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狂い昔話

【狂い昔話】うるしゃい! オイラは王子やぞ!

作者: 七宝

 むかしむかしあるところに、オイラが眠っていたそうな。目を覚ますとそこには、知らない天井があった。その紫色の天井からは、無数の針と鏡餅が生えており、その針1本1本に輪切りのレンコンが刺さっていた。


 そうか、ここは病院なんだな。ということはオイラはあの時負けたんだな。今日は何月何日だ⋯⋯えっ、9月99日!?


 3日も眠っていたってのか⋯⋯

 オイラは3日前、極悪マフィア『シマウマのベロよりキモイものはない。いや、よく考えたらあったわ、あの、目ん玉みたいな人いるじゃん⋯⋯あ、そんなやついねぇか! はっはっは!』のボス『ヤンチャボーイ』と決闘をしたんだ。


 タイマンという約束だったが、ヤンチャボーイは部下を50人も連れてきやがった。対するオイラ達の軍は6000人。


 しかし、決闘の内容はオセロの勝負だったので、余った6049人には帰ってもらった。これが悲劇の始まりだったんだ。


 ヤンチャボーイはとてつもなく強かった。オイラは黒が好きなのだが、ヤツも黒がいいと言うのでジャンケンしたところ負けてしまい、オイラは白を使うはめになったんだ。この時点でオイラの心はズタズタだ。勝てるはずがない。だって、白なんだぞ。


 それからもヤンチャボーイのヤンチャは止まらなかった。先攻は黒だと言い出したのだ。そんなルール知らないぞ! とオイラは怒ったが、ヤンチャボーイが公式ルールだと言って聞かなくてちょっと怖かったので、オイラはそれに従った。


 ヤツは1手目から恐竜を出してきた。飼い恐竜にオイラの頭を噛ませたんだ。やっぱりマフィアってのはルールを守らねぇんだな。オセロのルールに恐竜の使用なんてないぞ!


 1手目にして首から上を失くしたオイラは、死神で応戦することにした。恐竜とヤンチャボーイを冥界に連れ去ってもらい、無事オイラの勝利で幕になった。


「さぁ、続きといこうか」


 ヤンチャボーイ2が現れ、オセロ盤の前に腰を下ろした。オイラは忘れていた。ヤンチャボーイは量産型だったのだ。


 そこからヤンチャボーイ2の猛攻は始まった。ヤツの召喚した泥棒がオイラの左の尻を持ち去り、オイラは600ダメージを受けた。


 数字で見ると大したことないが、オイラはそれ以上に傷ついていた。尻は両方あってこその尻なのだ。片方だけでは全てすかしっ屁になってしまう。


 オイラは集まりなどで屁をする時、大きな音を立てるようにしている。コソコソしたやつだと思われたくないから、堂々としてやるんだ。でも、これからはそれが出来ない⋯⋯コソコソしたやつだと一生言われ続けるんだ⋯⋯


 軽い鬱状態になっていたオイラにヤンチャボーイ2は連続攻撃を仕掛けてきた。お前な、ルール知らんのか! 連続2回行動したら初手で詰むわ! 黒が先攻なんだよとか得意げにルール知ってることを自慢してたけど、こんな常識も分からんヤツだったのか!


 ヤツの軍勢50人は、全てヤツのクローンだった。ヤンチャボーイ50まで行ったかどうかすら覚えていないが、ずっと同じ戦いを繰り返した記憶がある。


 そして、どこからか記憶が曖昧になり、今オイラは病院のベッドの上にいる。迫り来る毒天井。早く退院しないと死にますよという合図だろうか。そんなことを言われても、オイラは今首から上がないんだよ。どうしたらいいんだよ。


「オイラさーん、目が覚めましたか〜、点滴のお時間ですよ〜」


 看護師が点滴の袋を持ってこちらにやって来た。


「覚める目もないんですけどね、ひゃっはっは!」


「いや、喋る口もないのに喋ってるから、見えてんのかなと思って」


 確かに、天井も看護師さんも見えてる。心の目と言うやつか? というか、耳が聞こえてるのもおかしくないか? 脳もないのに、どうやって考えて話しているんだ? オイラ分かんねえや、バカだから!


「じゃあ点滴始めますね〜、2時間くらいで終わりますんで、終わったら呼んでくださいね〜、針引っこ抜くから!」


「あいよ!」


 オイラは暇だった。6000人の仲間も誰ひとり見舞いには来やしない。オイラには人望がなかったんだ⋯⋯


「兄ちゃんすげぇな、首から上がないやつなんて初めて見たよ!」


 隣のベッドのジジイが言った。


「オイラも初めて見たよ、病院のベッドの上で焼き鳥焼いてるジジイなんて」


 人の真横で焼き鳥を焼くなんて、完全にオイラを挑発してやがる。炭火の良い匂いだけがしてくる。匂いだけで我慢なんて辛いぜ。


「欲しいのか? ほらよ、ぼんじりだ」


 くれるのか!? ぼんじりといえばオイラが1番好きな肉じゃあにゃいか!


『オイラよ、お前に使命を与える』


 いきなり脳内に男の声がした。脳ないのに。


『医大に入って医者になれ』


「無理だよ! なろう系みたいなもっとチョロい使命をくれよ!」


 オイラには医者なんて無理だ。自分が1番よく分かってる。バカなんだ、オイラ⋯⋯


『じゃあ、ヤンチャボーイを全員自殺に追い込め』


「ラジャ!」


 簡単簡単。オイラにかかればこんなの朝飯前よ。そういえば今って朝なのか昼なのか夜なのか分かんないな。


 オイラは早速旅に出た。ヤンチャボーイ軍を探すために! 当然全裸で徒歩だ。街中を探し回りようやく見つけた。ヤツらは公民館でお茶を飲んでいた。ヤンヤンつけボーをツマミにして茶を飲んでいたんだ。オイラがこんな状態の時に、許せん! さぁ、公民館に突入だ!


 タタタタタタタタタタタタタ!


 後ろから足音が聞こえる。全力疾走という感じの走りだ。オイラは道の端に寄り、ハザードランプをつけて立ち止まった。


「オイラさん! 点滴終わってないでしょ!」


 しまった、忘れてた!


「ごめんちゃい」


「勝手に退院しちゃうから探しましたよ! はいこれ、診断書と請求書です」


 書類をオイラに渡した看護師は瞬間移動で帰っていった。なんでさっき全力疾走してたんだよ。


 オイラはさっと書類に目を通した。林森山オイラ、記憶喪失、頭部欠損、ちんちん爆発、片尻捜索願届出済、眉毛濃すぎ、太りすぎ、毛深すぎ、クサすぎ、痩せすぎ、血圧高すぎ⋯⋯


 林森山って言ったら、この国の王族じゃないか! ということはオイラは王子!?


 自分がすごい人間だと気付いたオイラは、公民館でお茶をしているヤンチャボーイのところに押し入った。


「この前はよくもやってくれたな!」


「なにやつ!」


 武士ヤンチャボーイがこちらを睨みつけた。


「ばぶぅ、あっあっあっあっ」


 赤チャンヤボーイはこちらを見て笑っている。


「お前達に話がある。実はオイラは⋯⋯」


 オイラは自分が林森山家の者であるとヤンチャボーイ達に告げた。ヤンチャボーイは全員その場に土下座し、私に許しを乞うている。


「全員切腹!」


「ははぁ!」


 ヤンチャボーイ達は全員秋刀魚の骨で腹をかっ捌き、(はらわた)をほじくり出して死んでいった。


『よくやった。次の使命は⋯⋯』


「うるしゃい! オイラは王子やぞ!」


『失礼しやした! すいやしぇん、すいやしぇん⋯⋯』


 声の主は謝りながらどこかへ消えていった。


 オイラは清々していた。自分をこんな目に遭わせたヤツらを1人残らず自殺させ、訳の分からない存在をも退けた。オイラは神だ。


 酷い目に遭わされたけど、実は主人公はすごいヤツで、それを振りかざして敵をざまぁさせる。なろう系になってしまったな。オイラ、こんなこと望んでなかった。


 よく考えるとこれって水戸黄門なのでは? 助さん格さんに戦わせるだけであんなに得意げになってるのはちょっと腹立つなぁ。


 ノンノンノン、黄門様も強いで。前に杖で戦ってるところ見たけど、普通に敵倒してたよ。


 へぇー、そうなんだぁ。


 その話題に興味がなくなった人の返事である。自分から話し始めたんだろが。


 じ〜んせい


 しゅらのみち!


 オイラ、修羅道に転生しました!


 頭がなくなってるんだもん、死なない訳ないわな。さてこれからどうするか。


「おいお前! 決闘しろ!」


 スネ夫みたいな声の龍が決闘を申し込んできた。オイラは今からハンバーグを食べるんだ! 邪魔される訳にはいかにゃい!


「ハンバーグ食べるんで、また後でお願いします」


「だめ! 今!」


「俺とも決闘しろ!」


「ボクと夜の決闘しないかい?」


「オセロやろうぜー!」


 修羅の道は、争いが絶えぬところであった。


 とりあえずオイラはボクっ娘と夜の決闘をすることにした。それから毎日、オイラは幸せに決闘を続けましたとさ、めでたしめでたし。

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