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ALLFO星機構 続書薄物収容施設  作者: セクシー大根教教区長ミニ丸語
シリーズ:外華内貧ラスボス系悪役令嬢の英傑列伝~このアホみたいな世界ブッ壊す~
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11:美麗至上主義



 第二皇子は立ち上がり護衛に手で合図。

 護衛はそのままで第二皇子だけがこちらに歩み寄ってくる。


 それを見てロキュメスの気配が背後で鋭くなったが、私は手で合図してロキュメスを少し下がらせた。


 第二皇子は私の元まで来て改めて私の顔をジッと見つめると、素早く全身に目線を走らせ、そして何かに納得したように顔を私の耳に近づけ私にだけ聞こえる様な声量で囁いた。


「クルー姫、貴方の目的は、この国の価値観の変容かな?」

「………………」


 大丈夫。ポーカーフェイスは維持できた。

 まだ、まだクーデターまでは到達していない。

 その最終的な目的である現実の帰還に言及されたら流石にビビっただろうけど、コイツのモデルが父ならまだ予想の範疇。


「どういう事ですの?」


 一時的にしらばっくれる。たっぷりの蜂蜜をかけた様な甘い笑顔で。行儀悪く机に腰を乗せて私の側に立ち同じく笑顔を返す第二皇子。見た目だけなら恋人同士の甘いやり取りに見えるが、実際は腹の探り合いだ。


「つまらないんだろ?今が。前の君はそれでも次期公王という立場を優先していたけど、今の君はそうじゃない。上級学院がそこまで期待外れだったかい?君が皆に指導をしている時、その顔は俺が見たことがないくらい生き生きしていた様に見えたよ。君は証明の為に友達に教導をしているわけではない。教導そのものを楽しんでいる。君は自分の手で周囲が変わることを楽しんでいる。違うかい?」

 

「御友人の魔法がわらわの手で上達なされば、やりがいを感じないと言えば嘘となりますわね」


 一体いつ偵察しに来ていたのか。

 伝え聞いたにしては少し実感がこもっていた様な。

 それにしても、教導を楽しんでいる、か。否定はしない。何せ、ネットに浸りきっていた22世紀ヒューマンからするとこの世界の娯楽はあまりに貧弱だから。何かにやり甲斐を見つけて生きていないと息が詰まる。

 今の私は、派閥の強化がやり甲斐なのでしょう。


「けれど、クルー姫、君は教師を目指しているわけではないのだろう?御友人を鍛えてどうする?どうにも君の魔法の鍛え方には、芸術よりも何処か攻撃として使う事を常に念頭に置いている様な気がするのだがね」


 おいおいマジか。そこまでわかるんかコイツは。

 そうだ。私はクーデターに備えて周りの連中に戦闘出来る様に仕込んでいる。この世界は魔法万歳の世界だ。魔法が使えれば貴族の子女でも立派な戦力になる。優秀な血をブレンドし続けているのだ。貴族達はポテンシャル自体は高いのだ。あとはそれを鍛えるだけだ。


 ん?まさかとは思うが……美麗至上主義って暴れると面倒な貴族達を遠回しに無力化していく政策だったりしないよな?

 日本を統一し長い事子々孫々にその役割を継承する事に成功した徳川家は、能力ではなく血で次代を選べるように世界を整えた。


 この帝国は、立地的にはかなり日本に近い。つまり一つの大きな島を帝国という大きな国一つが占拠しているのだ。外敵から攻め込まれるリスクが低い。故に皇帝家の仮想敵はどちらかと言えば身内。六大公王という名が残っているように、この国にはまだ大陸統一前の影響は色濃く残っている。

 これを解消したければ、貴族達の力を下げるのが手っ取り早い。


 貴族達にも帝国同様に能力ではなく血で人を選ぶ様に優先して、けどそれだとあからさまだから美麗至上主義なんて概念をぶち上げていたとしたら?


 考えろ。

 あの異母妹のやりそうな事を。

 考え方や理念を。

 アイツは変な部分のリアリティにこだわる節がある。

 美麗至上主義を作品のテーマに置く癖に、なぜそれが広まったかを考えないほど惚けた女じゃない。

 私が読み逃したか、アイツがまだそこらへんの裏設定まで書いていなかったか。私が知る限りその部分の設定は知らない。

 とりあえずイメージを形にして欲しいと書ける部分から書いていくという家族にしか許されない横暴なオーダーを投げてきたからなあの女。


 皇帝の目的が、もし美麗至上主義を利用しての六大公王の影響力低下及び帝国家継承システムの完全な確立なのだとしたら、私の今の動きは思っていたよりも皇帝に睨まれる動きなのか?

 不味い。不味すぎる。通りで第二皇子を送り込んできたわけだ。多分提案をしたのは第二皇子だが、皇帝としても私の言動の意図を探っておきたいのだろう。


 そして第二皇子はそれがわかっているから、こうして私を試している。


 見えてきた。


 思案。

 私は仮定を置く場合1番嫌なパターンをまず採用する。ここでいう最悪は、皇帝の狙いが帝国貴族弱体化による帝国家の地盤固めだった場合。

 主人公の提案で美麗至上主義を皇帝がやめるように改心したのは、ただ単純に主人公に感銘を受けたわけではなく、主人公という平民を使う事で貴族の力を削ぐ方に一時的に方針を切り替えたから?

 だから主人公の力を使って、六大公王関連で1番邪魔臭い私を蹴落とした、と。

 

 うぅわっ、ありそう。アイツはそういう裏の企みなどを一見隠して描写する癖がある。

 アイツ登場人物だからバカだからどうにかなるみたいな展開嫌いだからな。皇帝が都合良く主人公の熱意に感銘を受けるみたいお涙頂戴はむしろ嫌いなはず。本当は皇帝が主人公を上手く利用しているという図の方が好みだろう。


 しかし商業向けだから、一見は王道展開に見えるように装った、か。まぁギャルゲーとか乙女ゲーとか結構頭悪い展開多いし、恋愛に脳の容量が割かれている多くのプレイヤーにはそんなドロドロしたもんは気付けない。


 そうなると見えてこなかった絵にパズルがはまっていく。


 こりゃ思ったより更にクーデターむずいぞ。

 どうする?どうするのが正解だ?今更大人しくするのは逆に皇帝が勘繰る可能性がある。第二皇子に接触されてやめたらやましい事考えてました、って言ってる様なもんだ。あくまで皇帝に対しては、世の中舐めてる箱入りお嬢様が暴走しているくらいで見てもらっていた方がいい。

 ここでムキになるのは皇帝としても本意ではないはず。美麗より実力を、という思想そのものに貴族達の目を向けたくないはずだ。


 その為のピースは。


 目の前にある。


 この男がピースだ。


 皇帝に虚偽報告をして、皇帝のターンを数手遅らせることが可能なのは、この人だけ。

 このタイタニック級の船が泥舟になるか、それとも。


「……お手を、お借りしたいのです」


「何をかな?」


 

 怖い。嫌だ。頼りたくない。

 そんな思いを飲み込み。

 実父モデルのキャラだからどうした。

 この男に頼るのは自分の殺害許可証を差し出す様なものだと思っても。

 でも、悔しいけど、モデルを考えるなら今1番頼りになるヤツなんだ、コイツは。


 私が手でジェスチャーをすると、私に口に自分の耳を近づけてくれた。うぅ、些細な動作に父親の面影があるのがほんと…………子供が内緒話をしようとする時、こんな動きしたなぁって思い出す。

 クソッ。怯むな。もう答えは出てるんだ。


「その前に一つ、婚約者として、一緒に死んでくださる覚悟はありますの?」


 大事なのは楽しませる事。

 普通はドン引きするような言葉が、コイツ相手の場合だけ正解になる。だからコイツのルートは滅茶苦茶面倒なんだ。どう考えても好感度下がったり地雷選択肢の方が正解な場合が割とあるから。


 ほーら見たことか。割とヤバい事言ったはずなのに凄く楽しそうな顔してるぞ。


「結婚の誓いはせずともいずれする身だろう?健やかな時も病める時も、俺たちは一緒さ」


 この男、普通にこういう事言うんだよなぁ。

 娘ながらよく母親達に刺されずに済んでるなぁって思う父親がモデルなだけある。

 絶対嘘ついているのに嘘の音がしない。

 喉が渇く。喉奥から舌先まで干上がった様にカラカラだ。心臓の鼓動が跳ね上がり手が震えそうになる。

 まだ迷いがある。

 本当にコイツに頼るのか。

 準備不足もいいのにこの段階から縋るのは相当不味いのはわかってる。主導権が完全に取れてないのは後々で絶対に良くない。

 

「この国を、変えます。殿下……皇帝になって私を国母にしてくださいませんか?」


 しかし自分が手筋を間違えたのだ。ならリスクを取っても打開を狙うしかない。


「この軟弱で甘ったれた国を叩き直し、この国を最強国家に作り変えます。戦乱の時代を呼び戻します。国を富ませ民を教導し世界一の強国を作ります。侵略し、他国を蹂躙し、この島からより外へ支配権を拡大します。皇帝家と六大公王の完全統一?つまらない。わらわは島内だけに拘る気はありません」


 やるなら徹底的に。

 私は私のエゴで知らん奴らが不幸になろうが許容する。

 どんなに綺麗事言っても戦争は悪だ。

 私が進む先には大量の屍が転がることだろう。

 だからなんだ。

 私は帰るんだ。

 こんなふざけた世界にいてたまるか。

 創作者の1人が自分で作った世界をどんなふうに壊そうが周りから文句を言われる筋合いはない。

 私が一次創作者だ。


「世界を、制覇しませんか?」


 実際はどっかで妥協するだろうけど、目標はでっかく。

 これくらいの気概無くして世界を脱出なんてできるものか。

 

 私の囁きに、第二皇子は初めて呆気に取られた様な顔で私を見つめた。

 フッ。リアルではそう見られるもんじゃないけど、いつも余裕そうだった父親から一本取ったみたいで私は少し胸がスッとした。


 


 

 

 

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