新たな仲間
「ビルくん後ろ!」
「お前に言われなくてもわかっている!」
俺は振り向き背後から迫る犬型のモンスター、マッドドッグを短刀で切り裂いた。
切り裂かれたマッドドッグは闇に溶けるように消滅していく。
辺りに静けさが戻った、どうやら今のが最後の一匹だったらしい。
額の汗をぬぐっていると、アイリともう一人が駆け寄って来た。
「お疲れ様ビルくん」
「いやあアイリ様は別格だが、あんたもずいぶん強いんだな。見直したよ」
アイリ共に俺を労う鎧を着こんで肌を一切見せない大男。
こいつの名前はベック。俺達の旅に加わったあんぽんたんだ。
町に付いた俺たちは物資を補充するために商店を巡っていたのだが、当然勇者であるアイリは目立ち、多くの人が話しかけて来た。
その中で仲間にしてくれと頼み込んでくる馬鹿はいたが、喧嘩を売ってきた大馬鹿はこのベックだけだった。
町で有名な傭兵だったベックは、このような可憐な少女が勇者なわけがないとアイリに決闘を申し込んできたのだ。
アイリはそれを了承し、俺はあいつの負ける姿が見られるとうきうきしていた。
大観衆を前に広間で行われた決闘だが、結果はアイリがベックを瞬殺。あいつがこちらに笑顔で手を振る姿に内心舌打ちした。
決闘に敗北したベックは旅に同行させてほしいとアイリに懇願し、仲間に加わった。
他の奴らも付いてきたそうにしていたが、ベックが斧を振り上げると皆押し黙った。
そして、旅を再開したところでモンスターと遭遇し、今に至ると言うわけだ。
「ここから先はさらにモンスターが増える。アイリ様は心配ないが、お供であるあんたの強さは未知数だったからな。知れてよかったよ」
「少なくともお前よりかはつえーよ」
「言ってくれるねえ。一勝負するかい?」
「ストップ! 仲間なんだから喧嘩しちゃダメです!」
一触即発の雰囲気だったが、アイリのせいで興がそがれた。
ベックも同じらしく、獲物である斧を地面に突き刺していた。
「仕方がない。ならば次に出会ったモンスターたちを多く倒した方が勝ちって言うのはどうだい?」
「異論はねえよ。どうせ勝つのは俺だしな」
「ストップ! ストーップ! もーどうしてこうなっちゃうの⁉」
「じょ、冗談ですよアイリ様」
俺は泣きかけのアイリを前に狼狽えるベックを見て笑ってやった。
あんだけボロカスにされたんだ、そりゃあ頭が上がらねえよな。
しばらくたじたじになっているベックの反応を楽しめた。
ちなみにベックはテントの外で、俺は変わらずアイリと一緒にテントで寝ることになった。
反論はしたが、こいつの泣き顔を見られて満足したからまあいい。
「あんた、本当にちょろいなあ……」
ベックが外で何かを吐いていたが、焚火の音でよく聞こえなかった。