邪竜領域6
唯一の家族である兄は私の憧れだった。
感情を読み取る力が弱いことを理由にどれだけ蔑まされても、明るく元気で公平な姿はまぶしく、引きこもりがちで他者との関わりがほとんどなかった私とは正反対だった。
そのため長老から、兄が次期村長候補に選ばれたと聞いた時は誇らしかった。
心の試練も難なく突破できる――兄が消えるまではそう思っていた。
何度も探し続けたがついに見つかることはなかった。
突然兄が消えたことで本当に私が村長候補になってしまい、厳しい生活をすることになった。
長老と生活を共にし、村長に相応しい礼儀作法を学んでいく。自然と口調も厳格なものに変わっていった。
それでも自分では考えを隠しているつもりなのだが、長老からはわかりやすすぎると言われた。腑に落ちなかったが、あまり他人と話をしてこなかったから仕方ないと自分を無理やり納得させた。
兄が姿を消してから数年後、ダークドラゴンが里を襲うようになった。協力して対処を続けていた、多くの命を失う長い戦いになり、皆疲れ果てていた。
そんな時、彼女たちが現れた。
彼女たちと協力して戦う中で、付いていきたいという想いが芽生えた。助けになりたいという想いも本物だけど、本当は彼女たちと一緒なら兄を探し出せると考えたのだ。
――ようするに、私は彼女たちを利用した。
そして、長く苦しい旅の中でようやく兄を見つけた。
戦って和解し――殺された。
私は全てを失ってしまった。
心の中が復讐心で満たされ、戦いを挑んだが何もできずに敗北した。
その時点で私の心は砕けていたのだろう、なすすべもなく自我を奪われ、邪竜へと身を落とした。
意のままに操られ、仲間を傷つける――なんて無様な姿だ。
こんな生き恥をさらすぐらいなら――
「うおらああぁぁ‼」
真っ暗だった世界にひびが入り、誰かが落ちて来た。
まさかビルか?
「あん、何だここは? 俺はミツキをぶん殴っていたはずなんだが……」
人の体になんてことを――いや、そんなことよりも、まさか私の精神世界に入り込んできたと言うのか?
「ごちゃちゃうるせえ。わざわざ連れ戻しに来てやったんだ、早く帰るぞ」
――私は、行けない。むしろここで殺してくれないだろうか?
「ハア?」
私は兄を失って暴走し、お前たちを傷付けた。
もう疲れたんだ、みんなを傷つける前にここで眠らせてくれ。
「お前、それ本気で言っているのか?」
そうだ、もう私に悔いはない。
「この馬鹿野郎が‼」
あ痛っ‼
何故殴る⁉
「いいか、お前のそれはただの自己満足なんだよ! 誰もお前の死なんて望んでねえ、めんどくせえだけだ!」
しかし――
「さっきも言ったがごちゃごちゃうるせえ! まだお前が必要なんだよ!」
っ‼
――こんな私でも、まだ必要としてくれるのか?
「お前がいねえと移動が不便なんだよ、あの鈍間も泣いて鬱陶しくなるだろうしな。わかったならさっさと帰るぞ」
私は自然と彼の伸ばす手を取っていた。
「――ありがとう」
彼はそれに返事をすることはなかった。
だが、逆にそれが彼らしいと思えた。




