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真の悪役令嬢になります!⑤

(わぁ……、悩んでる悩んでる。おもしろっ)


 床を見つめて本気で悩む老紳士を見下ろし、ルルは悪い顔で微笑む。

 これで捨て置かれるならば、慰謝料を強奪するつもりだし、連れて行かれたとしても、アビゲイルが家出した時よりも悪い状態におかれることもないだろう。


「要望を叶えてあげる? それとも優しい嘘をつく? どちらがアンジェラのためになるのかしら。私を探してきて欲しいと頼まれた、信頼されているあなたにしか出来ない選択だわ!」


 もっともらしい言葉をかけ、「どうする?」「どうするのが一番?」と追い討ちをかける。ルルは楽しくて仕方がない。自分にこんな悪い性格が隠されていたのかと思うと、今まで出さずに我慢出来ていたことに感心する。


「つ、連れて戻ります!」

「頼れる人は答えを出すのも早いのね……」


(つまんない。もう、終わっちゃった)


 老紳士は考えすぎたのか、ぷすぷすと頭から湯気を出している。ぐったりとしたその姿を眺めながらルルは、頬に手を添え、唇をへの字に曲げていた。

 こうして見ると、この男の小者感が半端ない。言葉づかいに気を遣っている節は見られるが、余計な一言が多すぎる。


「ねぇ、あなた。屋敷に『私が見つかった』という連絡はしたの?」

「しましたよ! あなた様が入浴中にね」


(そういうところよ……。だから家出人の捜索だなんて、おおっぴらに出来ないような仕事を与えられるのよ)


 ルルはこっそりため息をついて、窓の外に視線を移した。見慣れない景色が流れている。


(そういえば、この人たちの言う屋敷ってどこにあるのかしら?)


 見知らぬ土地へ、連れていかれるというのは怖いものだ。自ら出向くのであれば、好奇心でいっぱいになれるものなのだが。


「あと、どれくらいで屋敷に着くのかしら?」


 老紳士は背後の壁を叩いて、御者の男に確かめた。


「あと三時間ほどだそうです」

「そう。ありがとう」


(すごく遠くまで行くわけではなさそうね。でも、思ってたより時間がないわ。さっきまでアンジェラの事ばかり聞かされていたから、今度はアビゲイル本人の話を聞いておかなくちゃ)


 ルルは座席に座り直して、真っ直ぐ老紳士を見つめる。 


「ねぇ。私、記憶喪失でしょ? アンジェラのことも覚えていなかったけど、自分のことも覚えていないのよね。妹であるアンジェラを虐めていたことを聞かされて驚いているくらいだし。あなたの知っているかぎりでいいの。私の生い立ちも教えてもらえないかしら?」


 お願いしますと頭を下げると、老紳士は機嫌を良くしたらしく、にんまりと微笑んだ。


 アビゲイルはキャンベル家の長女であり、ひとつ年下の弟アーロンと妹のアンジェラたち双子との三兄弟だ。弟のアーロンは金髪だが、姉妹は揃ってプラチナ色の髪色をしており、瞳の色は三人とも宝石のブルーサファイアに似た色をしている。アビゲイルには両親が決めた許嫁のサイラスがおり、十八になったらラッセル家に嫁ぐ予定だという。


「サイラス様はあなた様よりもアンジェラ様にご執心の様子ですがね。お似合いですよ。庭園でふたり仲睦まじく過ごす様子は初々しく、胸がきゅんきゅんしてしまいますね」


(きゅんきゅんねぇ……)


 ルルは老紳士の蕩けるような表情に白けてしまう。それを気取られないようにして、情報を聞き出すことに専念する。


「そうなの? 私はそのふたりを見て何か言ってなかったのかしら?」

「何も言いませんよ。ただ物陰からふたりの様子を睨んでいましたね」

「睨んで? あなたの主観が入ってない?」

「わたくしが目にしたわけではなく、ほかの者が目にし、教えてくれたまでなので。その後は決まって部屋に閉じ籠ってらっしゃたと()()()おります」

「そうなの……。私、婚約者にも蔑ろにされていたのね……」


 切なさそうにため息をつけば、老紳士は慌てて言葉を繋げる。


「仕方がないのではないんでしょうか。サイラス様はアビゲイル様の愚行を止めることが出来ず、アンジェラ様を守る側にまわったのですから」


 あくまでも原因はアビゲイルにあると言う。


「守る側?」

「サイラス様は紳士でございますからね。アビゲイル様に改心するよう何度か忠告されたとのこと。ですが、あなた様は聞き入れようとしなかった。『そんなことなどしていない』の一点張りだったそうで。ですので、サイラス様はアンジェラ様の盾になられたのです。そのお陰で、サイラス様がいらっしゃる時は、あなた様からの嫌がらせが止むのだとか……」

「そうなの……」


 ルルは少し考える様子をみせた。


「ちなみにだけど、あなたは私がアンジェラに何かしたところを見たことがある?」


 眉毛をピクリと上げた老紳士は、目をゆっくり左右に動かした。しばらくそんなことを続けていたが、徐々に険しい表情へと変わっていく。


「……見たことがあるのような、でもないような気が。うーん」


(へぇー、なるほど。アンジェラは情報操作が上手い()なのかもしれないわね。アビゲイルはそれに負けて家を出た)


 簡単な仮説を立てたルルはキャンベルの家でどう立ち回るべきなのかを考える。


(この男を利用して記憶喪失を強調するべきね。そうすればしばらくの間、アンジェラが何かをしてくることはないわ。その間にお仲間作りをして、面倒な奴らは追い出せたら万々歳だわ。お金が貯まるまで、快適な生活を送ってやるわよ! まずは手始めに……)


「今さらで申し訳ないんだけど、あなたのお名前もうかがってもよろしいかしら?」

「ああ、はい。わたくしスチュアートと申します」

「スチュアート、ここまで色々教えてくれてありがとう。屋敷に戻ってからも助けてくださいね」


 眉毛をへにゃりと下げて微笑めば、不安でいっぱいそうな笑顔の出来上がりだ。スチュアートの反応も良い。目を大きく見開いたかと思うと、穏やかな笑みを浮かべ『はい』と答えた。この男、絆されやすいようだ。


(まずは、ひとり。小者だけど)


 ルルはキャンベルの家に到着するのを今か今かと待ち続けた。

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