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俺が通う私立桜高等学校は県内有数の在校数を誇るマンモス校だ。校内の設備が良かったり、学科の数が多い事も生徒が集まる要因だが何よりも部活動が盛んな事が大きいだろう。運動部文化部に関わらずに全国大会出場などは毎年の様に聞く話で俺達のバスケ部も県大会常連校だ。
学校に着けば教室には向かわずに体育館に向かう。顧問から信頼されている俺は鍵を渡されていて、それを使って体育館の鍵を開ける。用具室からボールを取り出して、ブレザーを脱ぐ。
足を曲げ、全身を滝が逆に流れるイメージで動かしてシュートを打つ。綺麗な放物線を描いたスリーポイントシュートは、ネットを全く揺らさずにゴールに吸い込まれた。
続けて二投目、今度はネットを僅かに揺らしたが一分もリングに触れずにシュートが入った。三投目はバンクシュートになるが、これもまた決まる。四投目はリングに当たり、跳ね返りながらも最後まで残ってリングの内側に落ちた。
俺はこの時間が好きだ。淡々とシュートを打っていれば、仮面を被っている事すら忘れられる。恐らく唯一と言って良いほど、仮面を被っていて楽しいと思える瞬間だった。
それでもそんな静寂は長くは続かない。体育館の扉の方から数人の話し声が聞こえた。ガラガラ、と扉が開く。
「あっ、やっぱり佐々木先輩だ」
入って来たのはバスケ部の後輩、一年生だった。遊びたい年頃だろうにレギュラー奪取のために朝練に進んで参加している、熱心な後輩たちだ。
「おはよう」
「「「おはようございます」」」
挨拶をすれば元気な声で返ってくる。
その大きな声が少し頭に響いたが、笑顔で「元気良いな」と褒めた。
「先輩、1on1して下さいよ! 今日こそ勝って見せますから!」
「はー?」
と、ぐしゃっと後輩――――安住の髪をぐしゃっと撫でた。
「生意気言ってるんじゃねえよ!」
「ちょ、先輩ぃ!?」
「俺に勝つ前にレギュラー奪いやがれ!」
「う、奪ってみせますよ!」
安住は最後にいずれ先輩から、と付け加えた。
こんにゃろっ、と俺はさらに脇を擽ってやると、安住はぎゃあああっと汚い悲鳴を上げた。そのやり取りを安住と一緒に来た後輩がゲラゲラ笑いながら見ている。
安住もそうだが、後輩たちはこうして俺の事を慕ってくれている。それがたまらなく嬉しいが、安住たちが慕っているのは仮面を被った俺だという事を忘れないで胸にとどめておく。
「まあ、1on1もいいけど、人数いるし2on2でもやるか」
「うす! そんじゃあぐっちーやりましょ!」
「よーし、じゃあ行くぞー、ぐっちーぐっちー……」
少人数でチーム分けをするには最適な、グーとチョキで人数が綺麗に分かれて同じ形を作った相手とチームなる形式でチームを組む。
結局は俺と安住が別チームとなって対戦をした。結果は俺のチームの勝利で、安住を徹底的にボコってやったが、嬉しそうな悔しそうな表情で「次は負けません!」と生意気な言うものだから、俺は「上等だ、次はトリプルスコア出してやる」と煽り返してやった。
まだ始業まで時間はあったが日直の仕事があるので、早めに朝練を切り上げて教室に上がった。あと三十分ほどで始業だが、まだ教室には誰もいなかった。
黒板を綺麗に清掃したり、机を並べ直したり、日誌を書いているとクラスメイト達が続々と登校して来た。さっきまで誰もいなかった静かな教室が一気に騒がしくなる。
「おっはよー!」
そんな中で一際元気な声を出す明るい茶髪の女子、大山が登校して来た。黒髪ショートヘアが特徴的な工藤も後ろから教室に入って来た。
「おはよう、大山」
「あれ、佐々木君は日直?」
「ああ。工藤さんもおはよう」
「おはよう、佐々木くん」
「あれ、何でくーちゃんだけさん付けなの?」
「いや、だって、大山ってさん付けで呼ぶ感じじゃないし」
「うーん、これって褒められているのかな?」
「褒めているよ」
「大丈夫、褒められてないから」
「うええっ、どっちー!?」
大山は頭を抱えて叫び、その様子を見て工藤はくすくすと笑った。この二人の性格は正反対なのに気が合うらしくとても仲が良かった。二人は否定するけど、俺から見ても二人が親友なのは間違いなかった。
「あっ、そう言えばさ、この前話していたケーキ屋さんに昨日行ってきたんだ~」
「これ写真ね」
そう言って、二人は一緒に行ってきたであろう、ケーキ屋さんの写真を見せて来た。ツーショットの写真もあるしやっぱり仲良いじゃないか、と思いながら口には出さずにスマホの画面に映った彩り豊かなケーキやマカロンを見た。
「へえ。凄いな、結構並んだんじゃなか?」
「うん。ざっと一時間くらいかな」
「長っ」
「けど待った甲斐があって凄く美味しかったよ」
「あれなら二時間待ってもいいぐらい」
「へえ。そこまで言うなんて、凄いな」
大のケーキ好きのこの二人がそこまで言うなら、次の春香とのデートで行ってもいいかもしれない。
二人に頼んで美味しかったケーキを教えてもらっていると、机に影が差した。見上げてみると、そこには凄まじく整った顔をした女子がこちらを見下げていた。
「おはよう、涼介」
「おはよう、春香」
俺の彼女の明園春香だ。すらっと伸びた脚、ブレザーを着ていてもわかる腰の細さ、どの部位もバランスが取れた美形の顔。誰も文句無しの学校一の美女だ。
「有薗さんおはよ」
「おはよう。二人とも、ちょっと彼を返して貰ってもいい?」
どこか牽制している様にも思える鋭い口調で春香がそう言うと、大山と工藤は苦笑しながらごゆっくり~と言いつつ去って行った。
「見て見て、昨日撮ったんだ~」
さっきまでの刺々しい雰囲気から打って変わって春香が見せたのは、どこかのスタジオで撮ったと思われる自分の写真だった。誰がどう見ても加工が入っているがそれは口に出さず、「凄く綺麗だね」と褒める。
「でしょー、インスタに上げたらバズったんだから」
画面を切り替えて目に入ったのはフォロワー数百万人を超える、春香の自慢のアカウントだった。そこに先ほどの写真を投稿したらしくいいねの数は五百万を超え、コメントも高評価の嵐だった。
春香はモデルとしても働いているが、インスタグラマーとしては世界的に有名だ。自分だけの写真じゃなくて風景を綺麗に映えさせるのが得意で、写真家からの評価も高い。前に高名な写真家からウチに来ないか、とお誘いを受けたらしいが断ったみたいだ。
何でも春香は本気でモデル業とインスタグラマーとして将来はやって行きたいみたいだ。写真家を目指す人にとっては血涙物のお誘いだと思うが、春香の心には響かなかったらしい。
「それでね!今度のデートでさ、ディズニー行かない?」
「えっ、ディズニー?」
「うん。最近、そこでダンスを上げるのがバズっててさ」
確かにインスタを開いてリールを見ていると流れて来る事があった。社会問題になっている、短い動画を上げるアプリで主に女子高生がディズニーで踊ったダンスを上げていたりする。そのどれもがディズニーの鼠のカチューシャなどを付けて、可愛らしく踊る姿に高評価が沢山付いていた。
正直容姿とjkというブランドでバズっているだけで、バズりたい目的だけならどこで踊って動画を上げても一緒だと思うが、ディズニーで撮った方が背景が可愛かったりするのは確かだ。
「まあ、いいけど」
「じゃあ決まりね! 来週いこー!」
春香が自分の意見だけで決めた突然の決定だったが、いつもの事だ。「楽しみだなー、どのくらいバズるかなー」と春香が楽しみにしているので、それでいい。春香の意見に合わせていればそれで良いんだ。
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