3. EL SALVADOR
エル・サルヴァドル
夕方の蜀黍畑が燃え上がる赤くクロくに大地裂けよと
甘あまと舌はとろける褐色の唐黍蒸して日が暮れてゆく
老いた手が織ってながながとりどりの鳥や女神やこの地降り立つ
土くれを浅黒き手の手折りたる瞬き見れば神すがた在る
老人が掘りかえす土くろぐろと匂いみどりにこころ躍れる
グアテマラは鶏のおたけび朝に満ち家あかい壁うしろ火山
似ているね我が富士の山そのままのあれも火山よ水の火山
目に刺さるとりどりに色醒めわたる家屋根向こう水の火山が
みどり静翡翠水盤水鏡あかき花落つブーゲンビリア
瞼、雨。みどりを洗うスコールの青き晴れ間に木漏れ日の燃ゆ
青、みどり梢を踊る白い猿古い碑声もとどかぬ
きれぎれに唄う声とは覚えても眠気に似たる古き御詠歌
朝ぼらけ彗星の尾を庭に立ちマンゴーの枝、簾にしてみる
暗がりのねむけ抱えて今朝もまたキューバのコオヒィまっくろけ
スコールは洗い流すかキリストの途絶える事無き苦しみを何時
ナミダ涙に苦悶なり基督の木のかんばせを抱いて祈ろう
十字架に血まみれ何百年を見て救世主かわく私は、乾く!
しあわせな時間を此処に抱いているしんなりとして暖かき腕
木彫りとは知っていつつも手を伸ばす濡れた瞼に血塗られた頬
なつかしくあふれる心で、叫ぶんだもう無い生家も、勝ちとった郷も
我が生の締めくくりよと南指し白髪頭で身ひとつで征く
救世主あなたを忘れぬ我うたう乾かぬ舌の片恋の月
忘れたいこの日の本で生きるなら彼方のことは熱き日の夢
救世主を頭に立てるあの国へ二度とは立て得ぬおのれ哀しく
こころにはサルヴァドールが焼き付いて燃えるひととせ永遠に連れ行く
人間と自分をくくり見るならば我は選ぶか南国の日を
還りたい叫ぶおのれを押さえかねあの庭で呼ぶ池のムラサキ
おれはつかむ耳をすませばまだ届くすべて色持ちはなばなしきを
青春と言うはやさしき幾年の染めこまれたる匂い豊かか
中米へいのち駆けよと旅立った血潮を青く今も持ち生く
わたしには祈りの言葉は在りませんそれでものばす彼方たすけて