邪竜領域2
少しの休憩を終え、歩き出した俺たちはドラゴンの本拠地らしき場所にたどり着いた。
見晴らしのいい渓谷だ。幾多の洞窟の中にダークドラゴンたちが大量に蠢いている。
流石にこの数を一気に相手取るのは難しい。
「迂回するのが賢いだろうねえ」
「ああ、幸い気づかれていないようだしな」
「任せてくれ、私が道を探そう」
ミツキの指示に従い、遠回りになるが渓谷を避けていく。
今まで通り安全に突破できるはずだったのだが――
「どこに行くつもりだ―い⁉」
突如、空中から巨大な何かが落下してきた。
衝撃で砂煙が襲い掛かる。
「アイリ!」
「ぐえっ」
近くにいたアイリの頭を鷲掴みにし、しゃがませることで吹き飛ぶのを防いだ。
「痛い! ビルくん、痛いよ!」
アイリが起き上がって抗議するが、今は相手をしている余裕がない。
砂煙を吹き飛ばして咆哮するのは、ダークドラゴンを越える巨体を持つ漆黒の竜だった。
「ま、まさか――」
弱々しい声の方へ向くと、ミツキが大きく目を見開き、震えていた。
「よぉミツキー! 久しぶりだなー! お前の兄ニコちゃんだよー!」
ミツキの兄貴だと? なんで魔王領域にいるんだ?
当然ミツキ以外の皆も同じように困惑している。
事情を聞こうとしたが、それよりも先にミツキが口を開いていた。
「今まで何をしていたんだ兄さん、みんな心配していて――」
「心配だって? あいつらがこの落ちこぼれ相手にそんなことするわけないじゃないかー!」
おどけるようにニコは肩をすくめる。
「そんなことはない! 兄さんがいなくなって、どれだけ探したと思っているんだ! 私も、ずっと探し続けていたんだぞ……」
ミツキの目に涙が浮かぶ。それだけでミツキが兄を必死で探し続けてきたのかわかった。
このまま感動の再会となってほしい所だが、あざ笑う様にニコは口元を歪ませた。
「次期村長候補で、優秀なお前に俺の気持ちなんてわかるわけないよ。俺を認めてくれたのはあの方だけだ。落ちこぼれの俺を拾い上げ力を授けてくれたー! そのおかげで、今はこの領域最強の邪竜であり、ダークドラゴンのリーダーだ!」
「っ! それでは、里に攻撃を指示していたのは――」
「そう! 全部俺だよー! あんな里はなくなっちゃって当然だからな!」
ミツキは言葉を失っていた。
顔面蒼白で呼吸が荒い。
「俺はお前より強くなった! 俺の方が優秀なんだ! だから、ここでぶっ殺してやるよミツキ―!」
ニコは一度咆哮してから、臨戦態勢に入る。
俺達もそれぞれ武器を構えた。
最早衝突は避けられない。
「下がっていろ……」
そんな中、ミツキがおぼつかない足取りで前に出た。
「ミツキちゃん⁉」
「おい、何考えてやがる!」
「これは私たち兄妹の問題だ! お前たちは手出しするな!」
ミツキの体が本来の姿である純白の竜へと変化する。
そして、そのままニコへと体当たりをかました。




