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夏休み前の最後のバスケ部で、練習終わりにミーティングが開かれていた。部員が監督の周りを囲むように集まっている。
神妙な顔で手帳を開いている監督が、皆を見渡してついに重たい口を開いた。
「少し早いが次の大会のスタメンを発表する」
監督の言葉に部員が騒めいた。
この発表は異例の速さだと言っても良い。
それだけ今回の大会には本気なんだと、部員は感じ取る。
「ポイントガード、鈴木。シューティングガード、佐々木。センター、江越」
「「「はい!」」」
まずは順当に俺達が内定した。
しかし、次のフォワードが激戦区なのだ。
ポジションにいる部員が全体的にレベルが一定であり、最近では一年生も頭角を現しているため二年も油断は出来ない。果たして誰が内定するのか、俺達も静まって成り行きを見守った。
「まず一人目のフォワード、武田!」
「はい!」
選ばれたのは二年の武田だ。武田は得点に貪欲なタイプでは無いが、シュートの決定率が高い。ディフェンスを振り切れるほどのスピードもあって、今の「走れるチーム」という監督の思想にも合っている選手だろう。
さて。残り、一人。誰が選ばれるのか、有力候補の二年は固唾を呑んで監督の言葉を待っていた。一方でどこか自分達が選ばれるわけがないと他人事な一年生は、どこか気楽な雰囲気だ。
そんな空気を切り裂く様に、監督が言う。
「安住」
「えっ、あっ、はい! すみません!」
「最後の一人はお前だ」
「は、はい! …………えっ?」
大方、気を抜いていた事を怒られるとでも思っていたのだろう。その場に立ち上がって謝るが、冷静に監督の言葉を呑み込んで、ようやく自分がスタメンに選ばれたという状況が理解できたようだ。
「俺が、スタメン…………?」
いまだに信じられないといった表情で安住は呆然としている。その指先はどこか震えていて、視線を僅かに悔しそうに顔を歪ませる前回大会のスタメンだった二年の影野に向けた。
「安住はまだ一年で、所々に脆い部分もあるが、それでもその成長速度は群を抜いている。朝練にも毎日の様に通い、鈴木からも聞いたが外周で最後まで走り切るのは一年では安住だけだと聞いた。色々な意見はあると思うがこれは俺が考えた最善のオーダーだ」
監督の言葉の節々には重みがあり、このスタメンを決めるのにかなり悩んだのだと理解出来た。
それから監督は影野に視線を向け「このオーダーに不満はあるか?」と聞けば、影野は震える声で「……ありません」と肯定の言葉を言った。
「毎朝精力的に練習して、シュート決定率も高い。悔しいけど俺よりも安住の方がスタメンに相応しいです」
振り絞る様に告げる影野の手は、皺が出来る程練習着の裾を握っていた。
「でも、絶対に俺がスタメンを奪ってやります!」
そして告げられる力強い決意の言葉に監督は満足そうに頷いた。
「よく言ったぞ、影野。安住もよく聞いておけよ、一度スタメンに選ばれたからと油断するな。少しでも影野や他の選手の方が良いと思ったら、スタメンを替えるからな」
「っ、はい!」
安住の心中に渦巻いていたであろう、遠慮の陰りを振り払って、大きく声を上げた。
ミーティングは終わったが、帰ろうとする生徒は誰もいなかった。
監督が早めにスタメンを発表したのは、それぞれ準備を怠るなよ、という無言のメッセージだろう。大まかな作戦は監督が決めるが、主に試合はポイントガードの鈴木が組み立てる。大会で戦うチームはどこも強い相手が多く、決勝まで行けばかならず強豪と当たる事になる。そこで無策で挑めば簡単に負けてしまうし、何よりもチーム全体の意志が統一されることが勝利への最短ルートだ。
「スタメンは集まってくれ。軽くサインを合わせて置こうぜ」
この時間内でどれだけ連携を高められるかがカギになる。
鈴木の集まりにスタメンは集まり、サインの確認と一緒に大まかなパス練習を行った。
勿論、ベンチだからと言っても気は抜けない。いつ交代になるか分からんし、今からでもスタメンを奪取出来るように技を磨くのは必然だ。
こうして大会に向けて部内の熱が高まる中、その前に俺は大きなイベントを迎えようとしていた。
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