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邪竜領域7


「アアアアアアアアアッ‼」


 ミツキの雄たけびが洞窟内に響く。

 黒く染まっていた身体は白く輝き、光を取り戻した。


「ミツキちゃん!」

「正気に戻ったのかい?」

「みんなすまない、もう大丈夫だ」 

 

 ミツキの体が光り、人の姿に戻る。

 体中傷だらけだが、瞳は以前より力強く輝いている。

 

「ミツキちゃん……」


 メリーが意識を取り戻したようだ。

 アイリが肩を貸し、おぼつかない足取り支えている。

 

「メリー、すまない私のせいで――」

「いいのよ、ミツキちゃんが無事でよかったわ」

「っ、ありがとう……みんな、あいつを倒すために力を貸してくれ。これ以上、兄さんみたいな悲劇を起こさないために--」

「んなこと一々聞くな、俺たちの答えは決まっているだろうが」 

 

 横目で見ると、全員頷いている。

 ミツキも頷いた後、無表情を歪ませたジークと向き合う形になった。


「そんな……心を取り戻した……? どうして……? 完全に砕いたはず……!」

「もうさっきまでの私とは違うぞ」

「……仕方ありません……役に立たないならただのゴミです……ここで処分……新たな素体探しましょう……」

 

 ジークが指を鳴らすと、周囲の檻が全て弾き飛び、中から大量のダークドラゴンたちが姿を見せた。

 それらは双頭だったり、一部が巨大化したり等自然な姿ではなく、ジークの意図的な改造が加えられていた。


「……最強の邪竜作るための実験体です……お前たち殺すには十分でしょう……か?」


 確かに普通のダークドラゴンより強そうだ。だがそれで俺達を倒すには十分だと?

 ――侮りすぎだ、馬鹿が。


「行くよ、みんな!」


 アイリの一声で俺たちは突撃する。

 襲い来る改造ダークドラゴン達。 

 巨大な爪はベックが受け止め、火球はメリーが魔法壁ではじき返す。そしてアイリの聖剣が立ちふさがる全てを切り裂いた。

 改造ダークドラゴン達が瞬殺されていき、ジークの表情がさらにゆがむ。


「……貴様ら……いい加減に目障り……です」


 ひび割れた天井に魔法陣が出現し、新たなダークドラゴンたちが次々と生まれ落ちてきた。

 こいつは本元を叩かないときりがないパターンだな。


「アイリ‼」

「――わかったよ! ビルくんとミツキちゃんは先に行って‼」


 ミツキと並び、ジークの元へと駆けって近接戦闘に持ち込む。

 そして二人で一斉に攻撃を開始した。


 ジークもさすがに魔王軍の一員だけのことはあり、身体に付けられた拘束具を器用に振り回してこちらの攻撃をいなしていく。

 そのうえ、手から放たれる黒い電撃はミツキすら一撃で倒す威力を持っている。その身に受ければ命の保証はない。

 

「……何故最強になることを拒むのです? ……お前なら……きっと魔王さえも――」

「もとより最強になど興味はない。私を必要としてくれた人のために、この力を振るおう」

「……理解不能……です……」

 

 ミツキとジークが激しくぶつかり合う。その隙を狙って俺はジークめがけて飛び上がる。

 咄嗟に放たれた黒い電撃は体を捻って躱し、顔面に膝を叩き込んだ。


「ぐひ……」


 ふらついたジークのみぞおちにミツキの正拳突きが炸裂、さらにそこから目にも止まらぬ速さで連撃が繰り出される。


「あがががががががががががが……」


 そしてとどめの一撃が顎を砕き、ジークの体は宙を舞った後、地面に力なく落下した。


「……私が干渉した後より……力が増して……いる? ……そうですか……これが……心の強さ……理解……でき……ました……」


 その言葉を最後にジークはこと切れた。

 黒い瞳はもう何も映していなかった。


「兄さん……仇は取ったよ」

 

 魔法陣が消滅し、ひび割れていた天井が音を立てて崩れ始める。

 すぐさまアイリ達と合流し、洞窟を抜け出した。



 洞窟のあった山は崩れ落ち、ジークの研究所は消滅した。

 これでもうダークドラゴンが増えることはないだろう。


 俺たちはニコの亡骸を埋めていた。

 本当なら里に作ってやりたかったが、移動させる余裕もない。こいつには散々迷惑をかけられたんだ、簡易な墓でも文句は言わせねえ。

 ――だがせめてあの世では安らかに眠るといい。


「みんな本当にありがとう。あれだけ迷惑をかけた上に兄の墓まで作ってもらって――良ければこれからも一緒に戦わせてくれないか?」

「もちろんだよ!」

「いやあ一時はどうなるかと思ったけど、ミツキが無事でよかった」

「本当ね、これまで通り魔王討伐を目指すわよ」


 アイリ達に囲まれ、もみくちゃにされる中でミツキは笑いながら泣いていた。


 ああいうのに混ざると面倒だ、そう思って離れようとするが服の裾を掴まれる。

 振り返るとミツキが立っていた。


「ビル」

「あん?」

「そ、そのぉ……だな。こ、これからも、一緒にいてくれると、うれしい……と思う」


 なんだ? いつもと違ってしどろもどろな言い方しやがって。

 顔も赤いし熱でもあるのか?


「ビルくん?」

「ビルちゃん?」


 どうしたお前ら、何だか目が据わっているぞ。


「やれやれだよ」

 

 おいこらベック!

 見てないで助けやがれ!


 その後、何故か三人にもみくちゃにされた。

 ふざけんなよ、俺が何をしたって言うんだ⁉



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