邪竜領域5
「どうして……」
誰もが呆然とし、動けなかった。
先ほどようやく和解を果たした兄妹。その兄の命があっけなく失われてしまった。
ミツキの涙がニコの顔に落ちる。
その瞳が開くことはもうない――
「誰がこんなことを――」
「……ご苦労様でした……」
聞き覚えの無い声の方へ振り向けば、痩せこけたローブ姿の少年が立っていた。
その体はあちこちが鎖などの拘束具で縛り上げられており、不気味さを醸し出している。
ただの人間ではないことは一目瞭然だ。
「……見つけました……お前は逸材ですね」
「何を言っているの?」
アイリの言葉を無視し、少年は濁り切った目でミツキだけを見つめていた。
「ミツキ、こいつの感情はわかるか?」
ミツキは目を細めるが首を横に振る。
少年は何を考えているかもわからず、意味不明なことをぶつぶつと言い続けている。
「お前のこと……この領域に入ってからずっと見てきました……さっきのゴミとは違い……素質在ります」
ミツキが感じ取った視線はこいつのだったのか。
感情を読み取ることもできないなんて明らかにやべえ奴だ。
切りかかろうと短剣を構えるが、その前にミツキが一歩前に出る。
「待て、ゴミとは誰の事だ?」
「決まっています……そこに倒れているゴミです……使えないから処分したです……」
少年は無感情に横たわるニコの亡骸を指さす。
その瞬間、ミツキはキレた。
「貴様ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああッ‼‼」
「よせミツキ‼」
俺の静止も聞かず、ミツキは絶叫しながら襲い掛かった。
対する少年は微動だにせず、口元を歪ませながら手をかざす。
「好都合……お前いただきます」
「っ! アがああああぁぁああああああああアアアアアアアアアッッッッ‼」
少年の手から黒い電撃が放たれ、ミツキは悲鳴を上げながら地面に倒れた。
俺達はすぐ助けようと動くが、それを遮るように並列に木が生えてくる。
あいつも魔法使いか‼
「私……邪竜領域の管理者……ジーク言います……いい素体入ったから……見逃してやる……また会いましょう」
「ミツキちゃあああああああああああああああああああん‼」
あっという間に二人は飛び去ってしまった。
アイリは膝を折って両手で顔を覆っている。
ベックは悔しそうに木を殴り、メリーも暗い表情で俯いていた。
――ったく、うじうじする余裕なんてねえぞ。
そうと決まれば全員の頭を一発ずつ殴る。
恨みがましい目で見られたが、さっさとミツキを探しだすぞと言えば収まった。
そもそもミツキが移動役を担当してくれていたため、移動できる距離には限界がある。
――だが手掛かりは残っていた。
空から落ちてきたミツキの血だ、これを追えば自然とジークの場所にたどり着ける。
横たわったニコに黙とうし、俺たちはジークを追った。




