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真の悪役令嬢になります! ペーター①

(聖女が死んだ? なら、ルルは!?)


 ペーターに変装をしたフィリップは慌てていた。

 聞こえてくるのは、聖女の死についてばかりで、肝心要である聖女のお世話係りになったルルの話は一切聞こえてこない。便りがないのは元気な証拠とは言うが、ルルは何かと面倒事に巻き込まれやすい。その上、誰か制御してくれるような人がいないと思いついたままに行動をとりがちだ。

 孤児院では、院長がルルの行動を制御する役目を担っていた。聖堂ではたぶん、聖女が、聖女自身が知らぬ間にその役目を果たしてくれていただろう。

 だが、今は院長も聖女もいない。


 フィリップは頭をガシガシと掻いた。

 あと半日早く町に着いていれば、今頃ルルと話が出来ていたかもしれない。聖堂から引き離すことが出来ていたかもしれない。

 タラレバを繰り返したところで、状況が変わることはない。せめて聖堂へ向かっておきたいところだが、聖堂へ向かう馬車は、聖堂側が立ち入りを拒んでいるため営業中止になっている。フィリップが個別に馬車を出したところで、閉め出しを食らってしまうだろう。

 

 何とかルルと接触出来る方法はないだろうか……。


(ん?)


 繋ぎ場に止まった馬車から降りてきた少女に目が止まった。見覚えのある背丈、赤黒く汚れてはいるがプラチナ色の髪。『ルル』と思わず駆け出して行きたいほど雰囲気が似ている。


「アビゲイル嬢?」


 以前目にしたアンジェラの姉、アビゲイル嬢によく似ている。だが、どこか違和感があった。貴族の令嬢は幼い頃から所作をしっかり叩き込まれる。だが、彼女の歩き方にはクセが見受けられた。時折、ぼんやり立ち止まって考え事をしているような素振りをみせたり、これではまるで……


(ルルみたいだ……)


 そんなことを考えて頭を横に振った。

 アビゲイル嬢とルルが重なって見えるだなんてどうかしている。


「どうします?」


 建具屋の主人がこれからのことについて訊ねてきた。

 聖堂の中には入れないとしても、外から様子だけでも見てくるに越したことはない。駄目元ではあるが、配達を装うために用意した馬車に乗り込み、聖堂を目指した。


(向こう側から顔をひょっこり出してはくれないだろうか)


 ルルが現れないか、一縷の望みを掛け、聖堂の敷地内を覗く。だが、中は慌ただしく、誰一人捕まらない。

 今日は諦めた方がいい、そんなことを言われた時、『裏門から』という言葉が聞こえた。


(裏か、裏に回れば……)


 フィリップは建具屋の主人に止められるのも聞かずに駆け出した。正面の門から裏門までは距離があり、日頃から身体を動かしていなければ、すぐに息切れしてしまうほどだ。だが、たどり着いた裏門もしっかり閉まっているどころか、正門と同じく、中に入られないよう見張りが立っている。ルルに取りつぎしてもらえないか声を掛けようにも、手で制止され、首を横に振られてしまう。


「駄目みたいです。帰りましょう」


 馬車をまわしてくれた建具屋の主人が額に滲んだ汗を拭う。連日の馬車移動と聖堂まで付き合わせたせいか、顔に疲れが浮かんでいる。陽もだいぶ傾いてきた。建具屋の主人が言う通り町に戻ろう、そう思って馬車に振り返る。


「誰かあそこにいますね……」


 建具屋の主人が一点を見つめている。その視線の先に目を凝らすと、真っ黒な服装の男が木の下で膝を抱えていた。


「聖堂の関係者だろうか?」

「さあ?」


 ふたりで近づいてみることにした。生い茂った草を踏み、男に近づく。男はふたりに気がつかず「ごめんよ、ごめんよ」と謝罪を繰り返し震えていた。


「もし、どうされました?」


 男の肩に手を置くと、男の身体がびくりと跳ねた。


「おじょうちゃん……。ごめん、ごめんよ……」


 顔をあげて見せた目は虚ろで、顔色は真っ青だ。

 建具屋の主人に馬車から飲み物を取ってきてもらい、男に与える。男は促されるまま数口飲んだ。


「なぜ、謝っていたんですか?」


 そう問えば、男は揺れ動く瞳で真っ直ぐフィリップの瞳を見つめ返す。


「嬢ちゃんをちゃんと弔わずに逃げてしまった……」

「嬢ちゃん?」


 こくこくと男は何度も頷く。


「嬢ちゃんが塔のてっぺんから落ちたんだ。そんで、みんなは聖女様にかかりきりでよぅ。嬢ちゃんは捨て置かれてたんだ。オレは嬢ちゃんが可哀想で可哀想で……。お友達の隣に埋めてやることにしたんだ……」


 言葉が途切れる。


「この男、聖堂で御者をしている男です。ルルと一緒に出掛けているのを見かけたことがあります」


 建具屋の主人にそう言われ、フィリップは青ざめていく。


「おい! 嬢ちゃんっていうのは聖女の世話係をしていた女の子のことか!?」

「ああ。そうだ」

「その子は今どこにいる!?」


 男は北の方角を指した。

 フィリップは馬車の御者台に飛び乗った。建具屋の主人もそれに続く。「オレも」と御者も乗り、御者の案内でルルを埋めようとした雑木林までやってきた。


「嬢ちゃんの死体がない……」

「本当にここか!?」


 御者はこくりと頷いた。

 修道院からの帰り道、知り合いだと思われる女の子の死体を見つけて埋めた場所がここだと言う。だから、ここに埋めてあげようとした。そう話す御者の言う通り、放り出されたままのスコップと雨風にさらされたトランクが転がっている。


「この塚のようになっている所は?」

「それは嬢ちゃんが知り合いの子を埋めた所です」

「少し崩れた箇所があるな」

「掘り返してみますか?」


 建具屋の主人の言葉にフィリップは頷いた。鼻と口を布で塞ぎ、掘り返す。現れたのは、ルルではなく、御者の言う通り、死後数日経った少女の遺体だった。


「見つけた時はヒドイものでさぁ……。殴られ、犯された後があって……。それでも嬢ちゃんが司祭様が帰るって言うのを聞かずに埋めてあげたんですわ」


 フィリップは腐り始めている顔を凝視した。


(なぜだろうか? この顔、どこかで……)


「アビゲイル嬢!?」


 いや、待てよ! と頭をかきむしる。先ほど町でアビゲイル嬢に似た人を見かけたではないか。


(どういうことだ?)


 フィリップは呆然と立ち尽くした。

 

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