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エピローグ

 あれから数年の月日が流れた。

 故郷に戻った私はみんなに祝福されたけど、ビルくんの死を惜しむ人はいなかった。

 つらくなった私はすぐに故郷を飛び出した。


「厳しいかもしれないが、それ以上自分を責めなさんな。あいつだって、アイリ様の泣き顔なんて見たくないはずですよ」

「私の泣き顔を見て喜んでいました……」

「……そう言えば、そういう奴でした」


 椅子に座ったベックさんが困ったように頬を掻く。

 あの後、あてもなく町を行き来していたころベックさんと再会した。モンスターが消え、傭兵としての役割を失ったベックさんは町長になっていた。有名だからと無理やりさせられたら思った以上にやりがいを感じてしまったとのこと。

 大勢の人に囲まれて頼りにされているベックさんはまぶしかった。私たちと旅をしていたころと同じだ。

 この家まで貸してもらい、本当に頭が上がらない。


「あいつがいなくなってつらいのは皆同じです。だけど、何時かは歩き出さなきゃいけない」


 ベックさん言葉が胸に突き刺さる。

 メリーさんはエルフの村の発展に協力し、ミツキちゃんは竜の里で勉強の最中だ

 あの時から時が止まったのは私だけだった。


「この家はずっと貸しますので、ゆっくり考えてみてください。相談ならいつでも乗ります」

「……ありがとうございますベックさん」


 私は一礼し、逃げるように家を飛び出した。


――――

――


 ビルくん。

 故郷で勇者ではなくアイリとして接してくれた唯一の人。


 一緒に遊んで、楽しんで、そのせいでいっぱいつらい思いをしたのに、いつも支えてくれたね。


 貴方は私の恩人です。


 だけど私が死のうとしたときは止めたくせに、自分はあっさりいなくなっちゃってずるいよ。

 

 私はビルくんに怒っています。だから――


「今から会いに行くね」


見下ろせば青い海が広がっている。この断崖から飛び降りれば彼に会えるだろう。

怒られるだろうけど、それと同じぐらい私も怒っているの。


 ごめんね、みんな。平和になったけど、ビルくんのいない世界は耐えられないよ。


「馬鹿が。お前がとろいからこっちから会いにくる羽目になったじゃねえか」 


 聞こえるはずのない声に振り向く。

 その瞬間、枯れていたはずの涙があふれ出した。


「あ……ああ……」


 唇が震えて声が出ない。

 私は無我夢中で走り、飛びついた。私を受け止めきれず、倒れた彼を精一杯抱き締め、ぬくもりを感じる。


「お帰りビルくん」

「ただいま……鬱陶しいから離れろ」

「辛辣―‼」


 それが精いっぱいの照れ隠しであることは私にもわかった。だってそっぽを向くビルくんの耳真っ赤だもん。


「でも離れてあげない! しばらく離さないからねー!」

「ちっ、やっぱりお前は嫌いだ!」

「私はビルくんが好き!」


次回で完結です

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