プロローグ
「この世には、人間界と魔法界という二つの世界が存在していました」
「しかし、人間界に住む者たちは、魔法界の存在を知りません」
「ではなぜ、二つの世界の存在が証明されているのでしょうか」
「答えは簡単です」
「ごく稀に生まれる特別な力を持った少女が、魔女及び魔法界の存在を記した本を書き、それが人間界に知れ渡ったからです」
「しかし、特別な力を持つ者以外は魔女の姿はおろか、魔法界の存在すら捉えることができずにいたので、少女の言葉に耳を傾ける人々は居なくなってしまったのです」
「それからと言うもの、特別な力を持つ人間は生まれなくなってしまい、魔女や魔法界がどうなったのか、本当に存在していたのか、真実は何一つ謎のまま、時だけが過ぎていきました」
「少女が綴った、たった一冊の本を残して」
「───しかし、ここである誤算が起きました。消滅したとされた特別な力を持った少女が一人、この世に身を落としたのです」
「これから彼女は、どんな人生を歩むのでしょうね、とても楽しみです」
「───何故私がそんなこと知っているのかですか? そうですよね、そうなりますよね。しかし、その答えも簡単です」
《それはね────》
三日月のような形をした白いものが浮かび上がり、ゆらりと消える。
次に、二つの灰色の鈍い光がキラリと輝く。
そして、消えた。
沈む、沈む。
どこまでも深く。
どこまでも暗い。
視覚も聴覚も、全ての感覚が奪われる感覚。
───独り、考える。
「おいで、愛しい子」
最後に伸ばした手を取ってくれたのは、一体いつのことだっただろう。
あの子が、最後に無邪気な笑顔を向けてくれたのは、いつのことだっただろう。
思考を停止させたのは、いつだっただろうか。