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その仮面  作者: kondouhazime
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 最後は主人公的な立ち位置のキャラが婚約者とキスをした後に息絶えるという感動的なシーンが終わり、キャストの名前が並んだエンディング曲が流れた。全てを内包するかのような感動的な音楽だが、油断してはいけない。


 五分間にも渡るエンディングが終わると、再び場面は映りかわった。


 薄暗い破壊され尽くした宇宙船にいるのは、怪力無双のボブに叩き潰されて絶命したと思われていた、敵の科学者フレックだ。強力な副作用がある不死の薬を服用して蘇り、ボブとその仲間たちに復讐を誓ったところで今度こそ幕を迎えた。


 キャストの名前が並んだエピローグが流れ、同時に会場の明かりが点灯した。


 続編を思わせるラストに喧噪が増し、まだ会場の中にいるというのに皆が映画の感想で語り合う程だ。


「すごかったね、ラスト」

「うん……、まさか伏線がこんな場所で回収されるなんて……」

「えっ、伏線? あんな伏線なんてあったっけ?」

「あったよ。ほら、一作目の……」


 まあ俺も森下も例外は無く、退場する準備をしながら感想を語り合うのだった。


 面白かったね、また見に来ようね。なんて恥ずかしい事はまだ言えないけれど、それでもこうして感想を言い合えるのは、きっとお互いに楽しかったからだと。勝手にそう思っていた。


 時計を確認すると次の予定の猫カフェの予約にはちょうど良い時刻だ。昼食も猫カフェで軽いものを食べられるし、無問題だろう。


 映画館から徒歩で十五分ほどする涼しい風が通る場所に猫カフェはあった。外見はクリーム色に彩られた材木で建てられていて、植えられた観葉植物も相まって柔らかい雰囲気があった。 


「うう……、緊張が……」

「大丈夫だって」


 今更怖気づいている森下に苦笑しながら、俺はその華奢な手を引いて店内に入った。


「わっ、ちょっ……!」と謎の言語を言っていたが、どうせラインの時みたいに行かない言い訳を言うつもりなのだろう。無視して入り、カウンターで受付を済ませてしまう。


 どうやらこの猫カフェでは三時間以上滞在するとなると一日フリーパスを購入した方が安いらしいが、流石に三時間もいるつもりは無いので二時間分の料金にした。後から延長も出来るようだし、足りなかったらその時すればいいだろう。


「それでは……、カップル料金でよろしかったですか?」

「えっ? い、いや、俺達は……」


 ちょっと待て、この店員さんはどこを見ているんだ?

 その視線は俺と森下のちょうど間、その少し下の……。


「ッ!?」


 ――――俺の手と、森下の手ががっしりと繋がれていた。


 見て見れば森下は顔も耳も真っ赤な朱色に染まっていて、確実に嫌がっている事が分かる。


 慌てて繋がれていた手を離せば、一瞬だけ森下が名残惜しそうな表情をした様に見えた。


「い、いえ、普通料金でお願いします!」


 無言でこくりこくり、と朱色に染まる耳が揺れるほど同調して頷く森下。


 何を勘違いしたのか。あらあら、とにやける店員さん。


 しかし反論していても恥ずかしい思いをするだけだと分かっていたので、俺と森下は若干駆け足で猫がいる店の中まで入るのだった。


 自分の軽率な行動に腹が立つ。どうしたって俺は森下の、女の子の手を勝手に握るなんて最低な行為をしてしまったんだ。森下も嫌がっているに決まっている。すぐに謝らねばいけない。


「森下、ごめ……」

「ふわぁあああ!」

「も、森下?」


 ところが、森下の意識は俺など蚊帳の外、完全に猫に向けられていた。俺もそちらを見れば、上にも下にもたくさんの猫が自由気ままに過ごしていた。はっきり言って反則級に可愛い。


 種類で言えばアメリカンショートヘア、スコティッシュフォールド、マンチカンなどなど。ホームページによればニ十種類以上の猫、頭数で言えば五十匹近い猫がこの猫カフェにはいるらしい。


 ひとまず俺は開いているソファに腰を下ろしたが、森下はどうしても猫に触れ合いたいらしく、近くで毛繕いをしていた猫に手を伸ばした。


「にゃう」

「あっ」


 しかし、手が近付くのを察知すると猫は俊敏な動きで逃げてしまった。


「あぅ」

「はは。猫は気まぐれだから、酔って来てくれるのを待つしか無いよ」


 猫に逃げられて悲しそうにする森下を、思わず笑ってしまった。


 他のお客さんも猫に自分から近付いているわけじゃなくて、近寄ってくれるのを待っていると猫の方から来てくれているみたいだ。嫌がっている猫を下手に追い掛けるより、遊んでしんぜようと寛大な御心で来てくれた猫と触れ合った方が良いに決まっている。


 どうやら森下もそう判断したらしく、俺の隣に座った。あまり大きなソファじゃないせいで、互いの肩と肩が当たってしまう距離感だった。


「にゃあ」

「あっ、来た」


 少し位置をずれようかと思ったが、俺の膝の上に猫が飛び乗って来てしまったのでそれも叶わなくなってしまった。


「にゃ~?」


 俺の膝の上でごろんと転がった猫の愛くるしさと、自分にも構って欲しいと願う森下が猫の鳴き真似をする底無しの可愛さに身を震わせながら悶えた。 


「にゃあ?」

「にゃっ、にゃあ~」

「にゃー」

「にゃー!」


 こんなもの、どう耐えろと言うのだろうか。


 手を出せない分、中世の拷問よりも余程残酷だ。


 森下は猫語で会話が成立?したのが嬉しいのか、どんどんと猫に身を寄せて行った。それはつまりの俺自身に近付くという意味で、さらなる我慢を強いられる事になった。


 それだけで終わったのなら良かったが、森下のすらりと背中まで伸びていた髪が落ちて、無防備なうなじが露わとなった。


 その瞬間、俺の理性は崩壊する音が聞こえた。


 森下の両肩を掴み、ぐっと引き離す。


 状況を把握できていない森下は唖然としていたが、俺の顔が熱を帯びている事に気付いて不思議そうにしていた。


「あの、ちょっと近かったから……」

「へ? あっ、ぁぁ……!!」


 自分の座っている場所と、猫の位置、そして今自分がしようとしていた事を冷静に思い出した森下は、段々と赤面して行った。


 自分が俺の――――男の下腹部に顔を近付けていたという事もあるが、猫の鳴き真似をして霰の無い姿を見せてしまった事にようやく気付いたらしい。


「ぁぁ、あっ、あの、猫じゃらしとか借りれるみたいだから貰ってくるね!」


 森下は良く見える位置に張っていた手書きのポスターを指指して、物凄い速度の早歩きでカウンターの方に行ってしまった。こればっかりはどうする事も無く、ちょうど俺も熱を冷ましたいと思っていたのちょうどよかった。


「にゃあ?」

「いや、お前のせいじゃないよ」


 もしかして私のせい?とでも言いたげに猫が首を傾げたので、頭を撫でてフォローすると再び「にゃ(撫でろ)」と寝転がったので「仰せの通りに」と言われるがままに撫でるのだった。




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