三人の魔術師と禁忌の術
転生しても山田は山田の異世界と鋭意執筆中の新シリーズの異世界に伝わる昔話です。
もしかしたら今後に関わってくる……かも?
魔術黎明期、いくつもの魔法陣を掛け合わせた術式や自らから繰り出す魔術などの多くがまだ不明瞭だった頃、特に優れていた魔術師としてワーグナー、ツエルヴァ、サリエンという三人がいました。
ワーグナーは錬成術に優れており、その腕前は様々な諸国がどれだけの大金をもいとわずに欲するほどのものだったそうです。
ツエルヴァは死者を可視化し対話することができる術に優れており、彼がその術を使ってやっている商売「再会の館」は連日とても大盛況だったようです。
サリエンは万物が生み出しし全ての術を読み解く術に優れており、いまだ明らかになっていない秘術を求めて旅に次ぐ旅で各地を転々としていたみたいです。
ある日、偶然にも同じ酒場で居合わせた三人はお酒を飲んでいたこともあって話が盛り上がった末に「次、会う時までに各々がいまだ誰もが見たことのない術を持ち寄ること」を約束してしまいました。
ワーグナーはそれまでやりたくても後回しにしていた人工的に人を作る錬成術に着手しはじめました。
最初は死体を元に進めていましたが、人の形すら保つことが出来ず失敗の連続。生きている人ならと奴隷を買って実験を進めていきました。
数々の実験を経て、ようやく綺麗な女性を錬成することが出来て娘のように可愛がり、しばらくは一緒に暮らしていました。ある日、買い出しに行かせていたはずの彼女に城下へ降りてきていた王子が一目惚れしてしまい、彼女との結婚を申し出てきました。ワーグナーはこれを快く受け入れました。
しかし結婚式当日、王子と娘が誓いのキスをした瞬間、まるで魔法が解けたかのようにドロドロに溶けてしまいました。式は騒然とし、中止。怒った王族と王子はワーグナーに死刑を言い渡し、即日執行されました。
ツエルヴァは死者を可視化し対話することができる術の術式を少し書き換えて死者をあの世からこの世に連れ戻す蘇生術を開発し始めました。最初は死者の魂を呼び出して器となるマネキン人形に憑依させることに注力しました。初めこそ一分と留まっていることが精一杯でしたが、術式を書き換えたり魔力調整を行った末に器へ魂を留めておくことができ、動いたりすることもでき、外部からの強い衝撃がない限りは魂が外へ飛び出すことはなくなりました。
次に器となっているマネキン人形に魂の生前の姿を転写して復元する作業に取り掛かりました。これも四苦八苦しながらも、どうにか成功させることができました。
最後に言語能力と思考能力を与えようと叡智の再生術を使おうとした時、死の魔獣を名乗る異形が現れ、死へ近づきすぎた報いとして魂を食べられてしまいました。
サリエルは自らの力を持ってしてもなかなか解読できない古い術式指南書のとある術式発動方法が記されたページの解読にいそしんでいました。なんでもその術は完成させると、別の異界から人を招き入れることができるのだといいます。
異界があるなら是非とも知りたいと好奇心旺盛なサリエルはいつもの倍の集中力で解読に励んでいました。三日三晩ご飯も食べず、寝ることもなく。やっとのことでそのページだけを解読することができましたが、術式が最後まで記載されておらず、ページの終わりにはこう記されていました。【これを完成させてはいけない】
サリエルは食事も睡眠も削ってやっとここまできたのに止めるわけにはいかないと思いこの忠告を無視して完成させようと続けました。術式を完成させることは書きかけの術式を解読するよりも簡単でした。いよいよ、その術式で異界の人を呼び寄せようと陣を展開し術を発動させました。
術は成功し、陣から一人の武人が現れました。話しかけようと近付くと、腰につけていた王都の剣とは違う形状の剣で切りつけられました。なんとかよけて軽い傷だけで済みましたが、今度は術が暴走してどんどんほかの異人たちが現れました。
異人たちは暴れて破壊の限りを尽くして研究所から街へ出ていきました。それからしばらくして、今度は時空にヒビが入り、割れてありとあらゆるものがどんどん亀裂の向こう側に吸い込まれていきました。サリエルは亀裂が生じさてた時空の歪みに吸い込まれて消えてしまいました。サリエルが研究拠点としていた王都はたちまち滅ぼされ、異人たちはなぜかその歪みに巻き込まれず世界に解き放たれたままになってしまいました。
そのあと、事態を重く見た神が天使たちを事態の収拾に派遣してなんとか収まりました。
以上のことがあったため、神は【人体錬成の術】【死者蘇生の術】【異世界召喚の術】を禁術として定め、今後これらの術が二度と使われないようにと人間側に盟約として強いられることになりました。