて荒れるのは計算通り。何事も善行より悪行の方があっという間に広まるんだ。


 その後もデマが何度か流れてバカが踊り俺のビジネスフレンドが増えつつも、被害者が予想以上に多く確認されたために自治厨達が本格的に捕まえようと動き始めた。



「おいおい、赤バケツさんまで財布パクられたん?プププ、アホやん」


「あれぇ?もしかして初心者ですかぁ?」


「顔真っ赤にすんなって。あ、これバケツの色か。あははは!」


 よく言った。愛のこもった弾ぁくれてやる。俺の愛を脳にキメてくれよぉ!射撃だけは母親譲りで自信あるんだぜぃ?

 

 まあ情報が広まればアホが引っかかる割合も増えるわけで、俺の事を煽ってきた連中もいたがクロック13で頭を弾丸でスイカ割りして財布をパクってやった。ケケケ、長距離狙撃闇討ちが得意と何度も言っておろうに。

 

 ゴミ掃除はボランティアみたいなものだからね。気にしないで。そこの駆け出しくん達、そんなドン引きするなって。そのうち慣れるからよ。

 ゴミの経済力を低下させれば活発度が下がるからね。これは全体の利益の為の行動なんだ。わかるだろう?


 俺はそんな事をペラペラ言いながら財布をパクったが初心者達に悲鳴をあげて逃げられた。酷いなぁ。うるさかったのでソイツらも撃って募金してもらった。ありがとう、南無。

 

 まあ視覚補正無しで頭吹っ飛んだ死体が転がってたらドン引きするよね普通。吐かないだけマシかな?


 このゲーム、法規制の存在感が0に近いので一発BAN級の映像がそこかしこで見れる。ただ俺達の頭をいじくりまわしてるのかトラウマになる事はない。本当になれてしまうのだ。


 現に通路でいきなり殺人が起きても反応したプレイヤーは視界内でも半数未満。死が身近すぎて反応が薄い。


 俺にもあんな初々しい時があったなと全力疾走で逃げてく他のひよっこ達の背中を生暖かい目で見ていると、急にドンッと背中をどつかれた。


 おんどりゃぁ!とクロック13を向けつつ振り返ると、そこには通路を巡回してるお掃除マシンがいた。

 見た目は大型犬サイズの戦車で、この戦車が通るだけで通路が綺麗になる。なんなら容量以上の死体まで吸い込んで綺麗さっぱりお掃除できる。


 見た目は機械らしいが、その正体は怪異の類だ。

 名称は『AIP』。危険性は“今のところ”無し。基本的に生物に興味がなく、ゴミと断定した床に落ちているオブジェクトを消す。

 どんな評価基準でゴミをゴミと判定しているかはよく分かってないが、見た目は可愛らしいと評判である。


 そんな訳で否ヶ淵TC1番の働き者は、俺が生産した生ゴミを処理しに来たようだ。

 死体をここまで完璧に処理できる存在はなかなかいない。PKプレイヤーでもないのに死体処理でよくお世話になるので俺としてもありがたい存在だ。


 ただ、一つ解せない事がある。

 コイツの中身がどうなってるかは知らないが、障害物は避ける程度の頭脳はある。コイツにとってはそこらじゅうにいる人間も動くオブジェクト扱いのようで、器用に避けて通路を移動する。


 なのにだ、俺に対しては普通にタックルかまして来る。


 認識できてないのか俺を動くゴミと認識してるのか、俺とは普通にぶつかるしどついて来る。因みに一回ムカついてわざと進行方向を塞いだら砲身から変なビームを撃たれて死んだ。誰だ無害って言った奴。


 いっそのこと1台くらいクロック13で破壊してやろうかと思った事もあったが、流石にそれはしなかった。

 

 ただのゲームのNPCならGMコールで丁寧に罵倒して解決だが、このゲームは何を喚いても『仕様です』としか返ってこない。

 そしてこのミニ戦車はただのお掃除ロボットではなく、冷静に考えると結構ヤバい能力を持った怪異の類だ。


 否ヶ淵TCだけでなく他のTCでも確認されてる怪異で、その総数は数え切れないほど。

 もしこのミニ戦車が何かのキッカケで反旗を翻したら、多分TCは崩壊する。


 怪異はどれだけ理解した気になっても、絶対に全てを知ることはできない。


 人間と同じだ。どれだけ知った気になっても見えない地雷がゴロゴロしてるし、その踏んだ地雷が致命的なケースだって幾つもある。

 ましてや相手は人間ではない存在。価値観も行動意義も不明。そうでありながらプレイヤーを瞬殺できる能力を持った存在だ。

 いつ如何なる理由でコイツらが牙を剥いても俺たちには対抗手段がない。この怖さがわかってるプレイヤーが何人いるんだろうか?


 そう、だから俺は今日も誠心誠意、キュウリを背後に置かれた猫のように飛び上がると、空中でスムーズに土下座の体勢へ。作業のお邪魔にならない位置にピタリと見事な着地。10点!10点!10点!パーフェクト!

 その武骨なボディを舐め回す勢いで俺はミニ戦車に媚びへつらう。


 へへへどうも旦那ぁ。毎度大変お世話になってます。えぇ、とても感謝してますよ。お仕事のお邪魔をして大変申し訳ございませんでした。旦那以上の働き者もいませんよ。まったく頭が上がりません。おや輝く御身に汚れが。俺に激突した時に返り血がついちまったみたいですね。拭かせていただきやす。


 サッと鞄から清潔な雑巾を取り出しミニ戦車をキュッキュッと愛をこめて拭く。

 急にお掃除ロボット君に媚び諂い出した俺に、ヤバい奴がいる、みたいな視線を向けて来る奴もいるが、今に見てるがいいさ。


 俺が全力で媚を売ると向けられていた砲身が興味を失ったように正面に向き直った。


 ほらコレだよ。意思疎通全くできない存在かと思ったらどうにもわかってる節がある。コイツ絶対ロクなもんじゃ無いね。


 だから旦那、万が一バカどもとドンパチ始めても俺の事は見逃してくれやせんか。



 俺は安全思考な男。いつか唐突に来るかもしれないカタストロフに備えて地球脱出装置のチケットを予約するために靴だって舐めれる男だ。



 ――――――状況が本格的に動いたのは、俺がそんな保険をかけている最中の事だった。

 

 

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