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その仮面  作者: kondouhazime
9/23

 倒れた日から一か月が経った。今日、ついに俺は学校に復帰する。


一か月も休んでいたら単位が足りなくなるかも、と思っていたがこれまで成績上位をキープして、部活動も精力的に励んでいた事もあって単位の方は融通を聞かせてくれた。


 朝はいつもの様に洗面所に行って、水が溜まった水面を見る。


揺れ動く水面に写る俺はすっきりした顔をして、語り始める。


「今までありがとう。お前のおかげで俺はこれまで生きて来る事が出来たよ」


 向こう側にいるもう一人の俺、仮面に向けて言う。


「もう俺にはありのままでも受け入れてくれる人がいるんだ」


 森下の事を思い出して、口端を微かに上げて笑う。


「だから大丈夫だ、もう俺に仮面は必要無いから」


 伝えたい事だけ言って、俺はシンクに張った水を抜いてしまった。


 ワックスで前髪を上げ、歯磨きをして、食卓があるリビングに行った。


「おはよう。父さん、母さん」


 すでに両親は席に着いていた。


「ああ。おはよう」

「おはよう、涼介。朝ご飯はどうするの?」

「お腹痛くなるからやめとくよ」

「あらそう……、それじゃあお弁当」


 と言って、いつもの様にタッパーのお弁当を受け取った。


 中身にはぎゅうぎゅうに白米とおかずが詰められていて、これだけの量を食べるとなると苦労するだろう。


 一瞬、悩んだ末に俺は口を開いた。


「……母さん、弁当の量ちょっと少なくできない?」

「え? どうしたの?」

「実は前から量が多くて、無理して食べていたんだ」


 鼓動が早く波打ち、全身に熱を帯びているのが分かった。きっと俺は緊張しているんだと思う。例え母さん親であったとしても仮面を外して我儘を言う二人目の相手だ。


 なんて言われるだろうか。


 こんな事を言わなければよかった。


 仮面があれば、と弱気になってしまった自分自身の太腿を抓って喝を入れる。


 思い出すのは森下の言葉だ。森下がありのままの俺が好きと、そう言ってくれた。


 覚悟を決めて、若干の恐怖を胸に抱きながら母さんの言葉を待つ。


「あら、そうだったのね。ごめんなさい、気が付かなくて」


 そしてやって来たのは残念がる言葉じゃ無くて、謝罪の言葉だった。


 顔を見ると申し訳なさそうにする母さんがそこにいた。


「明日からは量を減らして用意するわね」

「うん。ありがとう、母さんさん」


 自分の意志を伝えるのがこんなに簡単な事だったんだと、今さら気付いた。


 言わなくちゃ伝わらない。当たり前だ。それでもこうして言葉にして伝える事が今までは恐ろしかった。仮面を被って、自分を偽って、みんなが望む姿にならないとダメなんだと思っていた。


「行ってきます」

「「いってらっしゃい」」


 でも違った。こうして父さんも母さんも受け入れてくれた。


 だからこの先も、きっと。




 朝、学校に行けば他のクラスメイト達がすでに席に着いていた。みんな話に夢中で俺が入ってくる事に気付いていない様だが、自分の席に座ると大山と工藤が駆け寄って来た。


「あっ、佐々木君がいる!」

「大丈夫だった?」


 二人は本当に心配そうに言ってくれた。


「大丈夫だよ。二人ともごめんな。迷惑かけて」


 周囲を一度見渡すと大山の大声で気が付いたのか、教室中からの注目を集めていた。俺は席から立ちあがって、頭を下げて言う。


「みんなも、迷惑かけてごめん!」


 少しの間、沈黙が続いた。


 何を言われるだろう、どう思われているだろう。


 不安があったが、次に来たのは罵りの罵声でもなんでもなく、思わず「痛」と声を上げてしまう程の頭への強い衝撃だった。


「何やってんのさ!」


 顔を上げると手刀を構えている大山の姿があった。


「迷惑なんてかけてないでしょ!」

「そうだよ、身体壊して困っていたのは佐々木君の方でしょ?」

「でも、みんなは俺にノートとか書いてくれていたし……」


 大山と工藤はそう言うが俺が休んでいる間も授業に遅れない様にと、クラスメイトのみんながノートを書いて届けてくれていたのだ。毎日もう一人分のノートを書いて、そして家までそれを届けてくれる労力は計り知れない。


「でも、いつも勉強教えてくれたしな」

「そうだよ。私も前に恋愛相談乗ってもらったし」

「ていうか普段から佐々木には助けられっぱなしだったからなー」


 ぽつりぽつりとクラスメイトが口を開き出す。


 優しくて暖かい言葉の数々は、まるで昼下がりの教室に差し込む太陽の様に俺の心を照らした。


「だから迷惑なんて考える必要無いよ!」

「おかえりなさい、佐々木君」

「「「おかえりーっ!」」」


 弱い部分を見せても、みんなは離れていかなかった。


 これだけ長く休んでしまっても、みんなは俺の事を必要としてくれて、そしておかえりと言ってくれた。


 感極まって泣きそうになりながらも「ただいま、みんな」と呟くと、一斉にみんなに囲まれてしまった。


 教室の片隅にいた森下と目が合うと、だから言ったでしょ?と言わんばかりにウインクをされる。クールな森下がした仕草に少しドキッとしたのは内緒だ。




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