商業都市エルシュガ6
途中、ロクドウと同じような用心棒と思われる人物が襲ってきたが、ベックが全て防ぎ切り、俺が蹴り飛ばしてやった。
どうやらロクドウは用心棒の中でも別格の存在であり、重宝されていたとのこと。正直あの魔法にはずいぶん手こずらされたから納得だ。だが用心棒一人に裏切られて壊滅寸前まで追い込まれるとは、組織として脆すぎないか?
そんなことを考えていると、エルフたちが捕まっている部屋にたどり着いた。重厚な扉は役に立たない構成員たちの最後の砦と言ったところか。
「こんな扉、紙みたいなものだよ」
ベックの一振りで扉はあっけなく壊される。余りにもうまくいきすぎて、逆に不安になってきた。
罠を警戒しながら部屋に突入する。中は鉄格子に遮られた牢獄になっており、エルフの女性たちが何人も閉じ込められていた。
俺達が入って来たのに気づくと、怯えるように後ずさる。
「警戒しなくていい、俺たちはお前たちを助けに来たんだ。ヒナってやつの頼みでな」
「ヒナちゃん⁉ ヒナちゃんは無事なの⁉」
「俺たちが助けた。今は昼寝でもしているだろうよ」
エルフたちは安心したように胸を撫で下ろしていた。
ちなみにヒナっていうのは売られていたエルフのことだ。一応名前を聞いておいてよかったぜ。
「これから檻をぶっ壊すから離れていろ。ベック」
「あいあいさー」
ベックが扉を破壊する時と同じように斧を振り上げる。
「ッ! 危ない!」
エルフたちが叫ぶと同時に、ベックの巨体が鉄格子に叩き付けられる。金属音が響き、衝撃で鉄格子が大きく歪んだ。
「俺様のコレクションに手を出そうとは、いい度胸じゃないの」
壊した扉を通って一人の人物が部屋に入ってきた。
濁った銀髪をオールバックにし、無精ひげを生やした痩せこけた男だ。光を宿していない黒い瞳が、面倒そうにこちらを見つめている。
「……ついにボス自らがお出ましか」
「お前は確か、ロクドウだっけ? お前のせいで、せっかく捕まえた奴隷たちがみんな逃げちゃったよ」
おどけるように奴隷商会のボスは肩をすくめる。一見隙だらけのように見えるが、その実隙がまったくない。
他の奴らも同じように感じているのだろう、ベックは起き上がってから油断なく敵を見据え、ロクドウは額に汗が見える。
エルフたちも息を呑んで、見守っていた。
「逃げた奴らはいつでも採れるからどうでもいいけど、ここにいるレアものは採るのが面倒だ、これ以上無くなったら困るんだよね」
「お前、こいつらを物のように――」
「物だ、俺様以外は等しく物なの。俺様を楽しませる道具に過ぎないんだよ」
「このカスが‼ 地獄に落ちろ!」
「待て!」
ロクドウが怒りのまま茨を放ちボスを狙う。だがボスはどこからともなく短剣を取り出し、最低限の動きで切り裂いてしまった。予想通り単純な攻撃はまるで通用しない。
「お前たちは勇者様の仲間だろ? もっと楽しませてくれよ!」