商業都市エルシュガ1
旅を始めてしばらく経ち、俺たちはとある町にたどり着いた。
――商業都市エルシュガ。
物をそろえるならエルシュガに行けと言われるほど豊富な物資が揃っており、それ求めて多くの人が集まり流通の要となっている町だ。
とりあえず、勇者だからとアイリに群がる奴らを追い払うことから始めた。
俺とベックが睨みを効かせれば大半の奴は逃げていく。勇者の栄光にあやかりたいだけの三下だ。そんな奴らはいても困る。
アイリの馬鹿が必死でフォローしているが、仲間になろうと言う奴はいなくなっていた。満足していた俺の肩をアイリがぽかぽかと叩いて来る。
「どうしてそんないじわるするの? 驚かせる必要なんてないよ!」
「なら一人ずつ丁寧に断っていくのか? んなことしていたらきりがねえんだよ。そもそもお前の言うことなんて聞かねえよ」
アイリはしゅんとした表情で「でもぉ……」とぶつぶつ言っている。いい気味だぜ、その顔が見たかった。
「アイリ様、こいつはこう見えて気を使っているんですよ? 少しでもアイリ様の時間を増やすために頑張っているんです」
「ビルくん……!」
無理やりいい方向に解釈しようとするな、勘違いするじゃねえか。見やがれ、馬鹿みたいに目を潤ませてやがる。
一々抱き着いて来る馬鹿を振り払い、必要な物資を購入していく。
荷物持ちが一人増えたとはいえ、旅を続けるにはそれなりの量が必要になる。俺はベックと別れ、アイリを連れて買い物を続けていた。
「ビルくん、私に手伝えることはない?」
「何もしないことが一番の手伝いだ」
「ひどい」
道端でいじけるアイリを無視し、買い物を続ける。
このドジに以前手伝わせた際、俺の負担が二倍になったので何もさせないのが一番だ。
「ビルくん、あれ!」
突然アイリが何かを発見したように声を上げる。
見ると婆さんが袋からこぼれた果物を拾っていたが、周りの奴らは見て見ぬふりだ。
賑やかなくせに寂しい町だな、おい。
「おい、婆さんは休んでろ」
「え、貴方達は?」
「私たちのことは気にしないでください。全部拾ってあげます」
二人がかりでさっさと終わらせる。
婆さんからは感謝の印としてりんごを一つ貰い、そのまま別れた。
家まで持って行ってやろうとしたが、すぐ近くだったので見送るにとどめた。