独白
『俺は一体何の為に頑張っているのだろう』
そんな言葉がずっと俺の心を蝕んでいる。
_____ダメだ。落ち着け。心が壊れたら全てが上手くいかなくなる。
いつものように、いつものようにだ。
眠るのは良く無い。
瞼を閉じた先にある暗闇は、封天街となんら変わらない暗闇だからだ。
僅かな光もない世界に目を背ければ、俺は二度と帰ってこれない気がする。
いつものように、いつものように、フィルターをかけよう。
壊れたゴーグル越しに世界を見れば、濁ったレンズの色が黒しかない世界を彩ってくれる。
こんな薄汚れたレンズが俺の視界を癒してくれる。
視覚は騙した。次は感覚だ。
どうしようもない不安と焦りに追われた時、俺はどうしていただろうか。
……そうだ、肌を引っ掻いていた。
不安、焦燥、失望、絶望。
そう言ったものは背中や足に重りのように、同時に実態の無い煙のよう纏わりついてくる。
一刻も早く振り払わなければ、この煙が肺の奥まで侵入してきて俺の息の根を奪い取っていくような気がした。
不安の煙は裂かなければいけない。
俺を足踏みさせようとする煙に爪を立てて、そんな恐怖を痛みで上書きしてやらなければいけない。
_____段々と逃避の手段が少なくなってきた。
より強い痛みを求めて人の目につく場所を彷徨ったりもした。
見たくないものに蓋をする為にゴーグルをかける時間だって増えた。
『ちっぽけなお前一人が頑張った所で何も起きやしないよ』
『そもそも、太陽なんて本当に存在するのか?』
……静かにしてくれ。
『事実、お前は何も成し遂げてない』
『暴力を振るわれて悦に浸ってるように見せなければ、自我も保てない出来損ないだ』
……黙ってくれ。
『お前がやってるのは本に出てきた登場人物の模倣に過ぎないだろう?』
『本を読むのは楽しいよな?不都合な現実から目を背けられて、それでいて新しい自分の性格を手に入れられる』
うるさい。
『今の君は、散々君自身が嫌ってきた封天街の死んだように日々を浪費する人間となんら変わらないよ』
ずぅっと自分で自分を否定する声ばかり聞こえてきたのに、最後の言葉だけは自分がずっと追いかけていた声色で。
…………………………。
分かってる。
そんな事は……分かってるんだ……。
でも、俺は頑張ったんだ。
必死に、必死に、頑張ったんだ。
貴方が素敵な世界を教えてくれたから。
絶対に見てやろうって、それだけの為に頑張ったんだ。
それなのに、天蓋の外は永遠の暗闇で。
そんなの……そんなのは……あんまりじゃないか。
『もう諦めても良いんじゃないか』
俺の背中と足に甘い匂いのする煙がまとわりついてくる。
膝に、腕に、首に、それはどんどん伸びていって俺の肺に諦観を流し込んでくる。そんな感覚。
意識がぼうっとする。何も思いつかない。
結局俺は、何かを成そうとして何も出来ない、ただ失うだけの街の奴らと何も変わらなかった。
膝を抱えて殻に閉じこもって、そんな自分が嫌で自分の夢ばかり追いかけて、命を懸けても失う事しか出来ない。
「どうすれば」
独白。
「俺は……どうすれば……」
告解でも懇願でも無い。つまらない独白。
目の前の道を全て見失った俺に残っているものは何があるのだろう。
それを探す為、時折顔を上げて外の世界を見直してみる。
『じゃあもう太陽見ちゃいましょうよ太陽!』
こんな時に、場違いな程に明るい一人の顔が浮かんだ。
何故浮かんだのか、今の俺じゃ分からない。
でも何故だか、何故だかは分からないが。
……その顔を見ていると、完全に壊れる訳にはいかない。不思議とそんな気がしてならないんだ。




