商業都市エルシュガ5
「ここが奴隷商会本部だ」
俺たちはエルフを婆さんに預け、ロクドウと共に奴隷商人たちの本拠地にたどり着いた。
ちなみに、あの奴隷商人は婆さんがしかるべき対応をしてくれるらしいので任せておいた。
奴隷商会本部は、なんとこの町の地下にあった。迷宮のように入り乱れた路地裏にある、マンホールが入り口になっていたのだ。ベックの巨体も入れるような不自然なマンホールなのだが、模様に見えるよう丁寧に細工が施されている。
「いわゆるエルシュガの闇だ。表向きは活気のある商業都市だが、本当は奴隷商会が牛耳るどす黒い町なんだよ」
「町の事情なんて知るか。さっさと行くぞ」
マンホールをどけ、階段を降ると本部はすぐそこだった。
松明で薄暗く照らされているため、全貌は見えないが城のように巨大な建物だ。入り口では門番らしき男が二人左右に立っている。
侵入するために、用心棒として顔が効くロクドウを向かわせた。裏切ったら婆さんにちくると言ったら喜んで引き受けてくれた。
「ロクドウの兄貴、お疲れ様です。お一人ですか?」
「何やら用があるみたいでな、俺だけ先に帰還した」
「畏まりました。それでは客室でお待ちください、次の商人を向かわせます」
「ああ――」
門番を横切る瞬間、ロクドウは首筋に素早く手刀を放ち意識を刈り取った。それを合図に俺たちも突入する。
中に入った瞬間大勢の人間が目に入った。首輪を付けられたみずぼらしい服装の人達と、先ほどと同じように豪華なスーツを身にまとったいけ好かない連中だ。どうやら奴隷のオークションが行われていたらしい。
突然の事態に対応できないスーツの男たちを片っ端からぶちのめしていく。
「いいねえ、やっぱり力を振るうのは最高だ」
「無駄口叩く暇があるなら一人でも多くつぶせ」
ベックが斧を振るった風圧だけで何人も吹き飛んでいく。なるべく殺さないようにしておけと言ってはあるが、あれでは無理だろうな。アイリの馬鹿は、ここでも謝りながら連中を聖剣で気絶させていた。
この部屋は瞬く間に制圧することができた。だがエルフらしき存在は見当たらない。どうやら別室のようだな。
「おい馬鹿」
「もしかして私?」
アイリが目を点にして自分を指さしている。まさか自覚がなかったのか?
「お前に決まっているだろうが。ここにいる奴隷たちを逃がしやがれ、俺達三人はエルフの仲間を探してくる」
「私も行くよ⁉」
「気に入らないが、勇者の言うことならこいつらも聞くだろう。これはお前しかできないことだ、頼むぜ」
「……えへへ、そこまで言われたら仕方ないなー。私頑張るよ!」
アイリは顔を赤くしながら奴隷たちに声を掛け始めた。とろいあいつを頼るのは癪だが、この中では唯一の適任だろう。俺はビビらせるだけだし、ベックは面倒くさがる。ロクドウは論外だ。
「近くにいた奴を拷問して場所は吐かせた。行くぞカスども」
ロクドウの下でスーツの男がすすり泣いていた。こいつが何をしたのか一瞬気になったが、すぐ切り替える。
そんな無駄なことに時間を浪費する余裕はない。俺たちはアイリ達を背にロクドウが聞き出した場所へと向かった。