子爵令嬢
数時間後の謁見の間。
アロンへの沙汰が下った後、各々休憩を挟み昼食を取り、謁見の間に戻って来ていた。
この件でのもう1人の主役であるエルガー子爵令嬢を待つために。
騎士に案内され、エルガー子爵と令嬢のリリアが入ってきた。
エルガー子爵は青い顔をして、頻りに汗を拭いている。
リリア嬢はなぜ自分がここに呼ばれたのか、まだ分かっていないのか、不思議そうにしている。
「ヨハン・エルガー子爵並びにリリア・エルガー子爵令嬢 この度の呼び出し詳細は理解できておるか?
申し開きがあるなら、申してみよ」
陛下からの言葉を聞き、エルガー子爵は娘を捕まえ頭を押さえつけて、自らも土下座をしながら、答える
「国王陛下、この度は娘リリアの不始末誠に申し訳ありません!」
「エルガー子爵そなたはどこまで娘の事を承知していた?」
「わ、私は…
申し訳ありません、ア、アロン殿下とお付き合いがあるなど考えたこともなく」
「しかも殿下の婚約者である、ボルドー公爵令嬢に対して失礼な振る舞いをするなど思いもよらず…
昨日王宮からの使者の方の話を聞き腰を抜かすほど驚いた次第です」
「昨日のパーティーから戻ったリリアに問い詰めたところ、公爵令嬢に こ、婚約破棄を突きつけてきたなどと… 悪びれもせず言うものですから、私も混乱を極めまして…
ですが、いくら怒っても、説明しても、このバカ娘は自分は殿下の手助けをしただけで悪くないと開き直るばかりてして」
「お、お父様痛いです 放して下さい」
リリアが身動ぎする。
エルガー子爵は頭から首根っこに手を移して、反対の手で肩も掴み
「陛下の前だ、静かにしろ!」
と小声で嗜める。
「エルガー、放してやれ。
リリア子爵令嬢、昨夜息子アロンと共にボルドー公爵令嬢に婚約破棄を突き付けて貶める様な振る舞いをした事、間違いないか?」
「アロン殿下はいつも婚約者に蔑ろにされ、自分を敬わず自分の行いに文句ばかり言うロザリア様に苦しめられてきたのです。
だから、殿下が婚約破棄すると言えば、きっと慌てて改心しますよって提案してあげただけですよ?」
何が悪いのかとでも言いたげな顔でいる彼女を皆呆れて見てしまう。
「仮にもアロンはこの国の王子だったのだぞ?
大勢の前でこんな騒ぎを起こすなど、あり得ない事だ。
そもそも、そなたは子爵令嬢、公爵令嬢であるロザリア嬢に対して無礼すぎるだろ」
陛下は貴族の爵位間の上下関係と礼儀の話を問いただすが
「でも~、学園の皆はロザリア様の味方ばかりするんですよ。殿下は悪くないのにかわいそうじゃないですか~
だからパーティーでみんなの前でロザリア様が破棄されれば、どっちが悪いかわかりますよね?」
「それに王子様の言うことは皆聞くものでしょ?
王子様だから少しくらい大目にみてもらえますよね?
それに私を選んでくれたのはアロン様ですから、一緒にいれば私のがロザリア様より上でしょ?
なのにロザリア様ったらアロン様にエスコートされている私を無視したんですよ」
「「は?」」「へ?」「「「え?」」」
皆がポカンとしてしまった。
普通は国の王子は、皆の手本になるように、人一倍勉強も剣術もマナーも躾られる。
なのに、リリアは王子だから普通よりわがままを言っても、許されるだろうと言っていた。
それに、その王子といる自分も同じ特権がもらえるだろうと。
自分はそれに乗っかっただけだと。
「面白い事を言う、あまりに自分本位な考えに、頭痛がしてきた…」
陛下はこめかみを揉む。
「子爵家では、この国の貴族としての考えを教えずに、このような自由奔放な考えを推奨しておるのか?」
「そ、そんな馬鹿げた事はしておりません!
こやつがおかしくなっただけです」
顔を真っ赤にしながら、怒鳴る子爵をみても、キョトンとしているリリア。
「ではリリア嬢、あくまでも自分には非がないと申すのだな?」
「私、何か悪いことしましたか?
いつも意地悪してきたのは、ロザリア様ですよ。」
「アロン様だってロザリア様より私のが婚約者にふさわしいって言ってくれたし。アロン様が言ってくれたんですから、ロザリア様と私を交換してくれるのでしょう?」
首を傾げながら、聞いてきます。
「それで今日呼ばれたんですよね?」
「「「…」」」
絶句してしまった周りを見回し、また首を傾げるリリアだった。