商業都市エルシュガ3
ローブの男は俺達の足元から、丸太程の太さを持つ茨を生やし、鞭のように振るい始めた。アイリは防戦一方で身動きを取ることができない。それを見てローブの男は笑みを深めた。
手も足も出ない――そう錯覚しているのだろう。
アイリは俺とエルフを庇うため、前に出ていないだけだ。自分が傷付くより、仲間が傷付くことに痛みを感じる。こいつはそんな馬鹿だ。とろいくせにそこだけはしっかりしてやがる。
――そういうところが気に入らない。
こいつに守られるだけなど、反吐が出る。どうにか打開策を模索せねば。
「‼」
何気なくエルフに顔を向けると、びくっと体を震わせる。そもそもこいつをどうにかしないと話にならないな。
ぴしり……
突然背後から聞こえた音に振り向くと、茨に微かだがひびが入っている。
ローブの男はアイリに集中しており、こちらを見ていない。
身体でひびを隠し、様子を見ていると斧が茨を突き破って来た。
「やっと開いたよ」
「ベック!」
僅かな隙間からベックが顔を覗かせる。こいつ腕力で茨を突き破ったのか、何て馬鹿力だ。
だが渡りに船とはこのこと、ベックに穴をさらに広げる指示し、そこからエルフを押し込んだ。
「この子無事だったんだね」
「話は後だ。先にあのローブ男をぶっ倒してくる」
アイリは膝を着き、肩で息をしている状態だ。
対してローブの男は勝利を確信しているのか高笑いをしており、俺が近づいても笑みを深めるだけだった。
「そういえば貴様がいたな。エルフのガキはどうした?」
「お前がこいつと遊んでいる間に逃がしてやったよ」
「手間が一つ増えたか。まあいいだろう、お前の運命は決まっている。見ろ、そこで膝を着く無様な勇者を! 俺の力を前に手も足も出なかった哀れな小娘だ」
「……自惚れもいいところだ。お前、道化の才能があるぞ?」
ローブ男から笑みが消える。自尊心の塊のようなこいつには、軽く挑発するだけで効果てきめんだ。
思った通り、わなわなと怒りに震え、茨で俺を狙い始めた。
「貴様のようなカスと俺では、天と地ほどの差があるのだ。二度とその口が開けぬようにしてくれる!」
俺はアイリから離れるため、広場を回るように駆け出した。茨が行く手を遮ろうと幾本も生えてくるが、俺の早さには遠く及ばない。
地面から生えてくる茨は衝撃で大地を易々と砕く。もし当たればひとたまりもないだろう。
その代わり動かせる本数に限度があるらしく、基本的に二本、おおざっぱな動きは三本の茨を使用している。
そのため短剣で受け止めるようなことはせず、ひたすらかく乱することに専念した。
「この! カスの分際でちょこまか動くな!」
ローブの男は冷静さを欠き、俺を捉えることだけに集中しているようだった。
――つまり隙だらけになっている。
「えい!」
「がはー!」
背後からこっそり近づいているアイリに気づかなかったローブの男は、聖剣の柄で後頭部を殴られ倒れ伏した。