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少しして猫の気分が変わった様で、どこかに行ってしまった。猫が寛いでいるのを遠くからぽけーっと眺めながら森下を待っていたが、どう考えても帰りが遅い。もう三十分ほど経っているし心配だ。
静かな店内だし、何かトラブルがあればすぐにわかると思うが、さっきの一件でまだ恥ずかしくて戻って来られないっていう可能性もある。
少し悩んだ末に、森下を探しに行く事にした。
猫じゃらしを貰いに行ったのだから、恐らくカウンターに向かうまでの通り道にいるはずなんだが。
「ふわぁああっ! あっ、こら、駄目だよ。こっちが君のね? もう、あんまり焦らないで。ほーら、猫じゃらしだよ~? 遊ぶからもふもふさせてね~」
……いた。
「何してるんだ?」
「あっ、佐々木」
そこにいたのは、座って遊べるマットエリアで十匹を超える猫に囲まれていた森下だった。片手には猫じゃらしが握られ、もう片手には猫用のおやつが握られていた。
「猫じゃらしを借りたら、おやつもあったから買ったんだ。早く帰ろうと思ったんだけど、可愛い猫さんがいて、それで……」
ちょっとだけ遊んで帰ろうかと思ったが、餌に釣られた猫があれよあれよと集まって来て現在にいたる、と。まあ、楽しそうだからいいか。
「良かったな」
「うんっ! えへへ」
天使か。
「ほらほら、佐々木も触り放題だよ?」
「……じゃあ、遠慮なく」
森下が乱暴とは行かなくても少し無造作に手を出しても触らせてもらっていたので、どうやら猫達は気分が良いらしい。
案の定、近くで寝転がっていた猫に手を出すと撫でさせて貰えた。それどころか俺の膝の上に乗って、もっと撫でろと頭を擦り付けて来た。
それがまた可愛くて撫でていると、他の猫からも要求された。
俺も森下も猫がこうして寄って来てくれるのが嬉しくなり夢中になって撫でていると、あっという間に二時過ぎになっていた。
流石にお腹が空く時間帯なので、カフェのカウンター席でホットケーキと紅茶を注文した。森下は飲める様だが、俺は珈琲みたいに苦いものが苦手なんだ。
「こっちの方に猫は来られない様になっているんだな」
どうやらこの猫カフェはエリアが二つに分けられているみたいだった。猫と触れ合う事ができるエリアと、飲食や作業をメインとしたカフェのエリアだ。勿論猫がいるエリアでも飲食は出来るし、作業も可能だ。だが猫が隣にいれば作業の邪魔になる可能性もあるし、そもそも猫好きなら絶対に集中できないと断言できる。
そのためこちらで作業をして、疲れてきたら猫がいるエリアで癒しを求めに行くという利用法をしている人がかなりいるみたいだ。
「これなら私達も、普段の勉強に来てもいいかもね」
「だな。勉強して猫と遊ぶ時の割合が八対二くらいになりそうだけど」
「甘いね。私は十対零だよ」
「勉強しないんかい」
「猫と触れ合う方がね」
「いやそこは猫を選べよ」
真面目か、と突っ込むと森下は可笑しそうにけらけらと笑った。釣られて俺も笑い、それからはホットケーキが来るまでどの猫が可愛かったか、あの猫がこんな仕草をした、などの猫の話題で盛り上がっていた。
するとあっという間に時間が過ぎ、店員さんが注文した料理を運んできてくれた。
「こちら、ランチセットのホットケーキが二点と、紅茶と珈琲になります」
「「ありがとうございます」」
ホットケーキが乗せられた木製のトレイを前に並べられた。二枚のホットケーキが並べられ、その上にはチョコレートで猫のイラストが描かれていた。
「あれ、この子って確か、アメリカンショートヘアの……」
「お気づきになられましたか?」
はい、と頷く森下。
何があったのか分からない俺。
「先ほど、お客様があの子の事を一番に可愛がっていたのを見たので、サービスで描いてみました」
確かに森下は特定のアメリカンショートヘアの子を可愛がっていた気がする。しかし言われてみれば程度の違いで、俺には気付けなかった。
「ふわあああっ、可愛い! ありがとうございます!」
森下はかなりお気に召した様で、スマホで撮影ボタンを連打していた。
俺の方にはぶさかわとして有名なエキゾチックショートヘアの似顔絵が描かれていた。そういえば、さっき同じような顔をした猫と遊んでいた事を思い出した。
他のお客さんのホットケーキにも絵が描かれていて、どうやらこの店では猫のイラストを描くのがサービスになっているみたいだ。
「あう……、どうしよう、佐々木」
「どうした?」
「可愛くて食べれないよ」
いや、何だよその子供みたいな理由。可愛いのはお前だろ。
「わかる。けど、食べないのがこの絵に失礼だよな」
「……うん、そうだよね。描いてくれた店員さんにも申し訳ないし」
森下は覚悟を決めて、ホットケーキを切って口に入れる。俺も追随して頬張るとあまりの美味しさに「うまっ」と声を上げてしまった。
弾力があるもっちりとした食感で、咀嚼し続けると中からハチミツの香りが溢れ出た。どうやら生地にハチミツを混ぜていた様で、単純なホットケーキという料理にも関わらずとても味わいが深いものに様変わりしていた。
「凄い、ただのホットケーキ……だよね?」
森下もその美味しさに面を喰らっていた。
猫カフェだと、どうしても猫がメインでその他の料理には力を入れていない。という勝手な偏見があったがその考えも改めねばならない。
それほどまでにこのホットケーキは美味だった。
それから俺達は食事を終えた後、四時過ぎまで猫と戯れた。今度こそちゃんと猫用のおもちゃを借りて、二人で猫をおびき寄せ……ごほん、お誘いして遊んで頂いた。猫様に感謝。
「フリータイム料金、二千五百円になります」
「「ありがとうございました」」
「またのお越しを従業員一同お待ちしてます」
料金の支払いを済ませて、店を後にした。
後に猫カフェにて最初に佐々木と森下の接客を担当し、その後も二人の動向を注視していた店員は同僚にこう語ったと言う。
お前らはよ付き合えよ。……と。
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