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エルフの里2

 食事を終えた俺たちは、家の中でこれからのことを話し合った後すぐ就寝に入ったのだが――


「うーん、ビルくうん……むにゃむにゃ」


 何故か寝付けない。いつもならすぐに眠れるのに、こんな時に限って目が冴えてやがる。

 夜風を当たれば少しは眠くなるだろうか? 俺は音を立てず、家を出ることにした。


 村の明かりは消え、月光のみが辺りを照らしている。適当に散歩してみるが、モンスターらしき声が聞こえてくるだけで、心細さを増長させるだけだった。

 仕方がないと戻ろうとするが、何やら話声が聞こえてくる。近くの民家に隠れて聞き耳をたてると、メリーとオーロラの声であることが分かった。見てみると、地面に腰かけ月を眺めていた。 


「また魔王に挑むことにしたのね?」

「勝てないって一度はあきらめたけど、アイリ様たちがまた道を示してくれたの」

「いい仲間に会えたわね。あの頃の貴方は何度も死のうとしていたから」

「そう……だったかしら?」

「そうよ、抑えるのに苦労したのよ?」


 くすくす笑うオーロラを前にメリーはばつが悪そうな顔をする。

 だが、すぐ何かを決意したように、澄んだ表情に変わった。


「今度こそ、私は魔王を倒して見せる。それが生き残った私の使命だから」

「メリー、貴方まだあの時のことを――」


 その時、森が大きくざわめきだす。草木が揺れ、何者かがこちらに迫っているようだった。

 オーロラが立ち上がり、指を鳴らすと村の明かりが一斉に点る。このような事態にも慣れているらしく、すぐさまエルフたちが集まり、臨戦態勢を取り始めた。

 俺もすぐさま一軒家に戻り、皆を叩き起こした。


「何事だい?」

「何かが森から迫ってやがる。急いで支度しろ」

「いつでも準備はできている」


 皆を連れて出るころに敵は現れた。大量の影が人のような姿をした不気味なモンスターだ。口や耳といったものは見当たらず、赤い目だけが怪しく光っている。

 ゆらりゆらりと、ふらつくような足取りで迫ってくる影に対し、エルフたちは弓矢で遠距離攻撃を開始する。だが影に弓矢が当たれど、溶けるように吸い込まれてしまった。

 それを見てメリーが火球をぶつけると、影は悲鳴を上げながら粉々になった。どうやら、物理攻撃を無効化する代わりに魔法攻撃が有効らしい。この時点で俺とベックは戦力としては難しくなった。竜であるミツキとアイリの聖剣には魔の力が宿っているので問題ない。


「魔法部隊は敵を攻撃することに集中して、他の部隊は魔法部隊を庇う様に!」


 オーロラの号令でエルフたちは陣形を整え、影を次々と撃破していく。今のところはこちらが優勢のようだが――


「敵の数が多すぎる。長期戦になれば魔法部隊がもたないぞ」

「本体を叩くしかないな。私に任せろ」


 ミツキは目を瞑り、意識を集中し始める。

 竜であるミツキは感情に機敏だ。そのため感情の強い場所、集中している場所を探し、敵の位置を知ることができる。

 ミツキは目を見開くと、影が出てくる場所と真逆を指さした。こいつらは陽動というわけか。

 俺はすぐさまその情報を皆に伝達する。


「こちらは私たちが食い止めます。皆さんはそちらを!」


 オーロラに礼を言いながら俺たちは、本体のいる方へ駆け出す。影が壁のように行く手を遮るが、エルフたちの魔法がそれを崩していく。

 向かった先では一軒家ほどの大きさがある黒い球体が待ち構えていた。メリーが先手を打つため火球を放ち、命中させる。


「ッ‼」


 球体は火球を受けてもびくともせず、佇んでいた。反撃に備え、身構えていると、球体がぐちゃぐちゃと音を立てながら形を変えていく。

 それは先ほどまでの影と違い、はっきりとした複数の人型になった。

 僧侶、武闘家――勇者の服を着た剣士。もしや先代の勇者パーティか?


「……嘘」


 メリーが驚愕するように目を見開く。顔は青ざめ、怯えるように体を震わせていた。


「メリーさんどうしたの⁉」


 もはやアイリの声さえ耳に入っていないようだった。後ずさり、情けなく尻餅を付いている。


『メリー』

「ひッ!」


 勇者の影が声を出すと、メリーが悲鳴を上げる。三人はゆっくり歩きながらメリーを目指していた。


「メリーを助けに――!」


 地面から先ほどの影が出現し、俺たちを邪魔するよう襲い掛かってくる。まずい、完全に分離させられた。アイリ達も影の多さに身動きが取れていない。このままではメリーがやられる。


『お前のせいで俺たちは死んだ』

『何であなただけ生き残っているの?』

『全部お前が悪いんだ』


 勇者の影がメリーの前で剣を振り上げる。


「い……いや……来ないで……」


 メリーは耳をふさぎ、怯え切った様子で動かない。

 俺はまとわりつく影を気合で振り払い駆け出した。


『お前もこっちに来い!』

「馬鹿野郎があああああアア!」


 俺はメリーを庇う様に、間に割り込んだ。

 背中に焼けるような激痛が走る。間に合ったが、思いっきり切られたようだ。もはや立つこともできず、うつ伏せに倒れ込んでしまう。


「あ……び、ビルちゃん」


 メリーの馬鹿は逃げることもせず、ただ茫然としていた。馬鹿野郎が、逃げなければ二人とも死ぬだろうが。


「よくもビルくんを!」


 遅れて駆け付けたアイリが聖剣で勇者の影を切り払う。影たちは再び球体に戻り、逃げるように森の中へと消えた。


「ぐ!」

「ビルちゃん! しっかりして!」


 くそ、意識が朦朧としてきやがった。身体も動かねえ。


「おい、怪我はないか?」

「え? う、うん」

「そうか、なら、いい」


 俺の意識はそこで途絶えた。

 その直前にメリーの叫びを聞いた気がした。


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