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その仮面  作者: kondouhazime
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 自分を偽っていた仮面を外してから過ごす日々は平穏そのものだった。


 バイト先では仲間たちの協力によってシフトを減らし、新しいバイトの子が入って何とか穴を塞ぐ事が出来た。職場での雰囲気も良く、皆が皆でカバーし合っている感じだ。


 店長も満足げだし、何より前よりもトラブルが減って忙しなくなる事が減った。これはバイト仲間でお互いに注意し合って、カバーをする様になったのが要因だろう。前までだったら自分の事で精一杯だったが、疲労で鬱病になった従業員が同僚にいたという事実がお互いの様子を気に掛ける事に繋がったのだ。


 この居酒屋のチームワークはそこいらのチェーン店など目じゃないほどに太く繋がっていた。



 バスケ部ではチーム全体での戦術が見直された。今までは俺のワンマンチームだったが、休んでいる間の練習試合でそれでは駄目だと監督が深く実感したのが始まりだ。


 とにかくまずはチーム全体での練度を高めるためにツーメン、スリーメンを増やし、全体的にランメニューを組み込んだ。これによって走れるチームとなった俺達は、俺以外の速攻での決定率が格段に上がったと言える。


 さらにボールを持っていない時にする「オフザボール」の動きにも注視する様になった。普段のボール保持率が高いのはポイントガードの鈴木の次には、エースであり得点源と言える俺が最も多い。

 

 その他の三人、例えばセンターの江越や、フォワードの武田などの動きが重要になってくる。分かりやすい例で言えばスクリーンアウト、ボールを持っている味方選手から相手のディフェンスを引き剥がすために壁となる技だ。


 このスクリーンアウトがうまく成功すれば俺はフリーになり、ディフェンスが付いてない状態でスリーが撃てる。別にディフェンスが付いていても決める自信はあるが、確実に決めるにはこの作戦が一番なのだ。


 その他にも俺が普段からやっている、相手を引き付けるために囮になる動きもある。俺のはクレイ・トンプソンの動きを参考にしているが、パスを出した後にとにかく走って、なんならコートの端まで走り抜けて何とかディフェンスを外し、フリーになった僅かな瞬間にシュートを打つ。


 ただそこに突っ立っているだけでボールが貰えるわけがないし、シュートだって簡単にブロックされてしまう。つまり、オフザボールはシュートを確実に決めるためにする動きなのだ。


 今はまだ未熟だが、このオフザボールの動きがチーム全体に馴染めば必ず全国でも通用できる攻撃力になると俺は思っている。


 本当に楽しみなチームになった。全国出場を目指して、俺達はまだまだ駆け抜けるだろう。




 今日、俺は森下と一緒に日直だった。放課後に俺達以外の誰もがいなくなった教室で、黒板を消したり日誌を書いたりと、少し話しながら日直の仕事をする。


「こうして話すのはあの時ぶりだね」

「普段は関わりないからな、俺達」


 俺はあまり自分から話しかけるタイプでは無く、いつも誰かが話替えてくれるのを待っている。


 その事をクラスメイトも分かっている様でよく話しかけてくれるのだが、森下もまた自分から話しかけるタイプでは無いだろう。


 当然と言えば当然だが二人が教室で関わる事も無く、部活がある俺は一緒に帰れる事が無いので今日が久しぶりになるのも必然だろう。


「……聞いたよ。残念だったね」

「……うん」


 一週間前、俺は春香に振られ別れる事になった。理由は俺の漫画やラノベが好きというオタク趣味を春香は受け入れられなかったからだ。


 ブックカフェとか春香に納得してもらえる様に色々と工夫したんだが、やはりだめだった。別れ話の去り際には「オタクとか気持ち悪い」「アニメなんか見てる人と付き合ってられない」と酷い言われようだった。あそこまできっぱりしていると、逆に清々しい気持ちだ。


「まあ、休んでいる間に一度も春香からメッセージが来なかった時点で察していたけどな」


 休んでからすぐ後にはSNSには二人で行く予定だったディズニーに一人で行って、ダンスを踊っている姿も上がっていた。


 彼氏が鬱病で倒れているにも関わらず、見舞いに来いとは言わないがせめてラインで心配のメッセージでも送ってくれても良かったんじゃないだろうか。


 春香が元々俺に興味が無かったのか、俺なんかに時間を使いたくなかったのかは分からないが、仮にも恋人同士の関係にはとても思えない。


 ビジネスカップルみたいな、そんなお互いの想いの薄さだ。


「あの時、森下が言い淀んでいたのって春香の事だったんだろ」


 俺が休んですぐの頃、森下がノートを届けに来てくれた事があった。


 あの時に俺が春香だと思った、と言うと森下は分かりやすく目を泳がせていた。


 何か裏があると思ったが、今になると納得できる。森下はこうなる事の前兆を春香から感じていて、別れ話の件もきっとあの時から始まっていたのだろう。


「まあ、今さら隠してもしょうがないけど、私見ちゃってさ。駅前で年上の男と腕組んで歩いているところ……」


 やっぱりな、という感想しか出てこなかった。


 がっかりはしている。だが春香は……、何というか、かなりませている。デートの待ち時間や移動時間に春香から年上が好みだとか、好きな俳優の事も話されたが、そのどれもが俺とは似ても似つかない渋い男ばかりだった。


 loveとlikeは違うと言うが、あの惚気具合はloveの方だろう。


「……あんまりガッカリしてないんだね」

「まあ、な。自分でも不思議なくらいだ」


 春香と付き合ったきっかけは、周囲から「二人ってお似合いなんじゃない?」「付き合っちゃいなよ」と押され、最後に春香からの「じゃあ付き合ってみる?」という一言がトドメになって付き合い始めた。まあ、こうなったのも流れに身を任せた結果だ。


 あまり良い馴れ初めとは言えないが、それでも俺は春香のいいところだってを沢山見つけられたと思う。まずディズニーや遊園地などに行けば、子供に優しいという一面を見つける事が出来た。例えば迷子になって大きな泣き声を上げている子供がいれば、見て見ぬふりをする大人が多い中で率先して「大丈夫?」と声を掛けていた。


 このご時世、誘拐だとか難癖を付ける親がいる中で勇気がいる行動だったと思う。迷子の子供に向けた笑顔は宝石の様に輝いていて、あれが最初に春香に胸が高鳴った出来事だった。


 俺には到底真似できない行動だったし、憧れていると言っても良い。


 だから俺には一方的に振って来た春香を恨むとか、そういう気持ちは全く無くて。


 難しいけど、あれだ。俺はきっと子供に優しくて、モデルとインスタグラマーを目指すかっこいい春香を応援しているんだと思う。


「ふふっ、そっか」


 その事を伝えると、森下は嬉しそうな、それとも可笑しそうに微笑んだ。


「あっ、それじゃあ佐々木のライン教えてよ」

「いいけど、突然だな」

「今までは彼女いたから聞けなかったから」


 それからぼそっと言った呟きを、俺は聞く事が出来なかった。


 仮面を外す前と全部が全部、元通りとは言えない。


 元通りなんてそんな事はあり得なくて、変革は沢山ある。


 それで離れていく人もいるが、一緒にいてくれる人もいる。


 確実に前には進んでいると、俺は確かに感じていた。


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